夏・二部
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相変わらず日本の夏は蒸し暑いと、紗智は思った。
日本でのデビューライブ。
さほど大きくない会場だが、ラジオがきっかけで“亘理紗智”の名は知れ渡ったらしく、各地でチケットが完売していると聞いて驚いた。
が、すぐに真実に気付いた。
知名度の広がり具合や完売には、おそらく伊達が一枚噛んでいる、と。
伊達グループそのものか、父か、あるいは――。
(……政宗くん)
ずっとずっと、片思いし続けてきた相手。
想いを告げたのは、親しい親戚の卒業式の日だった。
小十郎を頼むと言って去って行った良佳が二度と小十郎の前に帰らぬ決意であることに気付き、紗智は政宗と共に小十郎の携帯に電話をかけた。
「政宗くんしかいらないから」
その際、狂おしい程に自分を想ってくれた小十郎に電話口でこう告げると、隣で携帯の主が驚いていた。
「……お前」
電話を切ると、政宗はそれだけ言って黙ってしまった。
無理もない。紗智は、自らの想いを知られたくなくてずっと秘してきたのだから。
あまりに好きすぎて政宗と顔を合わすことすら出来ず、彼の前ではいつも俯き見方によっては怯えているように見えただろう。
今時珍しい純情ゆえの態度だが、政宗から見れば忌み嫌うがゆえの拒否行為に映っていたらしい。
性格上、煮え切らない態度の人間はイライラするということもあり、政宗は今の今まで紗智という人間を全く見ていなかったのである。
「……今言ったことは、本気」
消え入りそうな声で、ようやくこれだけ言えた。
「私、ずっと政宗くんが好きだった」
「……」
政宗は、尚も沈黙したままだ。
「返事が欲しいとか、そんなことは思ってないから。ただ、知ってて欲しかっただけ」
一息つき、紗智は笑みを浮かべた。
「ごめんね、突然変なこと言って」
「……いや」
ようやく落ち着いたのか、政宗はふっと息を吐いた。
「悪いが、アンタの気持ちに応える気はねぇ。生憎、一生の女だって決めてたヤツに失恋したばっかなんでな」
「……そっか。良佳、政宗くん振ったんだ。勿体ない」
その台詞に、政宗は小さく笑った。
「アンタ、おもしれぇな」
「思ったこと言っただけだよ?」
「そうだな」
まだ肌寒い風に肩を縮こませる。時計を見れば、打ち合わせに向かう時間になっていた。
「行かなきゃ」
「ああ」
送らせると言って、政宗は車を手配してくれた。
「亘理」
初めて、名を呼ばれた。
「な、何?」
「アンタ、もっと自分に自信持てよ。いいキャラしてんだからよ」
にっと笑った顔が、妙に印象的だった。
あの日を最後に、政宗とは会っていない。あれからすぐに渡米したからだ。
(でも、彼はいつも色んなところで力を貸してくれたわ。アメリカで当面衣食住に困らなかったのも、彼のおかげだし)
ぼんやりしていると、控え室のドアをノックする音で我に返った。
「紗智、入るぞ」
入ってきたのはかすがだった。
本来、彼女は紗智が所属するレコード会社社長・上杉謙信の秘書を勤めているのだが、国内にいる間は紗智のマネージャーとしてつくことになっていた。
「かすがさん」
「お前宛の花束が届いているぞ」
台車には、はみ出さんばかりに花束が積まれていた。
「うわぁ、素敵な花束がいっぱい!」
紗智は目を輝かせた。
「謙信さまに佐竹、……これは直接お前が持て」
指差された花束を見て、紗智は息を飲んだ。
(政宗くん……!)
両腕で抱えれば、いい香りが鼻腔をくすぐった。
「とろけそうな顔をするな。本番前だろうが」
かすがとは既に親友の域で、彼女は紗智の政宗への想いも知っていた。
「本番ったって、いつも通り歌うだけじゃない」
「まあ、そうだが……。その度胸、相変わらずだな。そうだ、お前の兄からの花が一番かさばるんだ。どうにかしろ」
出入口を見れば、通路を塞がんばかりに花が並んでいる。そこかしこに並ぶ“伊達成実”の文字が鬱陶しいと感じるほどだ。
「お兄ちゃん……」
「まるで、開店祝いだな」
「仕方ないよ。お兄ちゃん、自分の赤ちゃんが産まれた時だってお祭り騒ぎだったんだから」
かすがは、理解出来ないと言うように頭を抱えた。
日本でのデビューライブ。
さほど大きくない会場だが、ラジオがきっかけで“亘理紗智”の名は知れ渡ったらしく、各地でチケットが完売していると聞いて驚いた。
が、すぐに真実に気付いた。
知名度の広がり具合や完売には、おそらく伊達が一枚噛んでいる、と。
伊達グループそのものか、父か、あるいは――。
(……政宗くん)
ずっとずっと、片思いし続けてきた相手。
想いを告げたのは、親しい親戚の卒業式の日だった。
小十郎を頼むと言って去って行った良佳が二度と小十郎の前に帰らぬ決意であることに気付き、紗智は政宗と共に小十郎の携帯に電話をかけた。
「政宗くんしかいらないから」
その際、狂おしい程に自分を想ってくれた小十郎に電話口でこう告げると、隣で携帯の主が驚いていた。
「……お前」
電話を切ると、政宗はそれだけ言って黙ってしまった。
無理もない。紗智は、自らの想いを知られたくなくてずっと秘してきたのだから。
あまりに好きすぎて政宗と顔を合わすことすら出来ず、彼の前ではいつも俯き見方によっては怯えているように見えただろう。
今時珍しい純情ゆえの態度だが、政宗から見れば忌み嫌うがゆえの拒否行為に映っていたらしい。
性格上、煮え切らない態度の人間はイライラするということもあり、政宗は今の今まで紗智という人間を全く見ていなかったのである。
「……今言ったことは、本気」
消え入りそうな声で、ようやくこれだけ言えた。
「私、ずっと政宗くんが好きだった」
「……」
政宗は、尚も沈黙したままだ。
「返事が欲しいとか、そんなことは思ってないから。ただ、知ってて欲しかっただけ」
一息つき、紗智は笑みを浮かべた。
「ごめんね、突然変なこと言って」
「……いや」
ようやく落ち着いたのか、政宗はふっと息を吐いた。
「悪いが、アンタの気持ちに応える気はねぇ。生憎、一生の女だって決めてたヤツに失恋したばっかなんでな」
「……そっか。良佳、政宗くん振ったんだ。勿体ない」
その台詞に、政宗は小さく笑った。
「アンタ、おもしれぇな」
「思ったこと言っただけだよ?」
「そうだな」
まだ肌寒い風に肩を縮こませる。時計を見れば、打ち合わせに向かう時間になっていた。
「行かなきゃ」
「ああ」
送らせると言って、政宗は車を手配してくれた。
「亘理」
初めて、名を呼ばれた。
「な、何?」
「アンタ、もっと自分に自信持てよ。いいキャラしてんだからよ」
にっと笑った顔が、妙に印象的だった。
あの日を最後に、政宗とは会っていない。あれからすぐに渡米したからだ。
(でも、彼はいつも色んなところで力を貸してくれたわ。アメリカで当面衣食住に困らなかったのも、彼のおかげだし)
ぼんやりしていると、控え室のドアをノックする音で我に返った。
「紗智、入るぞ」
入ってきたのはかすがだった。
本来、彼女は紗智が所属するレコード会社社長・上杉謙信の秘書を勤めているのだが、国内にいる間は紗智のマネージャーとしてつくことになっていた。
「かすがさん」
「お前宛の花束が届いているぞ」
台車には、はみ出さんばかりに花束が積まれていた。
「うわぁ、素敵な花束がいっぱい!」
紗智は目を輝かせた。
「謙信さまに佐竹、……これは直接お前が持て」
指差された花束を見て、紗智は息を飲んだ。
(政宗くん……!)
両腕で抱えれば、いい香りが鼻腔をくすぐった。
「とろけそうな顔をするな。本番前だろうが」
かすがとは既に親友の域で、彼女は紗智の政宗への想いも知っていた。
「本番ったって、いつも通り歌うだけじゃない」
「まあ、そうだが……。その度胸、相変わらずだな。そうだ、お前の兄からの花が一番かさばるんだ。どうにかしろ」
出入口を見れば、通路を塞がんばかりに花が並んでいる。そこかしこに並ぶ“伊達成実”の文字が鬱陶しいと感じるほどだ。
「お兄ちゃん……」
「まるで、開店祝いだな」
「仕方ないよ。お兄ちゃん、自分の赤ちゃんが産まれた時だってお祭り騒ぎだったんだから」
かすがは、理解出来ないと言うように頭を抱えた。