春・一部
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「紗智!」
一人取り残され仕方なく構内をぶらぶら歩いていると、後ろから兄の成実がやって来た。
「あれ、一人? 良佳は?」
「教授棟に行っちゃった」
「アイツめぇ、あれだけ紗智を一人にしないよう頼んだのに! 俺の妹はこんに可愛いんだ、変な虫がついたらどうしてくれんだよ!」
「お兄ちゃん以上に変な人っていないと思うけど」
「紗智、もう大丈夫だからな! 俺がついてるから!」
「やだ、お兄ちゃんがついてきたら鬱陶しいもん」
「!!??」
最愛の妹に邪険に扱われ、傷心となった彼の元に一通のメールが届いた。
「んあ? 政からだ」
“政”という言葉に、紗智の心は思わず高鳴った。
「“教授棟の屋上にいるから来い”? 何しに昇ったんだ、あいつ」
「……行ってあげたら? 私、もうちょっとぶらぶらするから」
「そうかぁ? ホントに一人で大丈夫か?」
「大丈夫だって。今までも一人だったんだから」
ため息をつけば、成実もようやく納得したらしい。
「仕方ない。分かったってことにしとく。あ、でも昼飯は一緒しような。どうせ、まだ食ってないんだろ?」
過保護な兄に苦笑しつつ、承諾して別れた。
(いいな、お兄ちゃんも良佳も。どうして、政宗くんとあんなに簡単に話せるんだろ……)
政宗に恋慕するようになって何年になるだろう。
伊達一門が会する場で桜の木の下で佇む彼を見て以来、心はあの隻眼の少年に囚われたままだ。
思いは年を経るごとに強く、そして濃くなっていき、それを抑えるために彼の前では全く身動きが取れなくなってしまった。
政宗はそんな自分を疎ましく思っているようだが、それでいいと思っていた。
恋に溺れる無様な姿は見せたくない。見られるくらいなら、いっそ視界に入らない方がいい。
大人しく物静かな印象を持たれやすいが、本当は誰よりも熱く激しい気性であることは自分自身が一番よく分かっている。
「紗智は、女の子女の子してても中身は“男”だもんね」
良佳に言われたことがある。自分でもそう思ってたので、言われた時は思わず笑ったものだ。
特殊な出自を持つこの年上の人間も自分と同じ匂いがする人物で、ゆえにこそ共感し今の今までずっと側にい続けてきた。
例え政宗が彼女のことを想っていても、それとこれとは別問題だと言い聞かせて。
「……めんどくさ」
周りに誰もいないことを確認し、紗智はスマホが入っているがま口から煙草を取り出した。
家では絶対吸えないし、そもそも未成年だから吸うこと自体法律違反だが、自分の体に及ぶ影響などどうでも良かった。
窮屈で仕方のないこの生活に紗智は毎日苛立っていて、その捌け口として求めたのが煙草であった。
兄も知らない彼女の秘密だが、実は協力者がいる。堅物で知られるあの小十郎だ。
高校生の時、隠れて吸っているところを小十郎に見つかったことがある。政宗の教育係である彼に見つかるなど絶体絶命と思ったが、驚いたことに何も言わず、むしろ黙って一緒に煙草を吸ってくれた。以降、煙草は彼から支給され続け現在に至っている。
「紗智さま」
火をつけると、いつの間にか小十郎がそこにいた。
「“さま”は余計。ここは学校よ」
つっけんどんに返せば、だったなと途端口調を崩され苛立った。分かっていてやっているのだ、この男は。
「タチ悪」
「お前もな。その本性、いい加減外に晒したらどうだ?」
「“本性”だなんて、失礼なこと言わないで」
ギッと睨めば独特な笑い方をされ更に苛立ったが、相手にしないことにした。
一人取り残され仕方なく構内をぶらぶら歩いていると、後ろから兄の成実がやって来た。
「あれ、一人? 良佳は?」
「教授棟に行っちゃった」
「アイツめぇ、あれだけ紗智を一人にしないよう頼んだのに! 俺の妹はこんに可愛いんだ、変な虫がついたらどうしてくれんだよ!」
「お兄ちゃん以上に変な人っていないと思うけど」
「紗智、もう大丈夫だからな! 俺がついてるから!」
「やだ、お兄ちゃんがついてきたら鬱陶しいもん」
「!!??」
最愛の妹に邪険に扱われ、傷心となった彼の元に一通のメールが届いた。
「んあ? 政からだ」
“政”という言葉に、紗智の心は思わず高鳴った。
「“教授棟の屋上にいるから来い”? 何しに昇ったんだ、あいつ」
「……行ってあげたら? 私、もうちょっとぶらぶらするから」
「そうかぁ? ホントに一人で大丈夫か?」
「大丈夫だって。今までも一人だったんだから」
ため息をつけば、成実もようやく納得したらしい。
「仕方ない。分かったってことにしとく。あ、でも昼飯は一緒しような。どうせ、まだ食ってないんだろ?」
過保護な兄に苦笑しつつ、承諾して別れた。
(いいな、お兄ちゃんも良佳も。どうして、政宗くんとあんなに簡単に話せるんだろ……)
政宗に恋慕するようになって何年になるだろう。
伊達一門が会する場で桜の木の下で佇む彼を見て以来、心はあの隻眼の少年に囚われたままだ。
思いは年を経るごとに強く、そして濃くなっていき、それを抑えるために彼の前では全く身動きが取れなくなってしまった。
政宗はそんな自分を疎ましく思っているようだが、それでいいと思っていた。
恋に溺れる無様な姿は見せたくない。見られるくらいなら、いっそ視界に入らない方がいい。
大人しく物静かな印象を持たれやすいが、本当は誰よりも熱く激しい気性であることは自分自身が一番よく分かっている。
「紗智は、女の子女の子してても中身は“男”だもんね」
良佳に言われたことがある。自分でもそう思ってたので、言われた時は思わず笑ったものだ。
特殊な出自を持つこの年上の人間も自分と同じ匂いがする人物で、ゆえにこそ共感し今の今までずっと側にい続けてきた。
例え政宗が彼女のことを想っていても、それとこれとは別問題だと言い聞かせて。
「……めんどくさ」
周りに誰もいないことを確認し、紗智はスマホが入っているがま口から煙草を取り出した。
家では絶対吸えないし、そもそも未成年だから吸うこと自体法律違反だが、自分の体に及ぶ影響などどうでも良かった。
窮屈で仕方のないこの生活に紗智は毎日苛立っていて、その捌け口として求めたのが煙草であった。
兄も知らない彼女の秘密だが、実は協力者がいる。堅物で知られるあの小十郎だ。
高校生の時、隠れて吸っているところを小十郎に見つかったことがある。政宗の教育係である彼に見つかるなど絶体絶命と思ったが、驚いたことに何も言わず、むしろ黙って一緒に煙草を吸ってくれた。以降、煙草は彼から支給され続け現在に至っている。
「紗智さま」
火をつけると、いつの間にか小十郎がそこにいた。
「“さま”は余計。ここは学校よ」
つっけんどんに返せば、だったなと途端口調を崩され苛立った。分かっていてやっているのだ、この男は。
「タチ悪」
「お前もな。その本性、いい加減外に晒したらどうだ?」
「“本性”だなんて、失礼なこと言わないで」
ギッと睨めば独特な笑い方をされ更に苛立ったが、相手にしないことにした。