夏・二部
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季節はまた巡り、宮城を離れてから八回目の夏を迎えている。
良佳は加賀大の大学院を卒業後、大学の研究所に就職していた。
「……さっちからだ」
帰宅後ポストを覗けば、最近ずっと音信不通になっていた紗智からの手紙が届いていた。
『元気にしてる?今度、日本に帰ることになったの。全国ライブで金沢にも行くから、この日来れたら来てね』
紗智は、大学を中退後渡米しジャズシンガーとしてデビューしていた。
しばらくあちらを拠点に活動していたが、このたび国内デビューが決まり、凱旋ライブのため一時帰国することになったらしい。
封筒を覗けば、手紙と一緒にチケットが二枚入っていた。
「二枚……」
何故二枚なのか。言わずもがなである。
紗智は、小十郎を誘えと言っているのだ。
(生憎そんな気にはなれないよ、さっち……)
手に持ったチケットを空に揺らした。
運命の悪戯か、小十郎は去年の秋、金沢の民間研究所に期限付きで出向してきた。ちょうど、良佳が共同研究で出入りし始めた頃の出来事である。
「……まさか、お前と働くことになるとはな」
小十郎が赴任してきた翌日の休憩時間。
研究所の外にある大木の下でごろ寝をしていると、小十郎があるペットボトルを持参してやって来た。
「それは、お互いさま。……長いこと音信不通でごめん」
大学を卒業して以来、実家は勿論宮城の誰にも連絡を取っていなかった。唯一義兄である綱元とだけは連絡を取り合っていたが、それも月に一度メールを打つか打たないかの頻度だ。
「それこそ、お互いさまだ。まあ、ツナからお前が元気だって聞いてたからな。あまり心配はしてなかった」
「そっか」
小さく笑うと、小十郎はペットボトルを差し出した。
「あれ、これ……」
大手メーカーのスポーツドリンク。粉末タイプをいつも持ち歩いている愛用品だ。
「好きだろ?」
「覚えててくれたんだ」
「まあな」
ごろ寝から起きてペットボトルを受け取ると、小十郎が優しく微笑んだ。
「雰囲気変わったね。なんか、優しくなった」
「そうか?」
「うん。……彼女でも出来た?」
「それはねえな。この面だぞ」
小さく笑うその横顔はますます精悍さを増していて、頬の傷と眉間の皺さえなければ確実にもてる要素満載だ。
「相変わらず無自覚なんだね。難しい顔さえしなきゃ、兄さんは十分かっこいいよ?」
「っ……」
優しいそれが、一瞬険しくなった。
「どうかした?」
「……いや、何でもねえ」
ペットボトルを煽ると、小十郎は一足先に室内に戻ると言って立ち去った。
小十郎の態度に違和感を覚えたが、良佳はその理由を見破ることは出来なかった。
良佳は加賀大の大学院を卒業後、大学の研究所に就職していた。
「……さっちからだ」
帰宅後ポストを覗けば、最近ずっと音信不通になっていた紗智からの手紙が届いていた。
『元気にしてる?今度、日本に帰ることになったの。全国ライブで金沢にも行くから、この日来れたら来てね』
紗智は、大学を中退後渡米しジャズシンガーとしてデビューしていた。
しばらくあちらを拠点に活動していたが、このたび国内デビューが決まり、凱旋ライブのため一時帰国することになったらしい。
封筒を覗けば、手紙と一緒にチケットが二枚入っていた。
「二枚……」
何故二枚なのか。言わずもがなである。
紗智は、小十郎を誘えと言っているのだ。
(生憎そんな気にはなれないよ、さっち……)
手に持ったチケットを空に揺らした。
運命の悪戯か、小十郎は去年の秋、金沢の民間研究所に期限付きで出向してきた。ちょうど、良佳が共同研究で出入りし始めた頃の出来事である。
「……まさか、お前と働くことになるとはな」
小十郎が赴任してきた翌日の休憩時間。
研究所の外にある大木の下でごろ寝をしていると、小十郎があるペットボトルを持参してやって来た。
「それは、お互いさま。……長いこと音信不通でごめん」
大学を卒業して以来、実家は勿論宮城の誰にも連絡を取っていなかった。唯一義兄である綱元とだけは連絡を取り合っていたが、それも月に一度メールを打つか打たないかの頻度だ。
「それこそ、お互いさまだ。まあ、ツナからお前が元気だって聞いてたからな。あまり心配はしてなかった」
「そっか」
小さく笑うと、小十郎はペットボトルを差し出した。
「あれ、これ……」
大手メーカーのスポーツドリンク。粉末タイプをいつも持ち歩いている愛用品だ。
「好きだろ?」
「覚えててくれたんだ」
「まあな」
ごろ寝から起きてペットボトルを受け取ると、小十郎が優しく微笑んだ。
「雰囲気変わったね。なんか、優しくなった」
「そうか?」
「うん。……彼女でも出来た?」
「それはねえな。この面だぞ」
小さく笑うその横顔はますます精悍さを増していて、頬の傷と眉間の皺さえなければ確実にもてる要素満載だ。
「相変わらず無自覚なんだね。難しい顔さえしなきゃ、兄さんは十分かっこいいよ?」
「っ……」
優しいそれが、一瞬険しくなった。
「どうかした?」
「……いや、何でもねえ」
ペットボトルを煽ると、小十郎は一足先に室内に戻ると言って立ち去った。
小十郎の態度に違和感を覚えたが、良佳はその理由を見破ることは出来なかった。