冬・一部
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『片倉、良佳に何したの? あなたのことをよろしくって言われたわよ』
ぼんやり思っていると、再び電話に出た紗智の咎めるような口調に耳を疑った。
「よろしく、とは……」
『知らないわ、真意は本人に聞いて。……言っとくけど、私はあなたのことなんてよろしくするつもりはないわ。政宗くんしかいらないんだから』
彼女の口から初めて聞いた本心。遂に己の恋が終わる瞬間が来たのに、小十郎は何故か冷静に受け止めていた。
「……それでよいのです、紗智さま。若い貴女さまは、どうかこの小十郎のようになりませんよう。想いがくすぶっているなら、とことん表に出してぶつけて下さい。……今までの非礼、どうかお許し下さい」
『許して欲しいなら、今日中に良佳と話なさい。明日にはいなくなっちゃうわよ。……良佳だって女よ? いつまでも自分の側にいてくれるなんて思わないことね』
意味深な言葉を投げつけると、紗智は一方的に電話を切ってしまった。
寝不足の頭に、色んな情報が流れ込んでガンガン響いた。
きっと、今頃政宗は紗智の気持ちを知って驚いているだろうとか、気持ちを知った政宗はどう出るだろうかとか、紗智は実はとても気が強かったのかとか、あの二人は根本がよく似ているから気が合うだろうとか、政宗との勝負に負けた以上良佳とどうやって話をすればいいのだろうとか、どうでもいいことばかりが頭を過ぎった。
分かっていた。それら全ては、自分の本心を考えたくないがためのごまかしなのだと。
「……良佳、本当に行っちまうのか?」
遂に自分の手元から離れようとしている大事な存在を、手放したくないと思った。
気付いたら、車を飛ばしていた。
「珍しいな、お前が訪ねて来るとは」
意を決して茂庭家を訪ねると、綱元だけが家にいた。
「良佳なら、もういないぞ。予定を早めて金沢へ旅立った」
聞くより先に答えられ、言葉に詰まった。
「阿呆が、ようやく気付いたか」
「……」
「良佳を好きか嫌いかは別にして、お前はもっと早くに気付くべきだったんだよ。お前にとって、良佳がどれだけ大きな存在だったかを」
綱元の言葉は、心に深く刺さった。
紗智への気持ちは嘘ではなかった。夏、無理矢理彼女の唇を奪った時も、秋、助手席にいた彼女に欲情しかけたことも、全て嘘偽りのない自分の本心だった。
けれど、それは良佳が当たり前のように側にいることが前提の上での気持ちだったのだ。
「分からねえ。……自分で自分の気持ちが分からねえなんざ、初めてだ」
珍しく戸惑い落ち込む小十郎に、綱元は縁側へ呼び寄せ番茶を差し出した。
「気持ちなんて、誰にも分からんものさ。だから、人は失わないと本当に大切なものが分からんのだろうよ」
これまた珍しく雄弁な親戚に、身に覚えでもあるのかと尋ねればあっさりと肯定された。
「当然だ。お前より長く生きてるからな」
「そうか。……突然、悪かったな。良佳に、よろしく伝えてくれ」
「それは自分でしろ。メールも携帯番号も変わっていないからな」
小十郎はただ曖昧に視線を泳がせるだけだった。
「……これで良かったのか、良佳?」
奥にこもって二人の会話を聞いていた良佳は、小十郎が帰ってからようやく姿を現した。
「うん、いいの。ごめんね、嘘つかせて」
「構わんさ」
頭を撫でられれば、途端涙がこぼれて止まらなくなった。
自分で諦めると決めたのに、心はまだそれを受け入れられなくて。
だから距離を置くことに決めたのに、追い掛けられたら諦めようがない。
ぐしゃぐしゃな心を整えるために、良佳は泣き疲れて眠れる瞬間が来るまで延々と涙を流し続けた。
仙台に、もうすぐ春が訪れようとしていた。
ぼんやり思っていると、再び電話に出た紗智の咎めるような口調に耳を疑った。
「よろしく、とは……」
『知らないわ、真意は本人に聞いて。……言っとくけど、私はあなたのことなんてよろしくするつもりはないわ。政宗くんしかいらないんだから』
彼女の口から初めて聞いた本心。遂に己の恋が終わる瞬間が来たのに、小十郎は何故か冷静に受け止めていた。
「……それでよいのです、紗智さま。若い貴女さまは、どうかこの小十郎のようになりませんよう。想いがくすぶっているなら、とことん表に出してぶつけて下さい。……今までの非礼、どうかお許し下さい」
『許して欲しいなら、今日中に良佳と話なさい。明日にはいなくなっちゃうわよ。……良佳だって女よ? いつまでも自分の側にいてくれるなんて思わないことね』
意味深な言葉を投げつけると、紗智は一方的に電話を切ってしまった。
寝不足の頭に、色んな情報が流れ込んでガンガン響いた。
きっと、今頃政宗は紗智の気持ちを知って驚いているだろうとか、気持ちを知った政宗はどう出るだろうかとか、紗智は実はとても気が強かったのかとか、あの二人は根本がよく似ているから気が合うだろうとか、政宗との勝負に負けた以上良佳とどうやって話をすればいいのだろうとか、どうでもいいことばかりが頭を過ぎった。
分かっていた。それら全ては、自分の本心を考えたくないがためのごまかしなのだと。
「……良佳、本当に行っちまうのか?」
遂に自分の手元から離れようとしている大事な存在を、手放したくないと思った。
気付いたら、車を飛ばしていた。
「珍しいな、お前が訪ねて来るとは」
意を決して茂庭家を訪ねると、綱元だけが家にいた。
「良佳なら、もういないぞ。予定を早めて金沢へ旅立った」
聞くより先に答えられ、言葉に詰まった。
「阿呆が、ようやく気付いたか」
「……」
「良佳を好きか嫌いかは別にして、お前はもっと早くに気付くべきだったんだよ。お前にとって、良佳がどれだけ大きな存在だったかを」
綱元の言葉は、心に深く刺さった。
紗智への気持ちは嘘ではなかった。夏、無理矢理彼女の唇を奪った時も、秋、助手席にいた彼女に欲情しかけたことも、全て嘘偽りのない自分の本心だった。
けれど、それは良佳が当たり前のように側にいることが前提の上での気持ちだったのだ。
「分からねえ。……自分で自分の気持ちが分からねえなんざ、初めてだ」
珍しく戸惑い落ち込む小十郎に、綱元は縁側へ呼び寄せ番茶を差し出した。
「気持ちなんて、誰にも分からんものさ。だから、人は失わないと本当に大切なものが分からんのだろうよ」
これまた珍しく雄弁な親戚に、身に覚えでもあるのかと尋ねればあっさりと肯定された。
「当然だ。お前より長く生きてるからな」
「そうか。……突然、悪かったな。良佳に、よろしく伝えてくれ」
「それは自分でしろ。メールも携帯番号も変わっていないからな」
小十郎はただ曖昧に視線を泳がせるだけだった。
「……これで良かったのか、良佳?」
奥にこもって二人の会話を聞いていた良佳は、小十郎が帰ってからようやく姿を現した。
「うん、いいの。ごめんね、嘘つかせて」
「構わんさ」
頭を撫でられれば、途端涙がこぼれて止まらなくなった。
自分で諦めると決めたのに、心はまだそれを受け入れられなくて。
だから距離を置くことに決めたのに、追い掛けられたら諦めようがない。
ぐしゃぐしゃな心を整えるために、良佳は泣き疲れて眠れる瞬間が来るまで延々と涙を流し続けた。
仙台に、もうすぐ春が訪れようとしていた。