冬・一部
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「……さっち、あたしね、金沢の加賀大院に行くことにしたんだ。だから、明日ここを離れるの」
腕時計を見、良佳が意を決して口を開いた。
「研究内容が、あっちの方が合ってるからって理由もあるんだけどね。……仙台にいたら、色んな意味でちゃんと自立できそうにないから、だから金沢に行くの」
逃げるみたいだけどこうするしかなかったのだと言う良佳に、紗智は黙って抱きついた。
「それは、逃げじゃなくて選択よ。きっかけは何であれ、その後の道は自分で選んだんだから恥じることないわ。……私こそ、政宗くんの計画を利用して家から自由になろうとしてるもん。お兄ちゃんを身代わりにして、“亘理紗智”っていう呪縛から逃れようとしてるの。良佳が逃げだって言うなら、私だって同じよ」
きっと最後になるであろう従妹の温もりを確かめるように、良佳は腕を回した。
「ピアノ、続けてて良かったね。……あ、ジャズシンガーってことは歌うんだよね? タバコ、気をつけなよ?」
驚いて顔を上げる。
「こじゅ兄と吸ってるとこ、見たことあるからさ」
少し苦々しそうな笑みが、紗智の心に突き刺さった。
「こじゅ兄、本当にさっちのこと好きだからさ。彼のこと目で追っかけてたら、偶然見ちゃっただけ。さっち、こじゅ兄……、ううん、小十郎兄さんのことよろしくね。式、始まるから行くわ」
手をひらりと振って、良佳は足早に去っていった。
「タバコ、知ってたの? てか、“小十郎兄さん”って……、よろしくって何……!?」
困惑していると、隣にいた政宗がため息をついて携帯を渡してきた。
「あの朴念仁に、お前から発破かけてやれ。ったく、似た者同士だな、あいつら」
その一言で、紗智は良佳が小十郎に黙って去るつもりであることに気付いた。
いつもなら、卒業式の後は各ゼミの集まりの手伝いに駆り出されるため、小十郎は研究棟で呼び出しが来るまで研究に没頭するのが通例だった。だが、今年はそうする気になれず、自宅にこもりたまった本を読みふけっていた。
携帯の呼び出し音によって現実に戻され、時計に目をやれば徹夜していたことに気付き驚いた。
『片倉? 今どこ?』
政宗からの着信だったのに、紗智が出て更に驚いた。
「紗智さま……」
『質問に答えて。時間がないの』
「今、自宅ですが……」
そう答えれば、電話向こうでやっぱりと言われた。
『おい、小十郎。こんな日に家にいていいのかよ?』
続いて電話口に出た政宗からもせっつかれ、小十郎は思わずため息をついた。
「謝恩会の下準備なら、昨日のうちに済ませてあります。この小十郎が出ずとも……」
『んなこたぁ聞いてねぇよ。良佳のことだ』
「……何度も申し上げている通り、良佳のことは小十郎には関係ないことです」
『なら、何で苛付いた声出してやがる? 良佳のことが、気になって仕方ねぇからだろうが』
図星だった。
以前なら、音信不通の紗智の声を聞いた段階で、今までどこにいたのか、何故政宗と一緒にいるのか、まず先にそちらを問いただしていたただろう。今は、二人が一緒にいようが不思議と気にならなかった。
これも、心が良佳に囚われているせいなのか。
腕時計を見、良佳が意を決して口を開いた。
「研究内容が、あっちの方が合ってるからって理由もあるんだけどね。……仙台にいたら、色んな意味でちゃんと自立できそうにないから、だから金沢に行くの」
逃げるみたいだけどこうするしかなかったのだと言う良佳に、紗智は黙って抱きついた。
「それは、逃げじゃなくて選択よ。きっかけは何であれ、その後の道は自分で選んだんだから恥じることないわ。……私こそ、政宗くんの計画を利用して家から自由になろうとしてるもん。お兄ちゃんを身代わりにして、“亘理紗智”っていう呪縛から逃れようとしてるの。良佳が逃げだって言うなら、私だって同じよ」
きっと最後になるであろう従妹の温もりを確かめるように、良佳は腕を回した。
「ピアノ、続けてて良かったね。……あ、ジャズシンガーってことは歌うんだよね? タバコ、気をつけなよ?」
驚いて顔を上げる。
「こじゅ兄と吸ってるとこ、見たことあるからさ」
少し苦々しそうな笑みが、紗智の心に突き刺さった。
「こじゅ兄、本当にさっちのこと好きだからさ。彼のこと目で追っかけてたら、偶然見ちゃっただけ。さっち、こじゅ兄……、ううん、小十郎兄さんのことよろしくね。式、始まるから行くわ」
手をひらりと振って、良佳は足早に去っていった。
「タバコ、知ってたの? てか、“小十郎兄さん”って……、よろしくって何……!?」
困惑していると、隣にいた政宗がため息をついて携帯を渡してきた。
「あの朴念仁に、お前から発破かけてやれ。ったく、似た者同士だな、あいつら」
その一言で、紗智は良佳が小十郎に黙って去るつもりであることに気付いた。
いつもなら、卒業式の後は各ゼミの集まりの手伝いに駆り出されるため、小十郎は研究棟で呼び出しが来るまで研究に没頭するのが通例だった。だが、今年はそうする気になれず、自宅にこもりたまった本を読みふけっていた。
携帯の呼び出し音によって現実に戻され、時計に目をやれば徹夜していたことに気付き驚いた。
『片倉? 今どこ?』
政宗からの着信だったのに、紗智が出て更に驚いた。
「紗智さま……」
『質問に答えて。時間がないの』
「今、自宅ですが……」
そう答えれば、電話向こうでやっぱりと言われた。
『おい、小十郎。こんな日に家にいていいのかよ?』
続いて電話口に出た政宗からもせっつかれ、小十郎は思わずため息をついた。
「謝恩会の下準備なら、昨日のうちに済ませてあります。この小十郎が出ずとも……」
『んなこたぁ聞いてねぇよ。良佳のことだ』
「……何度も申し上げている通り、良佳のことは小十郎には関係ないことです」
『なら、何で苛付いた声出してやがる? 良佳のことが、気になって仕方ねぇからだろうが』
図星だった。
以前なら、音信不通の紗智の声を聞いた段階で、今までどこにいたのか、何故政宗と一緒にいるのか、まず先にそちらを問いただしていたただろう。今は、二人が一緒にいようが不思議と気にならなかった。
これも、心が良佳に囚われているせいなのか。