冬・一部
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「それに、良佳ももう子供ではありませぬ。考え抜いた末に、自分の進むべき道を選択したのでしょう」
「……本気で言ってるのか、小十郎?」
すくりと立ち上がり主は何か言いかけたが、結局言えず政宗は大きく舌打ちした。
「道場へ行く。お前も付いて来い」
有無を言わせぬ口調に、小十郎はこれから道場で行われることが何か察し軽く吐息をついた。
「とっととおっ始めようぜ」
小十郎が予想した通り、政宗が望んだのはサドンデス稽古だった。
試験前ということで道場には誰一人いないのが幸いだった。
スポーツでありながらも格式を重んじる剣道において、政宗のそれはまるで真剣を使った殺し合いのようなもので、部員たちが見ればおそらく自分のやってきた剣道とは何だったのかと考えてしまうほどの迫力なので、できれば見せたくないと思ったからだ。
「小十郎、一本勝負だ」
耳を疑った。どちらかがへばるまで打ち合うのが彼の流儀なのに、何故一本勝負なのか。
「良佳を賭けてるからだ」
「何故、ここに良佳が出てくるのです?」
「……テメェ、どこまでオレに言わせりゃ気が済むんだ」
主は本気で苛付いている。だが、小十郎も本気で理由が分からない。詫びて理由を尋ねると、
「良佳がお前に惚れてるからだ。よその院に進学する気になったのも、大方テメェ絡みだろうからな」
ずっと良佳だけを見てきたから分かるのだと、苛立ちと共に吐き出した。
「なのに、テメェときたら全く気付いてもいやがらねぇ。いや、気付いてるくせに気付いてないフリをしやがる。想われるのが当たり前だと思ってんだろうがな、そいつが気にくわねぇんだよ」
そんな風に思ったことは終ぞない。良佳が自分のような人間に想いを寄せてくれていることは当の昔から知っているが、研究に命を賭けている彼女が大事な進路を自分などのために変えるはずもない。だが、政宗にはそうは見えないのだろう。
「オレが勝ったら、お前は金輪際アイツに関わるな。アイツの気持ちを知りながら答える気がねぇなら、いっそその方がアイツのためになる」
「ためになるも何も、良佳の気持ちに応える気はこの小十郎にはございません」
「オレにゃそうは見えねぇ」
嘘偽りのない言葉に、若き主は耳を傾けてもくれない。ふいに、小十郎の心に怒りに似た感情が沸いた。
「……では、どのように申し上げればお分かり頂けるのか?」
「言葉は信じねぇ。だから、刀を交えるんだろうが」
「そのようにお心を乱しておいででは、この小十郎には勝てませぬぞ」
「Ha! オレに勝つ気でいやがるのが、尚更気にいらねぇな」
竹刀を片手で正眼に据え、隻眼で目の前の男を睨み付けた。
「オレが負けたら、良佳のことは諦めてやるよ。アイツには金輪際関わらねぇ」
そこまでする必要があるのかと問いたかったが、一度言い出したことを変えるような主ではない。ようは、自分の心に嘘偽りがないかどうかを確かめるための仕合だ。言葉が届かないのなら、竹刀で届けるしかない。
「……始めようぜ」
防具を身に付け、互いに一礼して竹刀の切っ先を合わせる。
射殺すような政宗の殺気に対し、小十郎はまるで全ての感情を捨てたように心の動きが止まっている。無我の境地に入った方が心に囚われている者よりも強い。
だが、時に欲は無欲に勝ることがある。
勝負は、一瞬にして決した。
「……本気で言ってるのか、小十郎?」
すくりと立ち上がり主は何か言いかけたが、結局言えず政宗は大きく舌打ちした。
「道場へ行く。お前も付いて来い」
有無を言わせぬ口調に、小十郎はこれから道場で行われることが何か察し軽く吐息をついた。
「とっととおっ始めようぜ」
小十郎が予想した通り、政宗が望んだのはサドンデス稽古だった。
試験前ということで道場には誰一人いないのが幸いだった。
スポーツでありながらも格式を重んじる剣道において、政宗のそれはまるで真剣を使った殺し合いのようなもので、部員たちが見ればおそらく自分のやってきた剣道とは何だったのかと考えてしまうほどの迫力なので、できれば見せたくないと思ったからだ。
「小十郎、一本勝負だ」
耳を疑った。どちらかがへばるまで打ち合うのが彼の流儀なのに、何故一本勝負なのか。
「良佳を賭けてるからだ」
「何故、ここに良佳が出てくるのです?」
「……テメェ、どこまでオレに言わせりゃ気が済むんだ」
主は本気で苛付いている。だが、小十郎も本気で理由が分からない。詫びて理由を尋ねると、
「良佳がお前に惚れてるからだ。よその院に進学する気になったのも、大方テメェ絡みだろうからな」
ずっと良佳だけを見てきたから分かるのだと、苛立ちと共に吐き出した。
「なのに、テメェときたら全く気付いてもいやがらねぇ。いや、気付いてるくせに気付いてないフリをしやがる。想われるのが当たり前だと思ってんだろうがな、そいつが気にくわねぇんだよ」
そんな風に思ったことは終ぞない。良佳が自分のような人間に想いを寄せてくれていることは当の昔から知っているが、研究に命を賭けている彼女が大事な進路を自分などのために変えるはずもない。だが、政宗にはそうは見えないのだろう。
「オレが勝ったら、お前は金輪際アイツに関わるな。アイツの気持ちを知りながら答える気がねぇなら、いっそその方がアイツのためになる」
「ためになるも何も、良佳の気持ちに応える気はこの小十郎にはございません」
「オレにゃそうは見えねぇ」
嘘偽りのない言葉に、若き主は耳を傾けてもくれない。ふいに、小十郎の心に怒りに似た感情が沸いた。
「……では、どのように申し上げればお分かり頂けるのか?」
「言葉は信じねぇ。だから、刀を交えるんだろうが」
「そのようにお心を乱しておいででは、この小十郎には勝てませぬぞ」
「Ha! オレに勝つ気でいやがるのが、尚更気にいらねぇな」
竹刀を片手で正眼に据え、隻眼で目の前の男を睨み付けた。
「オレが負けたら、良佳のことは諦めてやるよ。アイツには金輪際関わらねぇ」
そこまでする必要があるのかと問いたかったが、一度言い出したことを変えるような主ではない。ようは、自分の心に嘘偽りがないかどうかを確かめるための仕合だ。言葉が届かないのなら、竹刀で届けるしかない。
「……始めようぜ」
防具を身に付け、互いに一礼して竹刀の切っ先を合わせる。
射殺すような政宗の殺気に対し、小十郎はまるで全ての感情を捨てたように心の動きが止まっている。無我の境地に入った方が心に囚われている者よりも強い。
だが、時に欲は無欲に勝ることがある。
勝負は、一瞬にして決した。