春・一部
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棟のロビーで在室を確認し、受話器を上げる。程なくして聞き慣れた声が受話器越しに聞こえた。
「何だ、良佳か」
「何だはないでしょう、片倉先生」
軽く笑いながら済まねえと言われ、上がってくるよう言われた。
エレベーターに乗ろうとした瞬間、ドアを掴まれた。
「オレも一緒に行ってやるよ」
「……政宗。てめえ、紗智はどうした!」
思い切り顔面にパンチしたが、軽く避けられそのままエレベーターは進み始めた。
「アイツなら、どっか行くとこあるっつってたぜ」
嘘だと思ったが、エレベーターが動き始めた以上どうにもならない。そのまま乗り合わせることにした。
「で、あんたはどこ行くの?」
「同じとこだ」
「あそこは休憩場所じゃないよ」
「オレにとっちゃ同じことだ」
横暴な彼の教育係として伊達家に出入りする小十郎に、心底同情した。
「良佳」
振り向くのも面倒で目線だけ横を向けたら、あっという間に唇を塞がれた。
好きでもない男にキスをされたら、普通は抵抗するだろう。だが、良佳は抵抗するどころか目を開いたまま政宗を睨みつけていた。
「……Hey、普通kissしてる時は目瞑るだろ」
「お前とのキスなんざ、挨拶みたいなもんだろ。目閉じる労力の方が惜しいわ。あと、TPOを弁えろ」
ぐいと男らしい仕草で口を拭うと、エレベーターが目的地に到着した。
「論文のことで行くから、邪魔しないでよね」
釘をさされ、政宗は仕方なく棟の屋上へとエレベーターを進ませた。
「……ったく、ちったぁ慌てろっつーんだ」
初めて顔合わせをした五歳の時から、ずっと想い続ける片恋の相手。だが、彼女もまたある人物をずっと想い続けていて、その相手は政宗のよく知る男だった。
ノックして入れば、奥から見知った顔が出迎えてくれた。
「無事に進級出来て良かったな」
「誰に言ってるんですか、片倉先生」
「そりゃそうだな。成績優秀の茂庭に言うことじゃなかったな」
そう言うと、小十郎は眼鏡を取りソファに腰掛けた。何気ない仕草だが、小十郎に惚れ込んでいる良佳にとっては思わず見惚れる瞬間である。
「論文、出来たのか」
「……あ、はい。データ集めはこれからなので、あくまで概要としてチェックしていただきたくて」
差し出された手に論文を載せると、男らしいそれが次々と紙を捲っていく。
「……こじゅ兄、視力落ちた?」
「分かるか」
「前より、目が近いもん」
さすがにパソコン相手に仕事してたらな、と小十郎はごちた。
農学部の講師になった彼は、当初伊達のために法学部か経営学部に進学するつもりだった。複雑な家庭事情から彼を救ってくれた政宗の父・輝宗に仕えるためだったのだが、その輝宗から、
「好きなように生きろ」
と、背中を押され現在に至っている。
「趣味が高じてその道に進むなど、お前らしいな」
良佳の義兄である綱元が、小十郎に対してよく言う台詞だ。そういう綱元も、園芸という趣味を持っていて、趣味が高じて造園業に進んだのだから人のことは言えないと良佳は思っている。
「何だ、良佳か」
「何だはないでしょう、片倉先生」
軽く笑いながら済まねえと言われ、上がってくるよう言われた。
エレベーターに乗ろうとした瞬間、ドアを掴まれた。
「オレも一緒に行ってやるよ」
「……政宗。てめえ、紗智はどうした!」
思い切り顔面にパンチしたが、軽く避けられそのままエレベーターは進み始めた。
「アイツなら、どっか行くとこあるっつってたぜ」
嘘だと思ったが、エレベーターが動き始めた以上どうにもならない。そのまま乗り合わせることにした。
「で、あんたはどこ行くの?」
「同じとこだ」
「あそこは休憩場所じゃないよ」
「オレにとっちゃ同じことだ」
横暴な彼の教育係として伊達家に出入りする小十郎に、心底同情した。
「良佳」
振り向くのも面倒で目線だけ横を向けたら、あっという間に唇を塞がれた。
好きでもない男にキスをされたら、普通は抵抗するだろう。だが、良佳は抵抗するどころか目を開いたまま政宗を睨みつけていた。
「……Hey、普通kissしてる時は目瞑るだろ」
「お前とのキスなんざ、挨拶みたいなもんだろ。目閉じる労力の方が惜しいわ。あと、TPOを弁えろ」
ぐいと男らしい仕草で口を拭うと、エレベーターが目的地に到着した。
「論文のことで行くから、邪魔しないでよね」
釘をさされ、政宗は仕方なく棟の屋上へとエレベーターを進ませた。
「……ったく、ちったぁ慌てろっつーんだ」
初めて顔合わせをした五歳の時から、ずっと想い続ける片恋の相手。だが、彼女もまたある人物をずっと想い続けていて、その相手は政宗のよく知る男だった。
ノックして入れば、奥から見知った顔が出迎えてくれた。
「無事に進級出来て良かったな」
「誰に言ってるんですか、片倉先生」
「そりゃそうだな。成績優秀の茂庭に言うことじゃなかったな」
そう言うと、小十郎は眼鏡を取りソファに腰掛けた。何気ない仕草だが、小十郎に惚れ込んでいる良佳にとっては思わず見惚れる瞬間である。
「論文、出来たのか」
「……あ、はい。データ集めはこれからなので、あくまで概要としてチェックしていただきたくて」
差し出された手に論文を載せると、男らしいそれが次々と紙を捲っていく。
「……こじゅ兄、視力落ちた?」
「分かるか」
「前より、目が近いもん」
さすがにパソコン相手に仕事してたらな、と小十郎はごちた。
農学部の講師になった彼は、当初伊達のために法学部か経営学部に進学するつもりだった。複雑な家庭事情から彼を救ってくれた政宗の父・輝宗に仕えるためだったのだが、その輝宗から、
「好きなように生きろ」
と、背中を押され現在に至っている。
「趣味が高じてその道に進むなど、お前らしいな」
良佳の義兄である綱元が、小十郎に対してよく言う台詞だ。そういう綱元も、園芸という趣味を持っていて、趣味が高じて造園業に進んだのだから人のことは言えないと良佳は思っている。