秋・一部
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仙台の一角で紗智の将来が運命付けられた頃、良佳もまた将来の岐路に立たされていた。
「うーーーーーーーーーーーーーん……」
「何をうなってるんだ?」
自室で黙々と院の試験勉強に取り組んでいると、義兄である綱元が番茶を詰めた1リットルサイズの水筒を持ってきてくれた。
「ツナ兄、ありがと。自分の頭のキャパの小ささにうなってるの。何でツナ兄みたいに無限大で生まれなかったんだろ」
義妹の視線を追いかけると、床には二つの院の願書が並べられていた。
「お前、うちの院に進むんじゃなかったのか?」
「最初はね。でも、この間見学しに行って、こっちの大学にもちょっと惹かれるとこがあって。……それに、大学出たら家を出るって約束だから」
「そんなもの、律儀に守る必要はない。兄や姉も、もうこの家から出て行っている。親父も、この家に住んでいないし、気兼ねする必要はない」
「けど……」
俯く義妹の頭に手を乗せ、それならと切り出した。
「俺と一緒に住むか?俺もこの家を出たいと思ってたが、一人暮らしは色々大変だから踏ん切りがつかずにいたんだ」
「え、ツナ兄出ちゃうの?」
「お前が出るんだったらな」
「継嗣なのに」
「継嗣だからとて、家にいなければならん理由はない」
半分しか血の繋がらない自分を、己の保身のために娘を切り捨てた母ですら守ってくれなかった自分を、綱元は時に盾となって家族の仕打ちから守ってくれた。義兄はどこまでも“兄”で、だから今までこの家に留まってこれたのだ。
「……ツナ兄、ありがと」
「礼を言われることを言ったつもりはないな。しかし、お前がうちの院に進むのが同居の条件だな。あっちの院に行かれては、さすがに無理だ。俺も仕事があるしな」
真面目に答える兄がおかしくて、良佳は分かってるよと笑った。
と、そこへ携帯の呼び出し音が鳴り、画面を見て表情を険しくした。
「嫌な相手なのか?」
「うん、ある意味ね」
示された画面を見れば、綱元は成る程と苦笑した。
「お前の、政宗さま嫌いも年季が入っているな」
「しつこんだもん、こいつ! 電話出なかったら家にかけてくるし、居留守使えば家に来るし、諦めるって言うか譲歩って言葉を知らないから……」
そうこうしているうちに携帯が鳴り止み、次にかかってきたのは何と綱元の携帯にだった。
「おや、少しは知恵をお付けになったらしい」
兄の携帯を見れば、着信相手は小十郎だった。
義妹の気持ちを知る義兄は、人の悪い笑みを浮かべ電話に出た。
『ああ、綱元か。今、大丈夫か?』
「大丈夫でなければ、お前の電話になど出るか」
独特の言い回しで答えれば、電話口で小十郎が笑った。
『良佳は近くにいるか? 先ほど政宗さまが電話をかけられたのだが、出なかったと仰られていてな』
「良佳なら……」
義妹に振り返れば、顔の前で手を思い切り横に振っている。どうやら、本当に政宗に会いたくないらしい。
「さっきまでいたんだがな。携帯を置いて、ふらっとどこかへ出かけたぞ」
『お前に行き先も言わずにか? 珍しいこともあるな』
「そういおうお年頃、という奴だ。察しろ」
「……分かった」
この二人、血こそ繋がらないものの相通ずるところがあり、幼い頃から相手の言い分を少ない言葉数から拾い上げることに長けていた。今も、綱元の「察しろ」で、良佳が今は手が空いていない、もしくは拒否していると言っているのだと理解し、小十郎は早々に電話を切った。
「小十郎からで良かったな。これが政宗さまからだったら無理だったぞ」
「そうだね、ありがと。せっかく守ってもらった時間だし、しっかり勉強に使わせてもらう」
再び机に向かった義妹の肩を叩くと、綱元は静かに部屋を出たのだった。
「うーーーーーーーーーーーーーん……」
「何をうなってるんだ?」
自室で黙々と院の試験勉強に取り組んでいると、義兄である綱元が番茶を詰めた1リットルサイズの水筒を持ってきてくれた。
「ツナ兄、ありがと。自分の頭のキャパの小ささにうなってるの。何でツナ兄みたいに無限大で生まれなかったんだろ」
義妹の視線を追いかけると、床には二つの院の願書が並べられていた。
「お前、うちの院に進むんじゃなかったのか?」
「最初はね。でも、この間見学しに行って、こっちの大学にもちょっと惹かれるとこがあって。……それに、大学出たら家を出るって約束だから」
「そんなもの、律儀に守る必要はない。兄や姉も、もうこの家から出て行っている。親父も、この家に住んでいないし、気兼ねする必要はない」
「けど……」
俯く義妹の頭に手を乗せ、それならと切り出した。
「俺と一緒に住むか?俺もこの家を出たいと思ってたが、一人暮らしは色々大変だから踏ん切りがつかずにいたんだ」
「え、ツナ兄出ちゃうの?」
「お前が出るんだったらな」
「継嗣なのに」
「継嗣だからとて、家にいなければならん理由はない」
半分しか血の繋がらない自分を、己の保身のために娘を切り捨てた母ですら守ってくれなかった自分を、綱元は時に盾となって家族の仕打ちから守ってくれた。義兄はどこまでも“兄”で、だから今までこの家に留まってこれたのだ。
「……ツナ兄、ありがと」
「礼を言われることを言ったつもりはないな。しかし、お前がうちの院に進むのが同居の条件だな。あっちの院に行かれては、さすがに無理だ。俺も仕事があるしな」
真面目に答える兄がおかしくて、良佳は分かってるよと笑った。
と、そこへ携帯の呼び出し音が鳴り、画面を見て表情を険しくした。
「嫌な相手なのか?」
「うん、ある意味ね」
示された画面を見れば、綱元は成る程と苦笑した。
「お前の、政宗さま嫌いも年季が入っているな」
「しつこんだもん、こいつ! 電話出なかったら家にかけてくるし、居留守使えば家に来るし、諦めるって言うか譲歩って言葉を知らないから……」
そうこうしているうちに携帯が鳴り止み、次にかかってきたのは何と綱元の携帯にだった。
「おや、少しは知恵をお付けになったらしい」
兄の携帯を見れば、着信相手は小十郎だった。
義妹の気持ちを知る義兄は、人の悪い笑みを浮かべ電話に出た。
『ああ、綱元か。今、大丈夫か?』
「大丈夫でなければ、お前の電話になど出るか」
独特の言い回しで答えれば、電話口で小十郎が笑った。
『良佳は近くにいるか? 先ほど政宗さまが電話をかけられたのだが、出なかったと仰られていてな』
「良佳なら……」
義妹に振り返れば、顔の前で手を思い切り横に振っている。どうやら、本当に政宗に会いたくないらしい。
「さっきまでいたんだがな。携帯を置いて、ふらっとどこかへ出かけたぞ」
『お前に行き先も言わずにか? 珍しいこともあるな』
「そういおうお年頃、という奴だ。察しろ」
「……分かった」
この二人、血こそ繋がらないものの相通ずるところがあり、幼い頃から相手の言い分を少ない言葉数から拾い上げることに長けていた。今も、綱元の「察しろ」で、良佳が今は手が空いていない、もしくは拒否していると言っているのだと理解し、小十郎は早々に電話を切った。
「小十郎からで良かったな。これが政宗さまからだったら無理だったぞ」
「そうだね、ありがと。せっかく守ってもらった時間だし、しっかり勉強に使わせてもらう」
再び机に向かった義妹の肩を叩くと、綱元は静かに部屋を出たのだった。