秋・一部
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無事演奏から解放された二人は、あてもなくぶらぶらとキャンパス内を歩いていた。とそこへ、成実が思い出したようにチケットを取り出した。
「忘れてた! 今日だろ、佐竹先生の演奏会って」
チケットを見れば、既に開演して5分が経過していた。
「やべっ、入れるかな!? 行くぞ、紗智! チケット2枚あるから、お前も来い!」
兄に引っ張られる格好でホールに着けば、入口に美麗の男女が立っていた。
「失礼。亘理紗智さん、ですね」
「は、はい」
思わず感嘆のため息をつきたくなり、慌ててそれを飲み込んだ。
「上杉謙信と申します。宜しければ、少しお時間を……」
「悪いんだけどさ、俺たち中の演奏聞きに来たんだ。妹に用があるなら、それからにして欲しいんだけど?」
さりげなく紗智と謙信の間に体を滑り込ませ、成実が謙信を威嚇した。
「これは失礼。ではかすが、わたくしたちも一旦中に入りましょう。亘理さん、都合が良くなったらで構いません、こちらに連絡をいただけますか?」
謙信は美しい所作で名刺を渡してくると、側にいた女性と共に会場内へ消えていった。
「何なんだ、あの兄さん?」
「お兄ちゃん、これ……」
二人で名刺を覗き込めば、そこに書かれてあったのは誰もが知る大手レコード会社の取締役となっていた。
「何で、こんな大きい会社の人が私に用があるんだろ……」
「確かにな。……って、演奏会! 紗智、気になるけど聴きに行こう! じゃないと、佐竹先生からうちに電話が来るぞ!」
「それは困る!」
二人は本気で身震いし、音を立てないようホールに滑り込んだ。その甲斐あって何とか序盤の内に座席につくことに成功し、終了後楽屋を覗いても特にお咎めなしだった。
「あ~、何か今日は疲れたな……」
「そうだね……」
久々の師との真っ向対面に疲れた成実を気遣い、今度は自分が奢るからと紗智が鞄に触れた時、はらりと何かが落ちた。
「あ、忘れてた」
「何を……。って、そうだったな」
落ちたのは、困惑ネタにしかならない謙信の名刺である。
「どうしたらいいんだろ。あの人、都合がいい時に連絡をって言ってたから、今すぐでなくてもいいんだろうけど」
「そうだな。ま、まずはコイツが本物かどうか、帰ってからネットで調べてみよう。名刺なんて、今日び誰でも簡単に作れるからさ」
兄の意見に同意し、紗智は本日2杯目のコーヒーを口に含んだ。
成実にもカップを渡すと、何故か兄はコーヒーを噴き出した。どうやら間違えてブラックを渡してしまったらしい。苦いと連呼する兄にすぐさまカフェオレを渡し、二人して笑い合ったのだった。
翌日。
学園祭はまだ続いているが、武道系部の出番は終了を向かえたため政宗たちは大手を振るって休暇を楽しんでいた。
「ずんだ餅、美味うござるな」
仙台の街を歩いたことがないという幸村の希望を叶えるため、政宗は小十郎と三人で闊歩していた。
「しかし、これだけヤローが揃っていながら女一人いねぇってのはどういうことだよ」
「まあ、良いではありませぬか。気の置けぬ者同士、こうして歩けるのは中々ないことにござる」
好物の甘味を口にでき、幸村は上機嫌らしい。彼の言うことも最もなので、政宗は肩を竦め、今日はそういう日なのだと無理矢理納得した。
「政宗さま、あれは成実さまでは?」
小十郎が示した先に、見慣れた後ろ姿が入っていくのが見えた。
「確かに成だな。隣にいたのは妹か?」
兄妹仲の良い二人なので揃って出掛けるのは不思議じゃないが(政宗曰く、成実はこのせいで彼女が出来ない)、今日はどうも様子が違う。しばらく様子を伺っていると、二人が入ったのは有名なスイーツ店なのだと幸村がガイドブック片手に騒ぎ始めたので三人も入ることにした。
幸い、二人は背を向けているためこちらには気付いていない。会話が聞こえるぎりぎりの距離にある席を陣取ると、スイーツを堪能する幸村を放って二人は耳を傾けた。
「忘れてた! 今日だろ、佐竹先生の演奏会って」
チケットを見れば、既に開演して5分が経過していた。
「やべっ、入れるかな!? 行くぞ、紗智! チケット2枚あるから、お前も来い!」
兄に引っ張られる格好でホールに着けば、入口に美麗の男女が立っていた。
「失礼。亘理紗智さん、ですね」
「は、はい」
思わず感嘆のため息をつきたくなり、慌ててそれを飲み込んだ。
「上杉謙信と申します。宜しければ、少しお時間を……」
「悪いんだけどさ、俺たち中の演奏聞きに来たんだ。妹に用があるなら、それからにして欲しいんだけど?」
さりげなく紗智と謙信の間に体を滑り込ませ、成実が謙信を威嚇した。
「これは失礼。ではかすが、わたくしたちも一旦中に入りましょう。亘理さん、都合が良くなったらで構いません、こちらに連絡をいただけますか?」
謙信は美しい所作で名刺を渡してくると、側にいた女性と共に会場内へ消えていった。
「何なんだ、あの兄さん?」
「お兄ちゃん、これ……」
二人で名刺を覗き込めば、そこに書かれてあったのは誰もが知る大手レコード会社の取締役となっていた。
「何で、こんな大きい会社の人が私に用があるんだろ……」
「確かにな。……って、演奏会! 紗智、気になるけど聴きに行こう! じゃないと、佐竹先生からうちに電話が来るぞ!」
「それは困る!」
二人は本気で身震いし、音を立てないようホールに滑り込んだ。その甲斐あって何とか序盤の内に座席につくことに成功し、終了後楽屋を覗いても特にお咎めなしだった。
「あ~、何か今日は疲れたな……」
「そうだね……」
久々の師との真っ向対面に疲れた成実を気遣い、今度は自分が奢るからと紗智が鞄に触れた時、はらりと何かが落ちた。
「あ、忘れてた」
「何を……。って、そうだったな」
落ちたのは、困惑ネタにしかならない謙信の名刺である。
「どうしたらいいんだろ。あの人、都合がいい時に連絡をって言ってたから、今すぐでなくてもいいんだろうけど」
「そうだな。ま、まずはコイツが本物かどうか、帰ってからネットで調べてみよう。名刺なんて、今日び誰でも簡単に作れるからさ」
兄の意見に同意し、紗智は本日2杯目のコーヒーを口に含んだ。
成実にもカップを渡すと、何故か兄はコーヒーを噴き出した。どうやら間違えてブラックを渡してしまったらしい。苦いと連呼する兄にすぐさまカフェオレを渡し、二人して笑い合ったのだった。
翌日。
学園祭はまだ続いているが、武道系部の出番は終了を向かえたため政宗たちは大手を振るって休暇を楽しんでいた。
「ずんだ餅、美味うござるな」
仙台の街を歩いたことがないという幸村の希望を叶えるため、政宗は小十郎と三人で闊歩していた。
「しかし、これだけヤローが揃っていながら女一人いねぇってのはどういうことだよ」
「まあ、良いではありませぬか。気の置けぬ者同士、こうして歩けるのは中々ないことにござる」
好物の甘味を口にでき、幸村は上機嫌らしい。彼の言うことも最もなので、政宗は肩を竦め、今日はそういう日なのだと無理矢理納得した。
「政宗さま、あれは成実さまでは?」
小十郎が示した先に、見慣れた後ろ姿が入っていくのが見えた。
「確かに成だな。隣にいたのは妹か?」
兄妹仲の良い二人なので揃って出掛けるのは不思議じゃないが(政宗曰く、成実はこのせいで彼女が出来ない)、今日はどうも様子が違う。しばらく様子を伺っていると、二人が入ったのは有名なスイーツ店なのだと幸村がガイドブック片手に騒ぎ始めたので三人も入ることにした。
幸い、二人は背を向けているためこちらには気付いていない。会話が聞こえるぎりぎりの距離にある席を陣取ると、スイーツを堪能する幸村を放って二人は耳を傾けた。