秋・一部
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「しかし、さすがは政宗どのにござる。先ほどの演武、美技の中にも清廉でぶれぬ男気を感じ申した」
「何だ、見てたのかよ」
「無論にござる! 昨日、片倉どのからも、政宗殿が演舞をなさるとの連絡を頂き、お招きは明後日でござったがいてもたってもいられず……」
「昨日だぁ? おい、小十郎」
咎めるように教育係を睨み、初めて彼の手のひらの上で踊らされていたことに気が付いた。
「これも、全ては政宗さまの御身のため。この機に、是非我が部への入部を賜りたく」
「そうでござる! 某も、貴殿のおられぬインカレなど考えられぬ!」
「……ヤロー二人に迫られても、嬉しくもなんともねぇぜ」
暑苦しいと顔の前で手をはたけば、階下の演武会場では弓道部の演武が始まっていた。
「おお、今度は弓道部でござるな」
「Be quiet」
途端食い入るように見つめ始めた政宗に倣い、幸村も階下に視線を落とした。そこでは女子部、つまり良佳による神前演武が執り行われていた。
学園祭ということもあり、会場外では相変わらず賑々しい音が乱れている。だが、良佳のまわりには静寂と言う名のオーラが漂っていて、そんな彼女の気迫は会場内を包み、辺りは厳かな雰囲気と静寂に包まれていた。
(あいつが、演武をするまでになるとはな)
小十郎は、“妹”の成長ぶりを見るにつけ、嬉しさと何故か一抹の寂しさを抱かずにはいられなかった。
そんな小十郎を、政宗は横で密かに苦々しく思っていたのだった。
政宗同様、剣道を続けながらも部に所属していない成実は、大学では軽音サークルに所属している。その兄からの熱烈な依頼で紗智はピアノフォローに入ることになり、今まさに公演の真っ最中だった。
音大進学を強く薦められただけのことはあって、紗智の腕前はずば抜けている。聞く者が聞けばこんなところで演奏するそれではないと分かるほどだ。
「思わぬところで、美しき調べを聞くことが出来ましたね」
「はい、謙信さま」
誰もが振り返りたくなる美男美女が、欄干から紗智に熱視線を送っていた。
「かすが、あのピアニストの素性を調べてきてくれませんか?」
「既に、ここにリストをご用意しております」
差し出されたリストを受け取ると、謙信と呼ばれた男はその美貌に相応しい柔らかな笑みを見せた。
「さすがはわたくしの美しき剣。これからも、わたくしのサポートを頼みましたよ」
「は、はい、謙信さまぁ!」
一瞬、ホール内に薔薇の花びらが舞い散り観客をどよめかせたが、「Sing Sing Sing」が始まると観客は自然とそちらに集中していった。
(亘理紗智、伊達一門のご息女ですね。“高校まで佐竹氏に指南を仰いでいたが、大学入学と同時にピアノを習うのを止めた”ですか……)
なんとも勿体無い。謙信の耳がそう訴えている。奥州大へは、特別ゲストとして招かれた佐竹義重率いる交響楽団の演奏に招待されての来仙だったので、正直気は進まなかったが、わざわざ仙台くんだり来た甲斐があったとほくそ笑んだ。
隣では、その笑みを見つめるかすがが恍惚とした表情で佇み、壇上の照明以上に二人のまわりは光り輝いていたのだった。
「紗智、サンキュー!やっぱ紗智に頼んで正解だった~」
演奏後、上機嫌の兄は妹を連れて学食へとやって来た。
「あんなので良かったの?全然、指動いてなかったのに」
「いいのいいの。それ分かってるの、お前だけだからさ」
ブラックコーヒーを差し出し、成実はミルクたっぷり砂糖なしのコーヒーを口に運んだ。
「お兄ちゃんだって分かってたでしょ。絶対音感持ってるくせに」
妹に指摘され、成実はコーヒーを運ぶ手を止めた。
「……知ってたのか」
「佐竹先生が音大進めって何度も言ってたの、知ってるんだから」
「そっか。……けど、伊達一門のはしくれとは言え、そこに連なる男が音大なんて行ける訳ないよ」
ぽつりと呟いた言葉は、紗智が生まれて初めて聞いた成実の本音であった。
「何だ、見てたのかよ」
「無論にござる! 昨日、片倉どのからも、政宗殿が演舞をなさるとの連絡を頂き、お招きは明後日でござったがいてもたってもいられず……」
「昨日だぁ? おい、小十郎」
咎めるように教育係を睨み、初めて彼の手のひらの上で踊らされていたことに気が付いた。
「これも、全ては政宗さまの御身のため。この機に、是非我が部への入部を賜りたく」
「そうでござる! 某も、貴殿のおられぬインカレなど考えられぬ!」
「……ヤロー二人に迫られても、嬉しくもなんともねぇぜ」
暑苦しいと顔の前で手をはたけば、階下の演武会場では弓道部の演武が始まっていた。
「おお、今度は弓道部でござるな」
「Be quiet」
途端食い入るように見つめ始めた政宗に倣い、幸村も階下に視線を落とした。そこでは女子部、つまり良佳による神前演武が執り行われていた。
学園祭ということもあり、会場外では相変わらず賑々しい音が乱れている。だが、良佳のまわりには静寂と言う名のオーラが漂っていて、そんな彼女の気迫は会場内を包み、辺りは厳かな雰囲気と静寂に包まれていた。
(あいつが、演武をするまでになるとはな)
小十郎は、“妹”の成長ぶりを見るにつけ、嬉しさと何故か一抹の寂しさを抱かずにはいられなかった。
そんな小十郎を、政宗は横で密かに苦々しく思っていたのだった。
政宗同様、剣道を続けながらも部に所属していない成実は、大学では軽音サークルに所属している。その兄からの熱烈な依頼で紗智はピアノフォローに入ることになり、今まさに公演の真っ最中だった。
音大進学を強く薦められただけのことはあって、紗智の腕前はずば抜けている。聞く者が聞けばこんなところで演奏するそれではないと分かるほどだ。
「思わぬところで、美しき調べを聞くことが出来ましたね」
「はい、謙信さま」
誰もが振り返りたくなる美男美女が、欄干から紗智に熱視線を送っていた。
「かすが、あのピアニストの素性を調べてきてくれませんか?」
「既に、ここにリストをご用意しております」
差し出されたリストを受け取ると、謙信と呼ばれた男はその美貌に相応しい柔らかな笑みを見せた。
「さすがはわたくしの美しき剣。これからも、わたくしのサポートを頼みましたよ」
「は、はい、謙信さまぁ!」
一瞬、ホール内に薔薇の花びらが舞い散り観客をどよめかせたが、「Sing Sing Sing」が始まると観客は自然とそちらに集中していった。
(亘理紗智、伊達一門のご息女ですね。“高校まで佐竹氏に指南を仰いでいたが、大学入学と同時にピアノを習うのを止めた”ですか……)
なんとも勿体無い。謙信の耳がそう訴えている。奥州大へは、特別ゲストとして招かれた佐竹義重率いる交響楽団の演奏に招待されての来仙だったので、正直気は進まなかったが、わざわざ仙台くんだり来た甲斐があったとほくそ笑んだ。
隣では、その笑みを見つめるかすがが恍惚とした表情で佇み、壇上の照明以上に二人のまわりは光り輝いていたのだった。
「紗智、サンキュー!やっぱ紗智に頼んで正解だった~」
演奏後、上機嫌の兄は妹を連れて学食へとやって来た。
「あんなので良かったの?全然、指動いてなかったのに」
「いいのいいの。それ分かってるの、お前だけだからさ」
ブラックコーヒーを差し出し、成実はミルクたっぷり砂糖なしのコーヒーを口に運んだ。
「お兄ちゃんだって分かってたでしょ。絶対音感持ってるくせに」
妹に指摘され、成実はコーヒーを運ぶ手を止めた。
「……知ってたのか」
「佐竹先生が音大進めって何度も言ってたの、知ってるんだから」
「そっか。……けど、伊達一門のはしくれとは言え、そこに連なる男が音大なんて行ける訳ないよ」
ぽつりと呟いた言葉は、紗智が生まれて初めて聞いた成実の本音であった。