秋・一部
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秋。
大学内は学園祭真っ盛りである。
部活に入っている者にとっては一大イベントだが、そうでない者にとってこの期間はただの長期休暇で。
「だからって、オレを担ぎ出すこたねぇだろ、小十郎」
「政宗さま、その腕をここで振るわねばいつ振るうのです!?」
「部員がちゃんといるだろうが。演舞くらい、そいつらの中から選べよ」
「先ほども申した通り、今回の代にこの小十郎の目にかなう者が誰もおらぬのです」
学園祭で、武道系の部は演舞を披露するのが恒例だ。部長かその代の幹部が行うのがしきたりだが、強さばかりが目立つ今期の代に小十郎を納得させられる型を演じられる者はいない。
「ゆえに、政宗さまに白羽の矢を当てた次第。もはや、政宗さましかおられぬのです!」
「幹部が無理なら後輩にやらせろよ。それか、部員が無理なら、お前がやりゃいいじゃねぇか」
「小十郎は部員ではありませぬ。第一、学園祭とは学生のための祭り、そんなところにこの小十郎が割って入れば興ざめします」
自分も部員じゃないと言う声は都合よく無視される。
小十郎の意図するところは明確だ。政宗を、部に引き込みたいのだ。
もっとも、政宗は部活動に興味はないし、稼業の勉強を放課後にしているので時間もない。小十郎もそれは理解しているが、政宗の腕を見込めばこその願いでもあった。
「信濃大の真田幸村、かの者を止められるのは政宗さましかおられませぬ」
「……真田、か」
その名を出されては、政宗も黙ってはいられない。唯一、政宗が血潮を熱くさせられる相手だからだ。
「ならば、政宗さまっ……」
「大の男が二人揃って何やってんの?」
そこへ、弓道着姿の良佳がやってきた。
「お前、そのカッコ……」
「ああ、弓道部の演武に出るから、その前に的前に立ちに行こうと思って」
弓道部は男女で部が異なっており、そのため演目者は各部から一名ずつ選出することになっている。女子部からは自分が選ばれたのだと言った。
「さっき剣道部の部長に会ったけど、顔面蒼白だったよ。こじゅ兄、脅したでしょ?」
からかい半分の視線を送ると、政宗が急に肩を抱いてきた。
「小十郎、オレは用事を思い出した。演武はそっちで何とかしな」
「ま、政宗さま!?」
政宗に促され道場へ歩き出す。
「……何、演武頼まれてたの?」
するりと腕から抜け、発言の真意を探るとそうだとあっさり答えが返ってきた。
「部員の中に、おメガネにかなった型を披露出来るヤツがいねぇんだとさ」
「確かに、こじゅ兄クラスのおメガネにかなう人って言ったら政宗しかいないよね。ねえ、やったら? 剣道歴無駄に長いし、段位持ってるし」
「オレは部員じゃねぇからな。部外者がしゃしゃり出たら、それこそ部員たちが面白くねぇだろ?」
「でもさ、部長の顔本っ当にマズイってツラだったよ。大丈夫か、お前?っていうくらい」
小十郎の姿が見えなくなった頃、良佳の口調が途端に崩れたので政宗は内心笑った。
「そんなに酷ぇツラだったのか?」
「うん。大丈夫か聞いたら、ソッコーで無理って答えが返って来たくらいだから、多分……」
少し思案顔をした後、政宗はにやりと笑った。
「しょうがねぇな。なら、出てやるか。小十郎に貸し作っとくのも悪くねぇしな」
良佳が出るからという単純な理由で演武を引き受けたのだが、これが思わぬ出来事に発展することになる。
剣道部の部長が泡を吹いて倒れる寸前、胴着姿で現れた謎の眼帯臨時部員によって、剣道部は見事演武を乗り切ることに成功した。
謎の臨時部員は、その美しい型と所作、何より本人の容姿が感嘆の的となり、一瞬にして注目される存在となった。
「さすがにございます、政宗さま。この小十郎、感服いたしました!」
「こんなの朝メシ前だろ。それより、今後は部員にプレッシャーかけんなよ。コイツは貸しにしとくぜ」
かしこまる小十郎をよそに、政宗が良佳の元に行こうとしたその時だった。
「政宗どのおぉぉぉぉ!!」
掛け声荒々しく足音けたたましくやって来たのは、政宗が生涯唯一無二と認めるライバルその人であった。
「よう、真田幸村。長野からはるばるご苦労なこった」
「何の! せっかくのお呼び立て、無にすれば罰が当たり申す!」
ぱっちりとした双眸に赤い炎を揺らめかせる青年の名は、真田幸村。政宗が小学生の時からずっと剣道の全国大会で王座を争い続けてきた人物だ。
今日は政宗の呼びかけに応じ、長野・上田から遠路はるばる仙台まで遊びにやってきた。
「久しぶりだな、真田。武田先生はお変わりないか」
「おお、片倉どの! お久しゅうござる! おかげさまで、お館さまをはじめ我ら武田衆、皆変わりはござらぬ」
「そうか」
現在、剣道界の頂点に君臨しているのが幸村の師・武田信玄で、小十郎が段位を取る際、かの人と接したことがきっかけでこの二人も知己の間柄となっていた。
大学内は学園祭真っ盛りである。
部活に入っている者にとっては一大イベントだが、そうでない者にとってこの期間はただの長期休暇で。
「だからって、オレを担ぎ出すこたねぇだろ、小十郎」
「政宗さま、その腕をここで振るわねばいつ振るうのです!?」
「部員がちゃんといるだろうが。演舞くらい、そいつらの中から選べよ」
「先ほども申した通り、今回の代にこの小十郎の目にかなう者が誰もおらぬのです」
学園祭で、武道系の部は演舞を披露するのが恒例だ。部長かその代の幹部が行うのがしきたりだが、強さばかりが目立つ今期の代に小十郎を納得させられる型を演じられる者はいない。
「ゆえに、政宗さまに白羽の矢を当てた次第。もはや、政宗さましかおられぬのです!」
「幹部が無理なら後輩にやらせろよ。それか、部員が無理なら、お前がやりゃいいじゃねぇか」
「小十郎は部員ではありませぬ。第一、学園祭とは学生のための祭り、そんなところにこの小十郎が割って入れば興ざめします」
自分も部員じゃないと言う声は都合よく無視される。
小十郎の意図するところは明確だ。政宗を、部に引き込みたいのだ。
もっとも、政宗は部活動に興味はないし、稼業の勉強を放課後にしているので時間もない。小十郎もそれは理解しているが、政宗の腕を見込めばこその願いでもあった。
「信濃大の真田幸村、かの者を止められるのは政宗さましかおられませぬ」
「……真田、か」
その名を出されては、政宗も黙ってはいられない。唯一、政宗が血潮を熱くさせられる相手だからだ。
「ならば、政宗さまっ……」
「大の男が二人揃って何やってんの?」
そこへ、弓道着姿の良佳がやってきた。
「お前、そのカッコ……」
「ああ、弓道部の演武に出るから、その前に的前に立ちに行こうと思って」
弓道部は男女で部が異なっており、そのため演目者は各部から一名ずつ選出することになっている。女子部からは自分が選ばれたのだと言った。
「さっき剣道部の部長に会ったけど、顔面蒼白だったよ。こじゅ兄、脅したでしょ?」
からかい半分の視線を送ると、政宗が急に肩を抱いてきた。
「小十郎、オレは用事を思い出した。演武はそっちで何とかしな」
「ま、政宗さま!?」
政宗に促され道場へ歩き出す。
「……何、演武頼まれてたの?」
するりと腕から抜け、発言の真意を探るとそうだとあっさり答えが返ってきた。
「部員の中に、おメガネにかなった型を披露出来るヤツがいねぇんだとさ」
「確かに、こじゅ兄クラスのおメガネにかなう人って言ったら政宗しかいないよね。ねえ、やったら? 剣道歴無駄に長いし、段位持ってるし」
「オレは部員じゃねぇからな。部外者がしゃしゃり出たら、それこそ部員たちが面白くねぇだろ?」
「でもさ、部長の顔本っ当にマズイってツラだったよ。大丈夫か、お前?っていうくらい」
小十郎の姿が見えなくなった頃、良佳の口調が途端に崩れたので政宗は内心笑った。
「そんなに酷ぇツラだったのか?」
「うん。大丈夫か聞いたら、ソッコーで無理って答えが返って来たくらいだから、多分……」
少し思案顔をした後、政宗はにやりと笑った。
「しょうがねぇな。なら、出てやるか。小十郎に貸し作っとくのも悪くねぇしな」
良佳が出るからという単純な理由で演武を引き受けたのだが、これが思わぬ出来事に発展することになる。
剣道部の部長が泡を吹いて倒れる寸前、胴着姿で現れた謎の眼帯臨時部員によって、剣道部は見事演武を乗り切ることに成功した。
謎の臨時部員は、その美しい型と所作、何より本人の容姿が感嘆の的となり、一瞬にして注目される存在となった。
「さすがにございます、政宗さま。この小十郎、感服いたしました!」
「こんなの朝メシ前だろ。それより、今後は部員にプレッシャーかけんなよ。コイツは貸しにしとくぜ」
かしこまる小十郎をよそに、政宗が良佳の元に行こうとしたその時だった。
「政宗どのおぉぉぉぉ!!」
掛け声荒々しく足音けたたましくやって来たのは、政宗が生涯唯一無二と認めるライバルその人であった。
「よう、真田幸村。長野からはるばるご苦労なこった」
「何の! せっかくのお呼び立て、無にすれば罰が当たり申す!」
ぱっちりとした双眸に赤い炎を揺らめかせる青年の名は、真田幸村。政宗が小学生の時からずっと剣道の全国大会で王座を争い続けてきた人物だ。
今日は政宗の呼びかけに応じ、長野・上田から遠路はるばる仙台まで遊びにやってきた。
「久しぶりだな、真田。武田先生はお変わりないか」
「おお、片倉どの! お久しゅうござる! おかげさまで、お館さまをはじめ我ら武田衆、皆変わりはござらぬ」
「そうか」
現在、剣道界の頂点に君臨しているのが幸村の師・武田信玄で、小十郎が段位を取る際、かの人と接したことがきっかけでこの二人も知己の間柄となっていた。