夏・一部
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良佳が懸念した通り、車の方が北陸に到着するのが圧倒的に遅く、予定していたホテルのチェックインを過ぎてしまい、おかげでホテルの夕飯を食べ損ねてしまった。
「テメェがこんな安っぽいホテルなんざ取るからだろ」
「一学生の身分で、高いホテルに泊まれるかよ」
「旅費くらい、出して貰えよ」
言った後で後悔した。彼女の存在はあの家にとって普通ではない。ゆえに、親に甘えることなどもってのほかだったと。
悪いと目を伏せれば、額に衝撃がきた。いわゆるデコピンである。
「っ、何しやがる」
「悪いと思ったんだったら、晩飯おごれ。あ、焼肉はもういらねえからな」
指をさされ、彼女が傷ついていないことが分かり政宗は安堵のため息をついた。
「All right.何が食いたい?」
「……北陸だから、魚」
「Ok、肴な」
「“さかな”の字が違う気がすんのは、あたしだけか?」
押し問答の末、二人はその日豪華な回らない寿司屋で一飯を終えたのだった。
翌日、渋る政宗を置いて一人院の見学に向かった良佳は、珍妙な男性と知り合うこととなった。
「よ、アンタが茂庭さんかい?」
「はあ、そうですけど」
大柄で重そうな体格の男なのに、中身は軽そうだというのがその男の第一印象だった。
「俺は前田慶次。アンタが会いに来た前田教授の助手をやってんだ。ヨロシク!」
差し出された手に戸惑っていれば、向こうが勝手に握ってきた。
「利、ああ、前田教授なんだけどさ。急に大坂大に出張になってさ。アンタに悪いって謝っといてってさ」
「は、はあ……」
「で、代わりに俺が案内役を仰せつかったって訳。研究内容も手伝ってるから、大まかなことなら答えられると思うんだよね。……だから、そんなにがっかりしないで欲しいんだけど」
「あ、し、失礼しました!」
落胆の色を見せていたのだと慌てて謝罪すると、前田慶次は豪快に笑いこっちに来いと親指で研究室を指した。
彼の師にあたる前田利家は義理の伯父にあたるらしい。“義理”なのは、亡くなった両親の依頼で里親になったのが今の義父だからで、利家は義父の兄にあたるためだ。
「義親父は実子と分け隔てなく育ててくれたんだけどさ、やっぱこっちは居候だって思っちゃうんだよね。だから、利んちにいりびたってるうちに、いつの間にか利の研究に興味持っちゃって……」
「気付いたら助手にまで上り詰めていた、と」
「ご名答」
にまっと笑った顔がまるで春の陽気のようで、思わずこちらも笑いたくなる笑顔だ。
(それに……)
特殊な出自が共通している。勝手に親近感を覚えた。
「あ、もしうちの院に進むんだったらさ、利の奥さんがやってる女子寮があるからさ。まつ姉ちゃんって言うんだけど、まつ姉ちゃんの飯は絶品なんだぜ。だから、作るのが面倒だったら……」
院内の見学はそこそこに慶次のおしゃべりに付き合う羽目になったが、まさかこの男と今後も付き合っていくことになろうなど、この時の良佳は微塵も思っていなかった。
「テメェがこんな安っぽいホテルなんざ取るからだろ」
「一学生の身分で、高いホテルに泊まれるかよ」
「旅費くらい、出して貰えよ」
言った後で後悔した。彼女の存在はあの家にとって普通ではない。ゆえに、親に甘えることなどもってのほかだったと。
悪いと目を伏せれば、額に衝撃がきた。いわゆるデコピンである。
「っ、何しやがる」
「悪いと思ったんだったら、晩飯おごれ。あ、焼肉はもういらねえからな」
指をさされ、彼女が傷ついていないことが分かり政宗は安堵のため息をついた。
「All right.何が食いたい?」
「……北陸だから、魚」
「Ok、肴な」
「“さかな”の字が違う気がすんのは、あたしだけか?」
押し問答の末、二人はその日豪華な回らない寿司屋で一飯を終えたのだった。
翌日、渋る政宗を置いて一人院の見学に向かった良佳は、珍妙な男性と知り合うこととなった。
「よ、アンタが茂庭さんかい?」
「はあ、そうですけど」
大柄で重そうな体格の男なのに、中身は軽そうだというのがその男の第一印象だった。
「俺は前田慶次。アンタが会いに来た前田教授の助手をやってんだ。ヨロシク!」
差し出された手に戸惑っていれば、向こうが勝手に握ってきた。
「利、ああ、前田教授なんだけどさ。急に大坂大に出張になってさ。アンタに悪いって謝っといてってさ」
「は、はあ……」
「で、代わりに俺が案内役を仰せつかったって訳。研究内容も手伝ってるから、大まかなことなら答えられると思うんだよね。……だから、そんなにがっかりしないで欲しいんだけど」
「あ、し、失礼しました!」
落胆の色を見せていたのだと慌てて謝罪すると、前田慶次は豪快に笑いこっちに来いと親指で研究室を指した。
彼の師にあたる前田利家は義理の伯父にあたるらしい。“義理”なのは、亡くなった両親の依頼で里親になったのが今の義父だからで、利家は義父の兄にあたるためだ。
「義親父は実子と分け隔てなく育ててくれたんだけどさ、やっぱこっちは居候だって思っちゃうんだよね。だから、利んちにいりびたってるうちに、いつの間にか利の研究に興味持っちゃって……」
「気付いたら助手にまで上り詰めていた、と」
「ご名答」
にまっと笑った顔がまるで春の陽気のようで、思わずこちらも笑いたくなる笑顔だ。
(それに……)
特殊な出自が共通している。勝手に親近感を覚えた。
「あ、もしうちの院に進むんだったらさ、利の奥さんがやってる女子寮があるからさ。まつ姉ちゃんって言うんだけど、まつ姉ちゃんの飯は絶品なんだぜ。だから、作るのが面倒だったら……」
院内の見学はそこそこに慶次のおしゃべりに付き合う羽目になったが、まさかこの男と今後も付き合っていくことになろうなど、この時の良佳は微塵も思っていなかった。