春・一部
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
春。
構内に遅咲きの桜が舞い、新入生たちが一斉にやってきて、再び大学は活気を取り戻している。
「暦はもう4月か」
「良佳!」
掲示板をぼんやりと見ていると、後ろから名前を呼ばれた。
「さっち。入学おめでと」
「えへへ、ありがと。じゃなくて! 携帯鳴らしたのに、全然気付いてくれないってどういうこと!?」
「ごめん、今日忘れてさ」
「……よりによって、こんな日に忘れないでよ。可愛い後輩が入ったってのに」
「自分で言う、普通?」
えへへとまた彼女が笑えば、そこにまた新たな春が訪れたような心地になり、良佳も自然と口角を上げた。
茂庭良佳と亘理紗智は、互いに仙台の名門・伊達家に連なる名家の娘である。年は良佳が三つ上で、だから学校がかぶるのは小学校以来となる。
「やっと追いついたと思ったら、良佳はもう4年なんだよね。来年いないし……」
近所の上、家族ぐるみでしょっちゅう行き来しているのだから、学校まで一緒じゃなくてもと良佳は思う。だが、この可愛い親戚とはずっと一緒にいても飽きないし、何と言っても自分が癒されるのだ。茂庭家の私生児として生まれたため、自分自身を見てくれる彼女の存在は心の支えみたいなものだった。
「今んとこ、ここの院に進むつもりだからさ。院、同じ敷地内だから、会おうと思ったらいつでも会えるって」
「ホント!?」
ぱあっと雲の隙間から出てきた太陽のように眩しい笑みを見せ、良佳はたまらず笑った。
「Hey、こんなとこにいやがったのか」
その笑みを、引きつらせたくなる人物が現れた。
「政宗……」
「何だ、そのシケたツラは」
口の端を思い切り上げた。
にやりという擬音語がぴったりなその笑みを浮かべた男の名は伊達政宗。良佳たちの先祖が、代々仕えてきた仙台伊達家の跡取り息子である。
紗智にとっては従兄にあたり、紗智の一つ年上の兄・成実と彼が同級生ということもあって二人はよくつるんでいる。
ちなみに、亘理家は本当は“亘理伊達家”と言うのが本来であるが、本家である仙台伊達家に遠慮して苗字を改めた。それくらい格式高い家の長男だというのに、政宗はまるでそれに反発するように年々チャラくなってる気がする。
「そりゃ、お前の気のせいだ、you see?」
「その語尾が既にチャラいよ」
「Ah? 留学の影響だろ」
掲示板コーナーから食堂への道中、政宗はずっとついてきた。その間、紗智は政宗から隠れるように良佳の脇から離れずにいた。幼少期からずっと変わらぬこの態度に、政宗は最初こそ呆れ怒りもしたが、最近ではもう構わなくなっていた。
「で? 留年したアホ宗は、カリキュラムどうするか決めたの?」
「誰がアホだ。それに、留年じゃねぇ。留学だ」
「単位交換に失敗した奴が、何抜かしてんだっつーの」
そう言うと、チッと舌打ちが返って来た。
「総代務めた紗智を見習えって。あ、紗智さ、このアホのカリキュラム組むの手伝ってやってよ。同じ学科でしょ」
「え!? そ、そんな……っ!」
「あたし、行かなきゃなんないとこあるんだ」
「何だ、小十郎のとこか」
「まあね」
ニッと笑うと、半泣き状態の紗智を残し教授棟へ行ってしまった。
「……で、オレたちはどうするよ」
「え、あ、あの……」
従妹はそこまで言うと、下を向いて押し黙った。
「なら、オレは行くぜ」
政宗は大きくため息をつくと、何故か彼も教授棟へ足を向けた。
構内に遅咲きの桜が舞い、新入生たちが一斉にやってきて、再び大学は活気を取り戻している。
「暦はもう4月か」
「良佳!」
掲示板をぼんやりと見ていると、後ろから名前を呼ばれた。
「さっち。入学おめでと」
「えへへ、ありがと。じゃなくて! 携帯鳴らしたのに、全然気付いてくれないってどういうこと!?」
「ごめん、今日忘れてさ」
「……よりによって、こんな日に忘れないでよ。可愛い後輩が入ったってのに」
「自分で言う、普通?」
えへへとまた彼女が笑えば、そこにまた新たな春が訪れたような心地になり、良佳も自然と口角を上げた。
茂庭良佳と亘理紗智は、互いに仙台の名門・伊達家に連なる名家の娘である。年は良佳が三つ上で、だから学校がかぶるのは小学校以来となる。
「やっと追いついたと思ったら、良佳はもう4年なんだよね。来年いないし……」
近所の上、家族ぐるみでしょっちゅう行き来しているのだから、学校まで一緒じゃなくてもと良佳は思う。だが、この可愛い親戚とはずっと一緒にいても飽きないし、何と言っても自分が癒されるのだ。茂庭家の私生児として生まれたため、自分自身を見てくれる彼女の存在は心の支えみたいなものだった。
「今んとこ、ここの院に進むつもりだからさ。院、同じ敷地内だから、会おうと思ったらいつでも会えるって」
「ホント!?」
ぱあっと雲の隙間から出てきた太陽のように眩しい笑みを見せ、良佳はたまらず笑った。
「Hey、こんなとこにいやがったのか」
その笑みを、引きつらせたくなる人物が現れた。
「政宗……」
「何だ、そのシケたツラは」
口の端を思い切り上げた。
にやりという擬音語がぴったりなその笑みを浮かべた男の名は伊達政宗。良佳たちの先祖が、代々仕えてきた仙台伊達家の跡取り息子である。
紗智にとっては従兄にあたり、紗智の一つ年上の兄・成実と彼が同級生ということもあって二人はよくつるんでいる。
ちなみに、亘理家は本当は“亘理伊達家”と言うのが本来であるが、本家である仙台伊達家に遠慮して苗字を改めた。それくらい格式高い家の長男だというのに、政宗はまるでそれに反発するように年々チャラくなってる気がする。
「そりゃ、お前の気のせいだ、you see?」
「その語尾が既にチャラいよ」
「Ah? 留学の影響だろ」
掲示板コーナーから食堂への道中、政宗はずっとついてきた。その間、紗智は政宗から隠れるように良佳の脇から離れずにいた。幼少期からずっと変わらぬこの態度に、政宗は最初こそ呆れ怒りもしたが、最近ではもう構わなくなっていた。
「で? 留年したアホ宗は、カリキュラムどうするか決めたの?」
「誰がアホだ。それに、留年じゃねぇ。留学だ」
「単位交換に失敗した奴が、何抜かしてんだっつーの」
そう言うと、チッと舌打ちが返って来た。
「総代務めた紗智を見習えって。あ、紗智さ、このアホのカリキュラム組むの手伝ってやってよ。同じ学科でしょ」
「え!? そ、そんな……っ!」
「あたし、行かなきゃなんないとこあるんだ」
「何だ、小十郎のとこか」
「まあね」
ニッと笑うと、半泣き状態の紗智を残し教授棟へ行ってしまった。
「……で、オレたちはどうするよ」
「え、あ、あの……」
従妹はそこまで言うと、下を向いて押し黙った。
「なら、オレは行くぜ」
政宗は大きくため息をつくと、何故か彼も教授棟へ足を向けた。
1/3ページ