戦国bsr読み切り短編集
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女でありながら、わたしは戦場に出ることを選んだ。
愛する方のお命を守るために。
父母や世間からは、女子(おなご)らしからぬ慕い方だと嘆かれ、嘲笑されもした。
でも、気にならなかった。
この“命”は、あの方を守り、そして死ぬためにある。
「ヒロイン名前ー!!」
わたしが存在する意義、そして、これがわたしなりの愛し方だから。
「……い、おい、ヒロイン名前!」
「っ……」
「気付いたか!」
「……じ…」
「ああ、俺は無事だ。お前のおかげでな」
戦場で、わたしは後ろ傷を負いかけたあの方――片倉さまを庇い倒れた。
その甲斐あって、片倉さまはどうやらご無事だった。
その分、わたしのどこかが傷を負い、大量に出血しているらしく身体が動かなかった。
「…た…く……」
「これ以上、喋るんじゃねえ。おい、早くそいつを寄越せ!」
片倉さまが、手ずから処置しようとして下さっている。
痛くて寒いのに、幸せだって思ってしまう。
「お……り、でき……」
「もう、喋るんじゃねえ」
「……良かっ……」
「ヒロイン名前!?おい、しっかりしろ!!」
片倉さま。
どうか、そんな顔をなさらないで下さい。
あなたさまのお命を守るためだけに、わたしは生きてきました。
だから、あなたさまを守って死ねるなら本望なのです。
伝えたいのに、口が動かない。
もどかしさを感じながら、わたしは意識が落ちるにまかせた。
気が付くと、わたしは生き霊になっていた。
どうやら軍は城に帰還したらしく、見慣れた面々が全員無事だと分かり安堵した。
ところで、“わたし”はどこにいるのだろう。
“生き”霊と言うことは、まだ生きていてどこかにあるはずだ。
館内をあちこち探し回り、ようやく見つけた先はなんと片倉さまの私室だった。
初めて入る片倉さまのお部屋と、片倉さまがわたしなんかをお部屋へお連れ下さったことに驚喜したものの、唇を噛む片倉さまのお姿に目を見張った。
『片倉さま……?』
今にも泣き出しそうで、いつもは広く見える背中がとても小さい。
何故、片倉さまがそんなにお辛そうになさっているのか不思議に思っていると。
「ヒロイン名前は、どのくらいもつんだ?」
「おそらく、今夜が山ですな。あの出血量です、生きているのが不思議なくらいです」
ああ、そういうことか。
片倉さまは、わたしの命なんかを惜しんで下さったのか。
だから、あんな表情を……。
嬉しく思うと同時に、わたしはもうじき死ぬかもしれないことに対して酷く冷静な自分に苦笑した。
片倉さまには悪いけれど、全う出来た満足感しかないんだもの。
何かあれば呼ぶようにと言い残し、お匙は部屋を後にした。
片倉さまは、その後ろ姿を力なく見送ってらした。
『片倉さま……』
そんなに悲しむ必要はないに。
……ああ、もしかしたら、悲しいのではなく、怒ってらっしゃるのかも。
武人で名の通った片倉さまが、簡単に後ろ傷を負う訳がないもの。余計なことをしてしまったのかもしれない。
それだけじゃない。
片倉さまの名誉に、知らず知らず傷をつけたかもしれないのだ。
「……何で」
一人苦悩していると、片倉さまがぽつりと呟かれた。
「何で、俺なんかを庇いやがった……」
拳を固く握られ、わたしを睨んでおられた。
……やっぱり、庇うなど浅慮だったようだ。
達人の域でらっしゃる方を庇うなんて、おこがましいことだ。
『考えれば分かることなのに……』
自分の想いばかり優先して、わたしは片倉さまを困らせたのだ。
『やっぱり、わたしはどこへ行ってもはみ出し者なんだわ……』
気付くと、泣いていた。
「……泣いてんのか?」
身体の方も涙を流したらしく、片倉さまが目尻に触れられた。
「泣くな」
そう言う片倉さまの方が、泣きそうだ。
申し訳なさと自分への怒りから、わたしは部屋を後にしようとした。
「なあ、ヒロイン名前」
片倉さまの呼び掛けに、思わず足を止めた。
「お前にゃ、いつも笑ってて欲しいんだよ。後ろ向いたら、いつもそこにいて欲しいんだよ。なのに前に出たら、振り向いてもお前がいねえじゃねえか」
片倉さまは、わたしの手をご自分の頬に当てられた。
「俺なんかのどこがいいか知らねえが、ばかみてえにいつも側にいた奴がいねえと調子狂うんだよ。……だから、頼むから目を開けてくれ。俺の側に、後ろにずっといろよ……!」
ぽたりと畳に落ちたのは、涙だった。
――ああ、わたしは何て幸せ者なんだろう。
わたしの想いは、片倉さまに通じていた。
しかも、片倉さまはこんなわたしを惜しんで下さり、涙さえ流して下さったのだ。
自分の想いを、片倉さまが想って下さった自分の気持ちを一瞬でも疑うなんて浅慮だった。
『……ずっと、側にいる。それがあなたさまの望みならば、わたしは生きねばなりませんね』
涙を拭い、わたしは笑ってみせた。
『承知しました。必ず目覚め、あなたさまのお側に……、そして後ろに参ります。だから、それまで待っていて下さい』
待てない時は、後ろを振り向いて下さいね?
わたしの想いが、あなたさまを後ろから優しく包み込んでいますから。
(了)
愛する方のお命を守るために。
父母や世間からは、女子(おなご)らしからぬ慕い方だと嘆かれ、嘲笑されもした。
でも、気にならなかった。
この“命”は、あの方を守り、そして死ぬためにある。
「ヒロイン名前ー!!」
わたしが存在する意義、そして、これがわたしなりの愛し方だから。
「……い、おい、ヒロイン名前!」
「っ……」
「気付いたか!」
「……じ…」
「ああ、俺は無事だ。お前のおかげでな」
戦場で、わたしは後ろ傷を負いかけたあの方――片倉さまを庇い倒れた。
その甲斐あって、片倉さまはどうやらご無事だった。
その分、わたしのどこかが傷を負い、大量に出血しているらしく身体が動かなかった。
「…た…く……」
「これ以上、喋るんじゃねえ。おい、早くそいつを寄越せ!」
片倉さまが、手ずから処置しようとして下さっている。
痛くて寒いのに、幸せだって思ってしまう。
「お……り、でき……」
「もう、喋るんじゃねえ」
「……良かっ……」
「ヒロイン名前!?おい、しっかりしろ!!」
片倉さま。
どうか、そんな顔をなさらないで下さい。
あなたさまのお命を守るためだけに、わたしは生きてきました。
だから、あなたさまを守って死ねるなら本望なのです。
伝えたいのに、口が動かない。
もどかしさを感じながら、わたしは意識が落ちるにまかせた。
気が付くと、わたしは生き霊になっていた。
どうやら軍は城に帰還したらしく、見慣れた面々が全員無事だと分かり安堵した。
ところで、“わたし”はどこにいるのだろう。
“生き”霊と言うことは、まだ生きていてどこかにあるはずだ。
館内をあちこち探し回り、ようやく見つけた先はなんと片倉さまの私室だった。
初めて入る片倉さまのお部屋と、片倉さまがわたしなんかをお部屋へお連れ下さったことに驚喜したものの、唇を噛む片倉さまのお姿に目を見張った。
『片倉さま……?』
今にも泣き出しそうで、いつもは広く見える背中がとても小さい。
何故、片倉さまがそんなにお辛そうになさっているのか不思議に思っていると。
「ヒロイン名前は、どのくらいもつんだ?」
「おそらく、今夜が山ですな。あの出血量です、生きているのが不思議なくらいです」
ああ、そういうことか。
片倉さまは、わたしの命なんかを惜しんで下さったのか。
だから、あんな表情を……。
嬉しく思うと同時に、わたしはもうじき死ぬかもしれないことに対して酷く冷静な自分に苦笑した。
片倉さまには悪いけれど、全う出来た満足感しかないんだもの。
何かあれば呼ぶようにと言い残し、お匙は部屋を後にした。
片倉さまは、その後ろ姿を力なく見送ってらした。
『片倉さま……』
そんなに悲しむ必要はないに。
……ああ、もしかしたら、悲しいのではなく、怒ってらっしゃるのかも。
武人で名の通った片倉さまが、簡単に後ろ傷を負う訳がないもの。余計なことをしてしまったのかもしれない。
それだけじゃない。
片倉さまの名誉に、知らず知らず傷をつけたかもしれないのだ。
「……何で」
一人苦悩していると、片倉さまがぽつりと呟かれた。
「何で、俺なんかを庇いやがった……」
拳を固く握られ、わたしを睨んでおられた。
……やっぱり、庇うなど浅慮だったようだ。
達人の域でらっしゃる方を庇うなんて、おこがましいことだ。
『考えれば分かることなのに……』
自分の想いばかり優先して、わたしは片倉さまを困らせたのだ。
『やっぱり、わたしはどこへ行ってもはみ出し者なんだわ……』
気付くと、泣いていた。
「……泣いてんのか?」
身体の方も涙を流したらしく、片倉さまが目尻に触れられた。
「泣くな」
そう言う片倉さまの方が、泣きそうだ。
申し訳なさと自分への怒りから、わたしは部屋を後にしようとした。
「なあ、ヒロイン名前」
片倉さまの呼び掛けに、思わず足を止めた。
「お前にゃ、いつも笑ってて欲しいんだよ。後ろ向いたら、いつもそこにいて欲しいんだよ。なのに前に出たら、振り向いてもお前がいねえじゃねえか」
片倉さまは、わたしの手をご自分の頬に当てられた。
「俺なんかのどこがいいか知らねえが、ばかみてえにいつも側にいた奴がいねえと調子狂うんだよ。……だから、頼むから目を開けてくれ。俺の側に、後ろにずっといろよ……!」
ぽたりと畳に落ちたのは、涙だった。
――ああ、わたしは何て幸せ者なんだろう。
わたしの想いは、片倉さまに通じていた。
しかも、片倉さまはこんなわたしを惜しんで下さり、涙さえ流して下さったのだ。
自分の想いを、片倉さまが想って下さった自分の気持ちを一瞬でも疑うなんて浅慮だった。
『……ずっと、側にいる。それがあなたさまの望みならば、わたしは生きねばなりませんね』
涙を拭い、わたしは笑ってみせた。
『承知しました。必ず目覚め、あなたさまのお側に……、そして後ろに参ります。だから、それまで待っていて下さい』
待てない時は、後ろを振り向いて下さいね?
わたしの想いが、あなたさまを後ろから優しく包み込んでいますから。
(了)