戦国bsr読み切り短編集
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「小十郎って、木なんだって」
「あ?」
妻のヒロイン名前の藪から棒な発言に、小十郎は箸を止めた。
時刻は夜11時。
明日も早いからさっさと食べて寝たいところだが、差し出された画用紙に思わず箸を下ろした。
「こいつは……」
「うん。重綱が描いた絵よ」
愛息子・重綱が描いた絵、それは他ならぬ小十郎の絵であった。
重綱は小学二年生。
両親に似て眉目秀麗で、バレンタインは幼稚園の頃から毎年大変な数をもらっていて小十郎は今から将来を案じているものの、本人は父親に似て堅い性格でむしろ女子が苦手らしい。
けれど、バレンタインのお返しを用意したいと何の計算もなしに律儀に言う辺り、我が息子は罪深いと思わずにいられなかった。
そんな息子が描いた絵を受け取れば、画用紙と絵の具の匂いがして懐かしい気持ちがした。
「親の肖像画でも描けって言われたのか?」
「ううん、違うの」
楽しげに話すヒロイン名前に、では何だと問うと意外な答えが返ってきた。
「図画の授業で、“木から連想するものを描きなさい”って言われて描いたのがこの絵なんですって」
「木……?」
小十郎は、何とも言えない表情をした。
「重は、何だって木から俺を連想したんだ?」
「ふふ、何でだと思う?」
ヒロイン名前は、ニッコリ笑った。
「分からねえな。ヒントをくれ」
「わたしが言うより、重綱に“聞いた”方が早いと思うわ」
「聞くって……。もう、寝てるじゃねえか」
「まあまあ。寝室に行ったら分かるから」
なら早く食べるかと、小十郎は慌てて箸を進め始めた。
入浴を済ませ寝室に入ると、小十郎のベッドで丸まって眠る重綱が目に入った。
この年なら自分のベッドで寝始めるのだろうが、重綱はまだまだ甘えたいさかりなのか父親のベッドで就寝している。
仕事にかまけ中々遊んでやれない反動なのだろうと、小十郎も容認し二人でベッドを仲良く分け合いっこしている。
夜にヒロイン名前を独り占め出来ないのが悩みの種だが、我が子のちょっとした成長を、寝姿とは言え見られるのは嬉しいことだ。
寝顔を眺めてから布団に入り、いつものように頭を撫でてやる。重綱は、もぞもぞと小十郎に近付いてきた。
「う~……」
そして、いつものように小十郎にがっしりと抱き付いた。
「ったく、しょうのない奴だ」
「嬉しいくせに」
間接照明に浮かぶ夫の緩んだ顔を見て、ヒロイン名前は笑った。
「答え、分かったでしょ?」
「……いや、分からねえな」
「そっか。当事者だと分かりづらいか」
苦笑すると、ヒロイン名前はベッドから出て息子と小十郎を指で作ったフレームに納めた。
「重綱がしがみついてるあなた、まるで木みたいなのよ」
「は?」
思わず聞き返した。
「木って言うか、木の幹。で、重綱が子ザルちゃん」
「おい、息子を猿呼ばわりする奴があるか」
「言ったのは本人よ」
そのままでいてくれと言われ、いつの間にか取り出したデジカメで寝姿を撮られる。
「これなら、分かりやすいでしょ?」
画面を見ると、なるほど確かに二人の姿は木とそれにしがみつくサルに見える。
「友達に、まだ親と寝てるのかってからかわれたんですって。だから、一度あなたが出張で留守の間自室で寝たことがあったんだけど……」
重綱の側に腰掛け、ヒロイン名前は息子の髪を撫でた。
「寂しいって泣いちゃって。その日は、結局わたしに抱き付いて寝たんだけどね」
翌朝、息子は得心がいった顔をしていたらしい。
「“僕はまだ甘えん坊だから、子ザルみたいにパパやママにひっついて寝なきゃだめなんだ!”って分かったんですって」
「何だそりゃ。甘えたな態度を自分で肯定する奴があるか」
呆れたものの、この年齢で弱味をきちんと把握し認められるのはたいしたものだと、我が息子ながら内心感心した。
「でも、同じひっつくならパパじゃなきゃダメって」
「どういうことだ?」
「ようするに、この子はパパっ子ってことよ」
「それもどうなんだ」
苦笑し、小十郎はヒロイン名前にそのままベッドに入るよう促した。
「ちっと狭いが、今日は三人で寝ようぜ」
「そうね。たまには、わたしもあなたにしがみつきたいし」
「大歓迎だぜ」
布団にもぐったヒロイン名前を、合間にいる息子が苦しくない程度に抱き寄せる。
「あったかい。重綱がひっつきたがるのがよく分かるわ」
「そうか。木の幹じゃねえが、そう感じ取ってくれてんならまんざら悪い話じゃねえな」
はにかむ妻の額に口付けを落とす。
「おやすみなさい、小十郎」
「ああ、おやすみ」
朝が早いから、少し寝不足になるだろう今晩。
川の字で眠る分、深く眠れそうだから補えるかもなと、小十郎は薄れ行く意識の中で感じていた。
(了)
「あ?」
妻のヒロイン名前の藪から棒な発言に、小十郎は箸を止めた。
時刻は夜11時。
明日も早いからさっさと食べて寝たいところだが、差し出された画用紙に思わず箸を下ろした。
「こいつは……」
「うん。重綱が描いた絵よ」
愛息子・重綱が描いた絵、それは他ならぬ小十郎の絵であった。
重綱は小学二年生。
両親に似て眉目秀麗で、バレンタインは幼稚園の頃から毎年大変な数をもらっていて小十郎は今から将来を案じているものの、本人は父親に似て堅い性格でむしろ女子が苦手らしい。
けれど、バレンタインのお返しを用意したいと何の計算もなしに律儀に言う辺り、我が息子は罪深いと思わずにいられなかった。
そんな息子が描いた絵を受け取れば、画用紙と絵の具の匂いがして懐かしい気持ちがした。
「親の肖像画でも描けって言われたのか?」
「ううん、違うの」
楽しげに話すヒロイン名前に、では何だと問うと意外な答えが返ってきた。
「図画の授業で、“木から連想するものを描きなさい”って言われて描いたのがこの絵なんですって」
「木……?」
小十郎は、何とも言えない表情をした。
「重は、何だって木から俺を連想したんだ?」
「ふふ、何でだと思う?」
ヒロイン名前は、ニッコリ笑った。
「分からねえな。ヒントをくれ」
「わたしが言うより、重綱に“聞いた”方が早いと思うわ」
「聞くって……。もう、寝てるじゃねえか」
「まあまあ。寝室に行ったら分かるから」
なら早く食べるかと、小十郎は慌てて箸を進め始めた。
入浴を済ませ寝室に入ると、小十郎のベッドで丸まって眠る重綱が目に入った。
この年なら自分のベッドで寝始めるのだろうが、重綱はまだまだ甘えたいさかりなのか父親のベッドで就寝している。
仕事にかまけ中々遊んでやれない反動なのだろうと、小十郎も容認し二人でベッドを仲良く分け合いっこしている。
夜にヒロイン名前を独り占め出来ないのが悩みの種だが、我が子のちょっとした成長を、寝姿とは言え見られるのは嬉しいことだ。
寝顔を眺めてから布団に入り、いつものように頭を撫でてやる。重綱は、もぞもぞと小十郎に近付いてきた。
「う~……」
そして、いつものように小十郎にがっしりと抱き付いた。
「ったく、しょうのない奴だ」
「嬉しいくせに」
間接照明に浮かぶ夫の緩んだ顔を見て、ヒロイン名前は笑った。
「答え、分かったでしょ?」
「……いや、分からねえな」
「そっか。当事者だと分かりづらいか」
苦笑すると、ヒロイン名前はベッドから出て息子と小十郎を指で作ったフレームに納めた。
「重綱がしがみついてるあなた、まるで木みたいなのよ」
「は?」
思わず聞き返した。
「木って言うか、木の幹。で、重綱が子ザルちゃん」
「おい、息子を猿呼ばわりする奴があるか」
「言ったのは本人よ」
そのままでいてくれと言われ、いつの間にか取り出したデジカメで寝姿を撮られる。
「これなら、分かりやすいでしょ?」
画面を見ると、なるほど確かに二人の姿は木とそれにしがみつくサルに見える。
「友達に、まだ親と寝てるのかってからかわれたんですって。だから、一度あなたが出張で留守の間自室で寝たことがあったんだけど……」
重綱の側に腰掛け、ヒロイン名前は息子の髪を撫でた。
「寂しいって泣いちゃって。その日は、結局わたしに抱き付いて寝たんだけどね」
翌朝、息子は得心がいった顔をしていたらしい。
「“僕はまだ甘えん坊だから、子ザルみたいにパパやママにひっついて寝なきゃだめなんだ!”って分かったんですって」
「何だそりゃ。甘えたな態度を自分で肯定する奴があるか」
呆れたものの、この年齢で弱味をきちんと把握し認められるのはたいしたものだと、我が息子ながら内心感心した。
「でも、同じひっつくならパパじゃなきゃダメって」
「どういうことだ?」
「ようするに、この子はパパっ子ってことよ」
「それもどうなんだ」
苦笑し、小十郎はヒロイン名前にそのままベッドに入るよう促した。
「ちっと狭いが、今日は三人で寝ようぜ」
「そうね。たまには、わたしもあなたにしがみつきたいし」
「大歓迎だぜ」
布団にもぐったヒロイン名前を、合間にいる息子が苦しくない程度に抱き寄せる。
「あったかい。重綱がひっつきたがるのがよく分かるわ」
「そうか。木の幹じゃねえが、そう感じ取ってくれてんならまんざら悪い話じゃねえな」
はにかむ妻の額に口付けを落とす。
「おやすみなさい、小十郎」
「ああ、おやすみ」
朝が早いから、少し寝不足になるだろう今晩。
川の字で眠る分、深く眠れそうだから補えるかもなと、小十郎は薄れ行く意識の中で感じていた。
(了)