戦国bsr読み切り短編集
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十何年に一度、冬至の日と新月が重なる日がある。
「それが今年と言う訳か」
どうりで、松明の明かりが随分明るく見える訳だ。
冬至は一年で最も日の入りが早い。そして、朔の日は新月の日こと。つまり、今晩は例年になく夜が長いということだ。
「これでは、炊事作業も大変だろう。……すぐに帰ると言ったんだんがな」
屋形で正月の準備に一人追われるヒロイン名前のことを思った。
政宗の脱走癖のおかげで、執務室に思った以上にこもっていた。本来なら、随分前に政務は終わっているはずだった。だが、南蛮宗教の生誕祭にかこつけた祭りを開くだのなんだのと、主は政務をそっちのけで大騒ぎしていた。
おかげで政務が大幅に遅れ、同時に正月支度の段取りも遅れに遅れ、結果として自宅の正月支度を妻に任せる形になってしまった。
政宗の性癖も小十郎の忠誠心も知っているため、ヒロイン名前は自分が二の次になっても文句の一つも言わない。武家の妻のあるべき姿だが、まだ子のいないあの家にただ一人自分を待つ彼女のことを思うと、自然と足が速くなった。
空を見上げると、奥州特有の雪雲と幾分か和らいだものの相も変わらず雪がちらついているのが見えた。足元の雪がどんどん深くなっていて、屋形までの道のりが遠く感じる。
「ちっ、ちったあ飽きたらどうだ」
雪雲に文句を言ってみたが、聞く相手もいない。一人ぼやいた言葉だけが、吐息と共に奥州の空気に消えていった。
「ん?」
屋形に近づきた時だった。雪に埋もれているとはいえ見慣れた我が家までの道のりが、ぼんやりと明るい色に染まっていた。急いで近づいてみると、道々に小さなかまくらがあって、その中にろうそくが飾られていた。
「旦那さま」
声に振り返ると、ヒロイン名前が出迎えに来た。
「ヒロイン名前、これは一体何だ」
「殿のお使いの方がいらっしゃいまして、旦那さまをこうして御迎えしろと」
屋形までの道のりに等間隔で並ぶかまくらが、こうした見た目にこだわる主の仕業であることを如実に物語っている。政務室でつい先ほどまで騒いでいたあの姿と重なってつい笑ってしまった。
「旦那さま?」
「いや、何でもねえ。それより、すごいな」
「朔の夜は光がないから、月のあるところまで光で誘導するのが一興だと仰っておられました」
「月?」
「女子のこと、だそうです」
陰陽では、男子は太陽、女子は月に例えられる。女子、つまりヒロイン名前の待つ屋形まで月明かりの代わりにかまくらろうそくが誘導してくれるという趣向のようだ。
「ったく、あの方は」
「あと、こうも仰られてました。ろうそくは長めのものを用意したから、新年が明けても飽きるまで話が出来るぞ、と」
自分にかまけてヒロイン名前を後回しにしがちな小十郎への、政宗なりの詫びと忠告だった。
「……そいつは、ありがたいな。じゃあ、家に戻るか」
「はい。あ、遅くなりましたが」
何だと振り返る。
「おかえりなさいませ、旦那さま。今年一年、お勤めご苦労さまでした」
ぺこりと頭を下げる妻に、小十郎の口元は自然と緩むのだった。
(了)
「それが今年と言う訳か」
どうりで、松明の明かりが随分明るく見える訳だ。
冬至は一年で最も日の入りが早い。そして、朔の日は新月の日こと。つまり、今晩は例年になく夜が長いということだ。
「これでは、炊事作業も大変だろう。……すぐに帰ると言ったんだんがな」
屋形で正月の準備に一人追われるヒロイン名前のことを思った。
政宗の脱走癖のおかげで、執務室に思った以上にこもっていた。本来なら、随分前に政務は終わっているはずだった。だが、南蛮宗教の生誕祭にかこつけた祭りを開くだのなんだのと、主は政務をそっちのけで大騒ぎしていた。
おかげで政務が大幅に遅れ、同時に正月支度の段取りも遅れに遅れ、結果として自宅の正月支度を妻に任せる形になってしまった。
政宗の性癖も小十郎の忠誠心も知っているため、ヒロイン名前は自分が二の次になっても文句の一つも言わない。武家の妻のあるべき姿だが、まだ子のいないあの家にただ一人自分を待つ彼女のことを思うと、自然と足が速くなった。
空を見上げると、奥州特有の雪雲と幾分か和らいだものの相も変わらず雪がちらついているのが見えた。足元の雪がどんどん深くなっていて、屋形までの道のりが遠く感じる。
「ちっ、ちったあ飽きたらどうだ」
雪雲に文句を言ってみたが、聞く相手もいない。一人ぼやいた言葉だけが、吐息と共に奥州の空気に消えていった。
「ん?」
屋形に近づきた時だった。雪に埋もれているとはいえ見慣れた我が家までの道のりが、ぼんやりと明るい色に染まっていた。急いで近づいてみると、道々に小さなかまくらがあって、その中にろうそくが飾られていた。
「旦那さま」
声に振り返ると、ヒロイン名前が出迎えに来た。
「ヒロイン名前、これは一体何だ」
「殿のお使いの方がいらっしゃいまして、旦那さまをこうして御迎えしろと」
屋形までの道のりに等間隔で並ぶかまくらが、こうした見た目にこだわる主の仕業であることを如実に物語っている。政務室でつい先ほどまで騒いでいたあの姿と重なってつい笑ってしまった。
「旦那さま?」
「いや、何でもねえ。それより、すごいな」
「朔の夜は光がないから、月のあるところまで光で誘導するのが一興だと仰っておられました」
「月?」
「女子のこと、だそうです」
陰陽では、男子は太陽、女子は月に例えられる。女子、つまりヒロイン名前の待つ屋形まで月明かりの代わりにかまくらろうそくが誘導してくれるという趣向のようだ。
「ったく、あの方は」
「あと、こうも仰られてました。ろうそくは長めのものを用意したから、新年が明けても飽きるまで話が出来るぞ、と」
自分にかまけてヒロイン名前を後回しにしがちな小十郎への、政宗なりの詫びと忠告だった。
「……そいつは、ありがたいな。じゃあ、家に戻るか」
「はい。あ、遅くなりましたが」
何だと振り返る。
「おかえりなさいませ、旦那さま。今年一年、お勤めご苦労さまでした」
ぺこりと頭を下げる妻に、小十郎の口元は自然と緩むのだった。
(了)