戦国bsr読み切り短編集
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小十郎が、死んだ――。
白石からの早駆けの馬が到着したと聞いた時から、嫌な予感はしていた。
正直、いつ到着してもおかしくないと思っていた。
数ヶ月前の大坂出兵の際、起きられず床に伏していたアイツ。
重い不治の病を患い、浮腫が進んだ身体は昔の面影さえなく、だが脳ミソは相変わらず軍師のままだったアイツ。
じいさんになったオレに、昔と同じように説教をしてきたアイツ(説教なら忠輝にしてくれ)。
オレより十も上で、本当はオレより熱く先走りやすく、けれど誰よりいつも己を律し、制し、オレのため、伊達のために生き抜いたアイツ。
「こじゅ、ろ……!」
まさか、アレが最期の別れだったとはな。
笑えないjokeだ。
小十郎の葬儀が終わると何もする気になれず、オレは毎日ぼんやりと過ごしていた。
幸いと言っちゃ何だが、家康の治める世の中はつまらねぇほど平和で、政務が滞ろうが問題はなかった。
「今となっちゃ、うるさく言うヤツもいねぇしな」
おかげで、サボりたい放題だ。
今日だって、オレの心情をおもんばかってか、誰も何も言ってこねえ。
でも、鬼の形相で、城下だろうとどこだろうと追いかけてきた小十郎がいねぇのは、やっぱり、
「つまんねぇな……」
翌日。
書き付けを残し、早朝に城を出た。
馬を飛ばし訪ねたのは、白石のとある寺。
「来たぜ、小十郎」
墓標代わりの杉の木の前に立つ。
墓標なんざ必要ねぇという本人の遺志を尊重しつつ、残された者のために定められたコイツは、これが墓標だとあらかじめ言われなきゃ分からねぇくらい、まわりの杉と同じだった。
「そういう配慮、お前らしいよな」
お忍び装束を解き、ようやくいつもの格好で小十郎と相対する。
「小十郎、今どの辺にいるんだ?」
酒の入った小瓶を懐から取り出し、杯に注ぐ。一杯目は杉の木にかけてやり、二杯目は自分の口に運んだ。
「お前のことだ、閻魔を落としにかかってたりすんだろ?」
当然、返ってくる言葉はない。
「お前がいねぇと、すげぇ気がラクだぜ。政務もサボりたい放題、放っておいてもツナたちが代わりにやってくれるしな」
ざわわ、と、木の葉が揺れる。まるで、小十郎がため息をついたみてぇだ。
「何だよ、ちゃんとやるときゃやってるよ。そんなに気になるなら、側にいろよ」
もう一度、木の葉が揺れる。困ったような揺れ方だった。
「……何だよ、無理とか言うなよ。お前がいねぇと、つまんねぇじゃねぇか……」
杯をあおる。
あおったはずみで、目から雫がこぼれた。
「っ……」
こぼれたついでに、止めどなく溢れるモノを流し切ろうと思った。
どんくらい泣いてたかは分からねぇが、目と鼻と、ついでに耳もツーンとしてきたし、いい加減泣くのも飽きたから、オレは一度深呼吸した。
「泣いたら目をぬぐうな、だったな」
目が腫れるから、というのが理由だ。
教えてくれたのは誰だったか。
まあ、んなこと教えてくれんのは一人しかいねぇな。
「……ああ、そうか」
小十郎、お前は死んでもオレの中に生きてるんだな。
お前の教え、お前の思い、それら全て、今を生きるオレの中に根付いていて、オレの心の臓が動きを止めるその日まで、お前の全てがオレを助けてくれるんだな。
そう思ったら、背筋が伸びた。
「ガキみてぇに、泣いてる場合じゃねぇな」
帰って政務をやらねぇと。オレが出来ることっつったら、それしかねぇもんな。
再びお忍び装束を身に付けると、遠くで雷鳴が聞こえた。
「おっと、早く帰らねぇとな」
故人の口真似をすると、少し可笑しくなって笑いがこみあげた。
「じゃぁな、小十郎。行くぜ」
墓前に手を合わし、後ろを振り向かず繋いでいた馬の元へ戻った。
空を見上げると、竜みてぇな雲が仙台に向かって流れていた。
アレより先に政務室に戻らねぇと。
何故か、こう思った。
(了)
白石からの早駆けの馬が到着したと聞いた時から、嫌な予感はしていた。
正直、いつ到着してもおかしくないと思っていた。
数ヶ月前の大坂出兵の際、起きられず床に伏していたアイツ。
重い不治の病を患い、浮腫が進んだ身体は昔の面影さえなく、だが脳ミソは相変わらず軍師のままだったアイツ。
じいさんになったオレに、昔と同じように説教をしてきたアイツ(説教なら忠輝にしてくれ)。
オレより十も上で、本当はオレより熱く先走りやすく、けれど誰よりいつも己を律し、制し、オレのため、伊達のために生き抜いたアイツ。
「こじゅ、ろ……!」
まさか、アレが最期の別れだったとはな。
笑えないjokeだ。
小十郎の葬儀が終わると何もする気になれず、オレは毎日ぼんやりと過ごしていた。
幸いと言っちゃ何だが、家康の治める世の中はつまらねぇほど平和で、政務が滞ろうが問題はなかった。
「今となっちゃ、うるさく言うヤツもいねぇしな」
おかげで、サボりたい放題だ。
今日だって、オレの心情をおもんばかってか、誰も何も言ってこねえ。
でも、鬼の形相で、城下だろうとどこだろうと追いかけてきた小十郎がいねぇのは、やっぱり、
「つまんねぇな……」
翌日。
書き付けを残し、早朝に城を出た。
馬を飛ばし訪ねたのは、白石のとある寺。
「来たぜ、小十郎」
墓標代わりの杉の木の前に立つ。
墓標なんざ必要ねぇという本人の遺志を尊重しつつ、残された者のために定められたコイツは、これが墓標だとあらかじめ言われなきゃ分からねぇくらい、まわりの杉と同じだった。
「そういう配慮、お前らしいよな」
お忍び装束を解き、ようやくいつもの格好で小十郎と相対する。
「小十郎、今どの辺にいるんだ?」
酒の入った小瓶を懐から取り出し、杯に注ぐ。一杯目は杉の木にかけてやり、二杯目は自分の口に運んだ。
「お前のことだ、閻魔を落としにかかってたりすんだろ?」
当然、返ってくる言葉はない。
「お前がいねぇと、すげぇ気がラクだぜ。政務もサボりたい放題、放っておいてもツナたちが代わりにやってくれるしな」
ざわわ、と、木の葉が揺れる。まるで、小十郎がため息をついたみてぇだ。
「何だよ、ちゃんとやるときゃやってるよ。そんなに気になるなら、側にいろよ」
もう一度、木の葉が揺れる。困ったような揺れ方だった。
「……何だよ、無理とか言うなよ。お前がいねぇと、つまんねぇじゃねぇか……」
杯をあおる。
あおったはずみで、目から雫がこぼれた。
「っ……」
こぼれたついでに、止めどなく溢れるモノを流し切ろうと思った。
どんくらい泣いてたかは分からねぇが、目と鼻と、ついでに耳もツーンとしてきたし、いい加減泣くのも飽きたから、オレは一度深呼吸した。
「泣いたら目をぬぐうな、だったな」
目が腫れるから、というのが理由だ。
教えてくれたのは誰だったか。
まあ、んなこと教えてくれんのは一人しかいねぇな。
「……ああ、そうか」
小十郎、お前は死んでもオレの中に生きてるんだな。
お前の教え、お前の思い、それら全て、今を生きるオレの中に根付いていて、オレの心の臓が動きを止めるその日まで、お前の全てがオレを助けてくれるんだな。
そう思ったら、背筋が伸びた。
「ガキみてぇに、泣いてる場合じゃねぇな」
帰って政務をやらねぇと。オレが出来ることっつったら、それしかねぇもんな。
再びお忍び装束を身に付けると、遠くで雷鳴が聞こえた。
「おっと、早く帰らねぇとな」
故人の口真似をすると、少し可笑しくなって笑いがこみあげた。
「じゃぁな、小十郎。行くぜ」
墓前に手を合わし、後ろを振り向かず繋いでいた馬の元へ戻った。
空を見上げると、竜みてぇな雲が仙台に向かって流れていた。
アレより先に政務室に戻らねぇと。
何故か、こう思った。
(了)