風読みの者
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両親から引き離され、特別な人間だと言われ厳しい道に進まざるを得なかった。やらされている感が強い中、中途半端な覚悟で使った力が近くにいた者を傷つけ初めてその力の怖さを知った。
知って、初めて分かった。ヒロイン名前が恨むべき相手は、己自身だったのだと。
その思いに拍車をかけたのが、傷があるせいで小十郎が養子先で散々嫌なことを言われた現実であった。
「私、それが嫌で……」
小十郎はふっと笑うと、俯くヒロイン名前の頭を軽く撫でた。
「今だから分かるんだけどよ、藤田は自分たちに子がいねえって現実がつらかったんだよ。傷になんくせつけて俺にあたり散らしてねえと、多分やってられなかったんだろうよ」
欲するものが大きければ大きいほど、人は側にある代わりのものを疎ましく感じることがある。
「……うん。ありがとう、そう言ってくれると楽になる」
「思ったことを言ったまでだ」
ヒロイン名前は笑った。
「じゃあ、風の丘に行ってくるわ。小十郎も傅役頑張って。あんまり、梵天丸さまをいじめちゃだめよ」
「いじめてねえよ」
「そう? 稽古って言って傷だらけにしそうだもの、あなたって」
茶化すように笑うと、ヒロイン名前は背中を向けた。
(……あなた、か)
小十郎は、その言葉を別の意味で捉えすぐに頭を振った。
いつからかヒロイン名前に好意を寄せていて、その想いは年々強さを増している。この間など彼女を抱きつぶす夢を見たほどで、若さ特有の熱を花街で吐き出さなければ本当に手を出しそうな自分に辟易していた。
貞操観念の強い時代ではないし、ヒロイン名前も小十郎を想っている節があるので、ヒロイン名前さえ首を縦に振れば身体を重ねることは出来るだろう。
ただ、小十郎の扶持は殆どなく妻帯することは出来ない。身体を重ねればその先も望んでしまうし、だからこそ我慢の一手を貫いている小十郎であった。
「……見ーちゃった」
背後の気配に気づかなかった。慌てて振り返ると、そこにいたのは城主である輝宗だった。
「て、輝宗さま!」
「いい雰囲気だったけど、二人ってそうなのかい?」
明らかに小十郎の反応を楽しんでいる輝宗に、小十郎は盛大なため息をついた。
「このようなところでどうなされたのですか」
「あ、そらした」
「梵天丸さまなら道場にございます」
「かわいくないなー」
「かわいくなくて結構」
「む、そんな子にはびっくりnewsでおしおきしちゃうぞ」
そう言うと、ひざまずいていたため簡単に首根をとられた。そして、すばやく耳元に口を寄せられた。
「……さっき、矢内から内々に打診があったんだ。“ヒロイン名前に良談を探しております”ってね」
小十郎は息を飲んだ。
「矢内のところに行くんだ、小十郎。今ならまだ間に合う」
「しかしっ……」
「ヒロイン名前が好きなんだろう?」
じっと見つめられる。何もかもを見透かされたような瞳の前では嘘はつけない。
「……はい」
「じゃあ、今すぐ行くんだ。結果はどうであれ、まずは行動すること。後悔しないよう、考えた通りにやってごらん」
小十郎は戸惑っていたが、輝宗に背中を軽く叩かれ意を決してその場を後にした。
「さて、と。結果が楽しみだな」
にやりと笑うと、輝宗は空を見上げた。
息を切らし走り続けたどり着いたのは、矢内重定の家。小十郎は、重定に直談判をしに来たのである。
「お頼申す!」
「はい…、小十郎?」
驚いたことに、出てきたのは風の丘に行ったはずのヒロイン名前だった。
「お前、何でここに?」
「父上に、丘に行く前にこちらに顔を出すよう言われてたの」
一人前の風読みとなったヒロイン名前は、今は親元に戻って生活している。とは言え、この家に帰って来られるのは月に数日、それも幼い頃引き離された両親とはぎこちない間柄のためこの家に寄りつこうとしない。だから、彼女がここにいることが意外だったし、時機が悪いと思った。親に婚姻を願うならまだしも、本人もいるところでとなると相当恥ずかしい。
だが、迷っている間にもヒロイン名前の縁談話は進んでしまう。
「矢内さまは御在宅か?」
「え、ええ。ちょうどよかったわ、小十郎がもし来ることがあれば座に通すよう言われ…ちょ、ちょっと小十郎!?」
手をむんずと掴まれ、その座へと連行される。何が何だか分からぬまま父の前にやってくると、突然小十郎が平伏した。
「突然の訪問、お許し頂きたい。片倉小十郎にございます」
「来ると思うておったよ」
重定は書を読みながらゆるりと茶を飲んでいた。
「して、ここに来たということは、おぬしが“そういうつもり”であると思うて良いのかな?」
瞬間、小十郎は全てを悟った。
(こいつは、全て輝宗さまの謀りごとか!)
ヒロイン名前が矢内家に戻る日を見計らって小十郎に縁談の話を耳打ちし、重定の元に走るか走らないかで彼女の嫁ぎ先を決めるつもりだったのだ。もちろん、父である重定も一枚噛んでいるに違いない。
(どちらも、食えない方だ)
にやりと笑う。のちに軍師となる小十郎が手本とするのがこの二人だが、それは余談である。
「父上、一体何のお話ですか?」
「それは、俺から話をする」
戸惑うヒロイン名前をなだめ、小十郎は重定にもう一度頭を下げた。
「矢内さま、ヒロイン名前を私にいただきたい」
「小十郎!?」
ヒロイン名前が口に手を当てる。
「ですが、今の扶持で大切な娘御を妻にとお願いするのは厚顔。ゆえに、人並みの扶持になるまで待って頂きたい」
手に持っていた書を置くと、重定はヒロイン名前を見やった。
「とのことだが、お前はどうする?」
「ど、どうと、仰られても……」
「この男のことを、好いておるのだろう?」
ヒロイン名前の頬が一気に紅潮した。
「お前さえ待つ気があるのなら、今回殿に願い出た縁談の話はなかったことにして頂くつもりだ」
「縁談!? そんなものお断りして下さい! 私はっ……」
「この男を、好いておるのだろう?」
同じ質問をされ、ヒロイン名前はついに頷いた。
「なら、話は早い。片倉、おぬしと娘を許嫁とする。あまり待たせるな、はよう出世せよ」
「っ、は!」
「お、お待ち下さい! 私は風読みの者です、婚姻してはお役目に支障が出ます!」
すっと、目の前に書が差し出される。先ほどまで重定が読んでいたもので、伊達家の過去の評定記録だった。
「録に、風読みの者が女子であった時のものがあるのではと思ってな」
矢内家は、代々検断職を務めている。その者が婚姻したかどうか気になった重定は、9代政宗公の頃まで遡ってそれを見つけた。驚くことに、その時の風読みは九代政宗公の側室で、もちろん子を成すことも求められていたから、産時を冬場にするなど戦に支障がないよう考慮して夫婦生活を営んでいたと記されていた。
「おぬし自身の幸せを、ちゃんと考えてよいのだよ」
「父上……」
「おぬしは、ここにいることで既にたくさんの者を幸せにしている。この父も、そして片倉もな」
小十郎も、目がしらが熱くなるのを必死に我慢し頷いた。
「父上、小十郎……っ」
書を抱き、ヒロイン名前は泣いた。
数年後、戦場にヒロイン名前の姿があった。肌護りに産まれた我が子たちの手形を常に持ち歩いていて、この子たちを護ることが伊達のためになると口癖のように言っていた。
夫たる小十郎と共に政宗の腹心として側につかえ、亡くなるその日まで風を読み続けたという。
(了)
知って、初めて分かった。ヒロイン名前が恨むべき相手は、己自身だったのだと。
その思いに拍車をかけたのが、傷があるせいで小十郎が養子先で散々嫌なことを言われた現実であった。
「私、それが嫌で……」
小十郎はふっと笑うと、俯くヒロイン名前の頭を軽く撫でた。
「今だから分かるんだけどよ、藤田は自分たちに子がいねえって現実がつらかったんだよ。傷になんくせつけて俺にあたり散らしてねえと、多分やってられなかったんだろうよ」
欲するものが大きければ大きいほど、人は側にある代わりのものを疎ましく感じることがある。
「……うん。ありがとう、そう言ってくれると楽になる」
「思ったことを言ったまでだ」
ヒロイン名前は笑った。
「じゃあ、風の丘に行ってくるわ。小十郎も傅役頑張って。あんまり、梵天丸さまをいじめちゃだめよ」
「いじめてねえよ」
「そう? 稽古って言って傷だらけにしそうだもの、あなたって」
茶化すように笑うと、ヒロイン名前は背中を向けた。
(……あなた、か)
小十郎は、その言葉を別の意味で捉えすぐに頭を振った。
いつからかヒロイン名前に好意を寄せていて、その想いは年々強さを増している。この間など彼女を抱きつぶす夢を見たほどで、若さ特有の熱を花街で吐き出さなければ本当に手を出しそうな自分に辟易していた。
貞操観念の強い時代ではないし、ヒロイン名前も小十郎を想っている節があるので、ヒロイン名前さえ首を縦に振れば身体を重ねることは出来るだろう。
ただ、小十郎の扶持は殆どなく妻帯することは出来ない。身体を重ねればその先も望んでしまうし、だからこそ我慢の一手を貫いている小十郎であった。
「……見ーちゃった」
背後の気配に気づかなかった。慌てて振り返ると、そこにいたのは城主である輝宗だった。
「て、輝宗さま!」
「いい雰囲気だったけど、二人ってそうなのかい?」
明らかに小十郎の反応を楽しんでいる輝宗に、小十郎は盛大なため息をついた。
「このようなところでどうなされたのですか」
「あ、そらした」
「梵天丸さまなら道場にございます」
「かわいくないなー」
「かわいくなくて結構」
「む、そんな子にはびっくりnewsでおしおきしちゃうぞ」
そう言うと、ひざまずいていたため簡単に首根をとられた。そして、すばやく耳元に口を寄せられた。
「……さっき、矢内から内々に打診があったんだ。“ヒロイン名前に良談を探しております”ってね」
小十郎は息を飲んだ。
「矢内のところに行くんだ、小十郎。今ならまだ間に合う」
「しかしっ……」
「ヒロイン名前が好きなんだろう?」
じっと見つめられる。何もかもを見透かされたような瞳の前では嘘はつけない。
「……はい」
「じゃあ、今すぐ行くんだ。結果はどうであれ、まずは行動すること。後悔しないよう、考えた通りにやってごらん」
小十郎は戸惑っていたが、輝宗に背中を軽く叩かれ意を決してその場を後にした。
「さて、と。結果が楽しみだな」
にやりと笑うと、輝宗は空を見上げた。
息を切らし走り続けたどり着いたのは、矢内重定の家。小十郎は、重定に直談判をしに来たのである。
「お頼申す!」
「はい…、小十郎?」
驚いたことに、出てきたのは風の丘に行ったはずのヒロイン名前だった。
「お前、何でここに?」
「父上に、丘に行く前にこちらに顔を出すよう言われてたの」
一人前の風読みとなったヒロイン名前は、今は親元に戻って生活している。とは言え、この家に帰って来られるのは月に数日、それも幼い頃引き離された両親とはぎこちない間柄のためこの家に寄りつこうとしない。だから、彼女がここにいることが意外だったし、時機が悪いと思った。親に婚姻を願うならまだしも、本人もいるところでとなると相当恥ずかしい。
だが、迷っている間にもヒロイン名前の縁談話は進んでしまう。
「矢内さまは御在宅か?」
「え、ええ。ちょうどよかったわ、小十郎がもし来ることがあれば座に通すよう言われ…ちょ、ちょっと小十郎!?」
手をむんずと掴まれ、その座へと連行される。何が何だか分からぬまま父の前にやってくると、突然小十郎が平伏した。
「突然の訪問、お許し頂きたい。片倉小十郎にございます」
「来ると思うておったよ」
重定は書を読みながらゆるりと茶を飲んでいた。
「して、ここに来たということは、おぬしが“そういうつもり”であると思うて良いのかな?」
瞬間、小十郎は全てを悟った。
(こいつは、全て輝宗さまの謀りごとか!)
ヒロイン名前が矢内家に戻る日を見計らって小十郎に縁談の話を耳打ちし、重定の元に走るか走らないかで彼女の嫁ぎ先を決めるつもりだったのだ。もちろん、父である重定も一枚噛んでいるに違いない。
(どちらも、食えない方だ)
にやりと笑う。のちに軍師となる小十郎が手本とするのがこの二人だが、それは余談である。
「父上、一体何のお話ですか?」
「それは、俺から話をする」
戸惑うヒロイン名前をなだめ、小十郎は重定にもう一度頭を下げた。
「矢内さま、ヒロイン名前を私にいただきたい」
「小十郎!?」
ヒロイン名前が口に手を当てる。
「ですが、今の扶持で大切な娘御を妻にとお願いするのは厚顔。ゆえに、人並みの扶持になるまで待って頂きたい」
手に持っていた書を置くと、重定はヒロイン名前を見やった。
「とのことだが、お前はどうする?」
「ど、どうと、仰られても……」
「この男のことを、好いておるのだろう?」
ヒロイン名前の頬が一気に紅潮した。
「お前さえ待つ気があるのなら、今回殿に願い出た縁談の話はなかったことにして頂くつもりだ」
「縁談!? そんなものお断りして下さい! 私はっ……」
「この男を、好いておるのだろう?」
同じ質問をされ、ヒロイン名前はついに頷いた。
「なら、話は早い。片倉、おぬしと娘を許嫁とする。あまり待たせるな、はよう出世せよ」
「っ、は!」
「お、お待ち下さい! 私は風読みの者です、婚姻してはお役目に支障が出ます!」
すっと、目の前に書が差し出される。先ほどまで重定が読んでいたもので、伊達家の過去の評定記録だった。
「録に、風読みの者が女子であった時のものがあるのではと思ってな」
矢内家は、代々検断職を務めている。その者が婚姻したかどうか気になった重定は、9代政宗公の頃まで遡ってそれを見つけた。驚くことに、その時の風読みは九代政宗公の側室で、もちろん子を成すことも求められていたから、産時を冬場にするなど戦に支障がないよう考慮して夫婦生活を営んでいたと記されていた。
「おぬし自身の幸せを、ちゃんと考えてよいのだよ」
「父上……」
「おぬしは、ここにいることで既にたくさんの者を幸せにしている。この父も、そして片倉もな」
小十郎も、目がしらが熱くなるのを必死に我慢し頷いた。
「父上、小十郎……っ」
書を抱き、ヒロイン名前は泣いた。
数年後、戦場にヒロイン名前の姿があった。肌護りに産まれた我が子たちの手形を常に持ち歩いていて、この子たちを護ることが伊達のためになると口癖のように言っていた。
夫たる小十郎と共に政宗の腹心として側につかえ、亡くなるその日まで風を読み続けたという。
(了)