戦国bsr読み切り短編集
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~チャイナドレスはいかが~
「ねえ、見て見て!」
新妻が嬉しげに呼ぶため、小十郎は読みかけの本をテーブルに置きクローゼット室に行った。
「……何だ、その格好は」
そこで妻は、赤いチャイナドレスを着ていた。
「これね、明日のデモンストレーションで着る衣装なの」
妻のヒロイン名前は、スーパーなどで試食をすすめるデモンストレーターをしている。
普段はエプロンスタイルが定番だが、メーカーの意向でたまに着ぐるみやコスプレまがいの格好をすることがある。
「どんなデモンストレーションなんだ」
妻にこんな格好させてと、少々不機嫌でいると。
「今度のお仕事、中華料理の試食販売なの。ほら、小十郎の知り合いの竹中さんが勤めてるとこだよ。是非わたしをって指名してくれたんだ」
今度会ったら、ただじゃおかねえ。
一人殺気を放つが、ヒロイン名前はお構い無しに鏡の前でくるくる回っている。
「すごい、スリットってこんなに深いんだ。チャイナドレス初めてだから、嬉しいんだよね」
白く長い太ももを惜し気もなくひけらかすように、妻はスリットをめくる。
「うわ~、腕も殆ど袖無しに近いね」
小十郎の眉間のシワと表情は、どんどん深く険しくなっていく。
ただ、こうして見ると、妻はスタイルがいいのだと改めて思う。いつも、あまり露出度の高くない服を着るため忘れがちだが、体に密着するように形成されたこのドレスは、彼女の体型をとても美しく見せている。
『彼女ほどの器だ。着飾ってやるのが男の甲斐性だと思わないかい?』
半兵衛から先ほど届いた、意味不明のメール。これを意味していたのだと、ようやく合点がいった。
「小十郎?」
鏡越しに目を合わすと、小十郎はふっと笑った。
「いや、何でもねえよ」
「そう?もしかして、わたし変?」
心配そうに首を傾げれば、その可愛い仕草と妖艶な姿のギャップがおかしくて、また笑いが込み上げた。
「あ、何でまた笑ってるのよ!」
顔を赤らめて頬を膨らます妻が愛しくて、背中から抱き締めた。
「似合ってるぜ。綺麗だ」
「本当?」
「ああ。他の男に見せるのが癪なくらいだ。……そうだな、俺のもんだって印でもつけとくか」
「は!?何言っ……、ん!」
首筋の、それも顔に近い辺りを甘噛みすると、白い肌に赤い跡が。
「小、小十郎!」
「ついでに、服の下にもつけとくか」
まんまと半兵衛の策にはまったことは気に入らないが、目の前の彼女を見ているとそんなことはどうでも良くなる。
「さて、チャイナドレスってのはどう脱がすんだ?」
にやりと笑った夫に、妻は一人わたわたするしかなかった。
~着ぐるみにはご注意を~
珍しく、ヒロイン名前から、
『仕事先に来ない?』
と、メールが来た。いつもは、試食販売をしている姿を見られたくない一心から、絶対店に来るなと言うのにだ。
(遊びに来いなんて、きまぐれか?……いや、あいつがきまぐれ起こす訳ねえな)
政宗みたく一本木な性格で、だからこそ惚れたのだが、そう言えば主もたまにきまぐれを起こすなと思い、ならば彼女もあってしかるべきと思い直した。
基準は全て政宗かと自らに突っ込みを終えたところで、人でごったがえす大型スーパーへ足を向けた。
「確か、今日は清涼飲料水の仕事だっつってたな」
ペットボトルの冷蔵コーナーに群がる子供たちに交じり、強面の男が困惑しながら指定された場所へたどり着くと。
「……何だ、ありゃ」
見慣れない、いや、どこかで見たことある気がする青い物体が、手(とおぼしきもの)をヒラヒラ振っているのが見えた。
「qoo、かわわい~!」
「どうぞ、握手してって下さいね。一緒に写真撮って下さっても構いませんよ」
ヒロイン名前は、その青い物体の隣で着ぐるみ目当ての客をさばきつつ、キャラクターと同じ名前のペットボトルをPR、販売していた。
「あ、小十郎!」
一段落したところで、新妻がヒラヒラと手を振ってきた。
「嬉しい、来てくれたんだ」
「お前の仕事っぷりを、一度拝んでみてえと思ってたんでな」
それは勘弁と苦笑し、思い出したようにそれでねと口にした。
「この着ぐるみ、qooっていうの。人気なのに、着ぐるみ自体なかなか登場しないのよ。貴重なチャンスだから、一緒に写真撮ったらと思って誘ったの」
「………………じょ」
「冗談ではござらぬ、片倉どの!」
妻とは明らかに違う声が、どこからか聞こえてきた。
「もう、真田さんしゃべっちゃダメです!何回言ったら分かるんですか!今の貴方は、qooなんですから!」
小声で怒鳴った妻に、同じく小声で済まぬと答えた着ぐるみの中の人は、明らかに小十郎の知った人物だった。
「お前、真田か?」
口答の代わりに、巨大な頭が揺れる。
「実は真田さん、小十郎に聞いて欲しい話があるんだって。でも、連絡先が分からなかったらしくて、それでメールしたの」
小十郎は、ようやく合点がいった。
(“仕事先に来ない?”ってのは、こういうことか)
別に、遊びに来て欲しいと書かれていた訳ではない。小十郎が、勝手にそう思い込んだだけだったのだ。
「せっかくのお休みにも関わらず、ご足労感謝致しまする。ヒロイン名前どのには、連絡先をお教え頂くだけで結構と申し上げたのでござるが……」
着ぐるみは、出来うる限りのミニマムボリュームで小十郎に耳打ちした。当然、巨大な顔が小十郎にすり寄る格好となる。
と、その時。
「ナイスアングル☆」
ヒロイン名前が、携帯片手に満面の笑みを見せていた。
「お、おい、何を撮ったんだ?」
「小十郎とqooのツーショット。qooがチューしてるみたいで可愛かったよ~」
「チュ、チューなど、破廉恥にござっ……!!」
「どっから聞こえるのかしら、この声?」
着ぐるみにすごんだ妻は、自分と十分ためをはれると小十郎は思った。
「皆さーん、qooはお昼の2時に戻ってきまーす。じゃ、小十郎後でね。qooちゃん、行きましょう」
名残惜しそうに着ぐるみにまとわりつく子供らと一緒に、二人はバックヤードへと消えていった。
ところで、小十郎の頭の中はある思いでいっぱいだった。
勿論、携帯画像のことではない。
(真田のヤロウ、ヒロイン名前に手引っ張られて帰りやがったな)
着ぐるみは視界不良のため、先導してもらわないと歩けない事実を彼は失念していた。いつもの彼なら容易に想像出来るが、愛しい妻が絡むと、途端頭のネジがイカれるのがたまに傷であった。
(帰ったら仕置きだな。覚悟してろよ、ヒロイン名前)
ニヤリと笑えば近くの子供が大泣きしたが、強面に意見出来る勇者はここにはいなかった。
そしてこの後、幸村が小十郎に話を聞いてもらえなかったのは言うまでもない。
(了)
「ねえ、見て見て!」
新妻が嬉しげに呼ぶため、小十郎は読みかけの本をテーブルに置きクローゼット室に行った。
「……何だ、その格好は」
そこで妻は、赤いチャイナドレスを着ていた。
「これね、明日のデモンストレーションで着る衣装なの」
妻のヒロイン名前は、スーパーなどで試食をすすめるデモンストレーターをしている。
普段はエプロンスタイルが定番だが、メーカーの意向でたまに着ぐるみやコスプレまがいの格好をすることがある。
「どんなデモンストレーションなんだ」
妻にこんな格好させてと、少々不機嫌でいると。
「今度のお仕事、中華料理の試食販売なの。ほら、小十郎の知り合いの竹中さんが勤めてるとこだよ。是非わたしをって指名してくれたんだ」
今度会ったら、ただじゃおかねえ。
一人殺気を放つが、ヒロイン名前はお構い無しに鏡の前でくるくる回っている。
「すごい、スリットってこんなに深いんだ。チャイナドレス初めてだから、嬉しいんだよね」
白く長い太ももを惜し気もなくひけらかすように、妻はスリットをめくる。
「うわ~、腕も殆ど袖無しに近いね」
小十郎の眉間のシワと表情は、どんどん深く険しくなっていく。
ただ、こうして見ると、妻はスタイルがいいのだと改めて思う。いつも、あまり露出度の高くない服を着るため忘れがちだが、体に密着するように形成されたこのドレスは、彼女の体型をとても美しく見せている。
『彼女ほどの器だ。着飾ってやるのが男の甲斐性だと思わないかい?』
半兵衛から先ほど届いた、意味不明のメール。これを意味していたのだと、ようやく合点がいった。
「小十郎?」
鏡越しに目を合わすと、小十郎はふっと笑った。
「いや、何でもねえよ」
「そう?もしかして、わたし変?」
心配そうに首を傾げれば、その可愛い仕草と妖艶な姿のギャップがおかしくて、また笑いが込み上げた。
「あ、何でまた笑ってるのよ!」
顔を赤らめて頬を膨らます妻が愛しくて、背中から抱き締めた。
「似合ってるぜ。綺麗だ」
「本当?」
「ああ。他の男に見せるのが癪なくらいだ。……そうだな、俺のもんだって印でもつけとくか」
「は!?何言っ……、ん!」
首筋の、それも顔に近い辺りを甘噛みすると、白い肌に赤い跡が。
「小、小十郎!」
「ついでに、服の下にもつけとくか」
まんまと半兵衛の策にはまったことは気に入らないが、目の前の彼女を見ているとそんなことはどうでも良くなる。
「さて、チャイナドレスってのはどう脱がすんだ?」
にやりと笑った夫に、妻は一人わたわたするしかなかった。
~着ぐるみにはご注意を~
珍しく、ヒロイン名前から、
『仕事先に来ない?』
と、メールが来た。いつもは、試食販売をしている姿を見られたくない一心から、絶対店に来るなと言うのにだ。
(遊びに来いなんて、きまぐれか?……いや、あいつがきまぐれ起こす訳ねえな)
政宗みたく一本木な性格で、だからこそ惚れたのだが、そう言えば主もたまにきまぐれを起こすなと思い、ならば彼女もあってしかるべきと思い直した。
基準は全て政宗かと自らに突っ込みを終えたところで、人でごったがえす大型スーパーへ足を向けた。
「確か、今日は清涼飲料水の仕事だっつってたな」
ペットボトルの冷蔵コーナーに群がる子供たちに交じり、強面の男が困惑しながら指定された場所へたどり着くと。
「……何だ、ありゃ」
見慣れない、いや、どこかで見たことある気がする青い物体が、手(とおぼしきもの)をヒラヒラ振っているのが見えた。
「qoo、かわわい~!」
「どうぞ、握手してって下さいね。一緒に写真撮って下さっても構いませんよ」
ヒロイン名前は、その青い物体の隣で着ぐるみ目当ての客をさばきつつ、キャラクターと同じ名前のペットボトルをPR、販売していた。
「あ、小十郎!」
一段落したところで、新妻がヒラヒラと手を振ってきた。
「嬉しい、来てくれたんだ」
「お前の仕事っぷりを、一度拝んでみてえと思ってたんでな」
それは勘弁と苦笑し、思い出したようにそれでねと口にした。
「この着ぐるみ、qooっていうの。人気なのに、着ぐるみ自体なかなか登場しないのよ。貴重なチャンスだから、一緒に写真撮ったらと思って誘ったの」
「………………じょ」
「冗談ではござらぬ、片倉どの!」
妻とは明らかに違う声が、どこからか聞こえてきた。
「もう、真田さんしゃべっちゃダメです!何回言ったら分かるんですか!今の貴方は、qooなんですから!」
小声で怒鳴った妻に、同じく小声で済まぬと答えた着ぐるみの中の人は、明らかに小十郎の知った人物だった。
「お前、真田か?」
口答の代わりに、巨大な頭が揺れる。
「実は真田さん、小十郎に聞いて欲しい話があるんだって。でも、連絡先が分からなかったらしくて、それでメールしたの」
小十郎は、ようやく合点がいった。
(“仕事先に来ない?”ってのは、こういうことか)
別に、遊びに来て欲しいと書かれていた訳ではない。小十郎が、勝手にそう思い込んだだけだったのだ。
「せっかくのお休みにも関わらず、ご足労感謝致しまする。ヒロイン名前どのには、連絡先をお教え頂くだけで結構と申し上げたのでござるが……」
着ぐるみは、出来うる限りのミニマムボリュームで小十郎に耳打ちした。当然、巨大な顔が小十郎にすり寄る格好となる。
と、その時。
「ナイスアングル☆」
ヒロイン名前が、携帯片手に満面の笑みを見せていた。
「お、おい、何を撮ったんだ?」
「小十郎とqooのツーショット。qooがチューしてるみたいで可愛かったよ~」
「チュ、チューなど、破廉恥にござっ……!!」
「どっから聞こえるのかしら、この声?」
着ぐるみにすごんだ妻は、自分と十分ためをはれると小十郎は思った。
「皆さーん、qooはお昼の2時に戻ってきまーす。じゃ、小十郎後でね。qooちゃん、行きましょう」
名残惜しそうに着ぐるみにまとわりつく子供らと一緒に、二人はバックヤードへと消えていった。
ところで、小十郎の頭の中はある思いでいっぱいだった。
勿論、携帯画像のことではない。
(真田のヤロウ、ヒロイン名前に手引っ張られて帰りやがったな)
着ぐるみは視界不良のため、先導してもらわないと歩けない事実を彼は失念していた。いつもの彼なら容易に想像出来るが、愛しい妻が絡むと、途端頭のネジがイカれるのがたまに傷であった。
(帰ったら仕置きだな。覚悟してろよ、ヒロイン名前)
ニヤリと笑えば近くの子供が大泣きしたが、強面に意見出来る勇者はここにはいなかった。
そしてこの後、幸村が小十郎に話を聞いてもらえなかったのは言うまでもない。
(了)