戦国bsr読み切り短編集
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「ヒロイン名前、ちょっといいか」
女中として城に奉公へあがっているヒロイン名前は、休憩中、幼なじみの小十郎に声をかけられた。
城内で、小十郎が声をかけてくるのは珍しい。幼なじみと言えど、自分とヒロイン名前の立場の違いを理解しているためだ。
「どうしたの、小十郎」
まわりに人がいないことを確認して名前を呼んだ。
「ああ。銀杏拾いに付き合っちゃくれねえか?」
「いいわよ。他の人も呼べばいいのね?」
「いや、お前だけでいい。政宗さまがお口になさる分だけ拾う」
なら小十郎一人でもいいんじゃないかと思ったが、じっと見つめてくるその瞳の奥に不安が見て取れたので、ついていくと告げると、何故かほっとしたようだった。
(あやしい……。何か画策してるわね)
表情に動揺が出るなど珍しい。小十郎が不慣れな部類の画策なのだろう。
“画策”という時点で構えたが、小十郎と二人で出掛けることには変わりない。表沙汰にはしていないが、二人は幼い頃に将来を誓い合った仲なので、久方ぶりの二人きりな時間に自然と頬は緩んだ。
政宗の意向で手入れされたいちょう並木にたどり着くと、寒さが厳しいこともあっていちょうは艶やかに黄色付いていた。
「わあ、綺麗に色付いてるね。あっ、銀杏踏んじゃった」
「そこかしこに落ちてるからな」
葉だけでなく銀杏もたくさん落ちていて、独特の匂いが辺りに充満している。
「早速拾うか」
「そうね。日が暮れる前にお城に戻りたいし」
背中合わせに屈み、早速拾い始めた。
「確か、去年も一緒に銀杏拾いに出掛けたわね」
「そうだな。あの時は、色んな奴らも一緒だったな。あれからもう一年か」
「去年のいちょうも綺麗だったけど、今年も綺麗ね」
「……今年の方が、綺麗に見えるがな」
「え?」
振り返ると、少し照れくさそうな小十郎の横顔が見えた。
「去年のいちょうより、今年の方が綺麗に見えるって言ったんだ」
「そう? 去年も綺麗だったわよ」
「……相変わらず、鈍感だな」
これみよがしにため息をつかれた。
「何が鈍感なのよー」
「お前と二人で見てる今年のいちょうの方が、綺麗だって言ってるんだ」
「な、何言ってるの!?」
小十郎の、珍しい甘い言葉。赤面するなと言う方が無理な話で、ヒロイン名前の顔は紅葉並みの紅さに染まった。
「たまにゃいいだろ。やっと二人になれたんだから」
手についた土を払うと、小十郎はヒロイン名前の頭を撫でた。
「悪かったな。しばらく放っておいて。しかし、銀杏を口実に連れ出したってのに、全然気づかれねえとは思わなかったぜ」
「だ、だって、小十郎が城内で堂々と誘ってくれると思わなかったもの。公私をすぐ切り替えられるほど、わたし器用じゃないし……」
「お前らしいな」
もう一度頭を撫でると、一つ咳払いをしてこう続けた。
「ところで、そろそろ公私を一緒にしてえんだが……。どうだ?」
「公私を一緒?」
意味が分からない体のヒロイン名前に業を煮やし、小十郎がはっきり告げた。
「一緒にならねえかって言ってるんだ」
「えっ!」
突然の求婚に、思わず声をあげた。
「何で驚くんだ。餓鬼の頃に約束しただろうが」
「そ、そうだけど……。改まって言われると、なんて言うか……」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、返事は?」
口調こそ荒いが、顔は赤く目は泳いでいて全く怖くない。堅物で通っている彼の素に、自然と笑みがこぼれた。
「何笑ってやがる」
「ごめん、嬉しくてつい。……ありがとう、小十郎。はっきりしてくれて」
「……ああ」
そっと頬に触れる手に身を委ねると、小十郎の腕に包まれた。
「来年のいちょうも、またお前と見てえ」
「わたしも。来年と言わず、死ぬまで一緒にいちょうを見ていきたいわ」
頭上から同意の言葉が降ってきて、唇に小十郎のそれがふっと触れた。
さわさわと揺れるいちょうの木が、まるで祝福してくれているようだった。
(了)
女中として城に奉公へあがっているヒロイン名前は、休憩中、幼なじみの小十郎に声をかけられた。
城内で、小十郎が声をかけてくるのは珍しい。幼なじみと言えど、自分とヒロイン名前の立場の違いを理解しているためだ。
「どうしたの、小十郎」
まわりに人がいないことを確認して名前を呼んだ。
「ああ。銀杏拾いに付き合っちゃくれねえか?」
「いいわよ。他の人も呼べばいいのね?」
「いや、お前だけでいい。政宗さまがお口になさる分だけ拾う」
なら小十郎一人でもいいんじゃないかと思ったが、じっと見つめてくるその瞳の奥に不安が見て取れたので、ついていくと告げると、何故かほっとしたようだった。
(あやしい……。何か画策してるわね)
表情に動揺が出るなど珍しい。小十郎が不慣れな部類の画策なのだろう。
“画策”という時点で構えたが、小十郎と二人で出掛けることには変わりない。表沙汰にはしていないが、二人は幼い頃に将来を誓い合った仲なので、久方ぶりの二人きりな時間に自然と頬は緩んだ。
政宗の意向で手入れされたいちょう並木にたどり着くと、寒さが厳しいこともあっていちょうは艶やかに黄色付いていた。
「わあ、綺麗に色付いてるね。あっ、銀杏踏んじゃった」
「そこかしこに落ちてるからな」
葉だけでなく銀杏もたくさん落ちていて、独特の匂いが辺りに充満している。
「早速拾うか」
「そうね。日が暮れる前にお城に戻りたいし」
背中合わせに屈み、早速拾い始めた。
「確か、去年も一緒に銀杏拾いに出掛けたわね」
「そうだな。あの時は、色んな奴らも一緒だったな。あれからもう一年か」
「去年のいちょうも綺麗だったけど、今年も綺麗ね」
「……今年の方が、綺麗に見えるがな」
「え?」
振り返ると、少し照れくさそうな小十郎の横顔が見えた。
「去年のいちょうより、今年の方が綺麗に見えるって言ったんだ」
「そう? 去年も綺麗だったわよ」
「……相変わらず、鈍感だな」
これみよがしにため息をつかれた。
「何が鈍感なのよー」
「お前と二人で見てる今年のいちょうの方が、綺麗だって言ってるんだ」
「な、何言ってるの!?」
小十郎の、珍しい甘い言葉。赤面するなと言う方が無理な話で、ヒロイン名前の顔は紅葉並みの紅さに染まった。
「たまにゃいいだろ。やっと二人になれたんだから」
手についた土を払うと、小十郎はヒロイン名前の頭を撫でた。
「悪かったな。しばらく放っておいて。しかし、銀杏を口実に連れ出したってのに、全然気づかれねえとは思わなかったぜ」
「だ、だって、小十郎が城内で堂々と誘ってくれると思わなかったもの。公私をすぐ切り替えられるほど、わたし器用じゃないし……」
「お前らしいな」
もう一度頭を撫でると、一つ咳払いをしてこう続けた。
「ところで、そろそろ公私を一緒にしてえんだが……。どうだ?」
「公私を一緒?」
意味が分からない体のヒロイン名前に業を煮やし、小十郎がはっきり告げた。
「一緒にならねえかって言ってるんだ」
「えっ!」
突然の求婚に、思わず声をあげた。
「何で驚くんだ。餓鬼の頃に約束しただろうが」
「そ、そうだけど……。改まって言われると、なんて言うか……」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、返事は?」
口調こそ荒いが、顔は赤く目は泳いでいて全く怖くない。堅物で通っている彼の素に、自然と笑みがこぼれた。
「何笑ってやがる」
「ごめん、嬉しくてつい。……ありがとう、小十郎。はっきりしてくれて」
「……ああ」
そっと頬に触れる手に身を委ねると、小十郎の腕に包まれた。
「来年のいちょうも、またお前と見てえ」
「わたしも。来年と言わず、死ぬまで一緒にいちょうを見ていきたいわ」
頭上から同意の言葉が降ってきて、唇に小十郎のそれがふっと触れた。
さわさわと揺れるいちょうの木が、まるで祝福してくれているようだった。
(了)