戦国bsr読み切り短編集
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宮城に二週連続で訪れた台風が根こそぎ暑さを連れ去ったため、秋が唐突にやって来た感が否めない昨今。
「いつもなら、薄手のコート一枚で足りるのに」
首回りが寒いからとストールを巻く。荷物になるから、出来るならまだ薄手のコートだけで済む陽気であって欲しかったが、自然相手にこればかりは仕方ない。
首回りに色が集まると印象は一気に変わる。その変化を楽しみたいので、ストールは色とりどり持っている。荷は増えるがおしゃれを楽しめるのは事実で、ヒロイン名前は文句を言いながらもこの寒さを内心歓迎していた。
「お疲れ」
後ろから聞き慣れた声がして振り返った。
「あ、片倉さん。お疲れさまです。今日はもう上がりですか?」
「ああ」
「珍しいですね」
「そんなに仕事人間じゃねえぞ、俺は」
ふっと笑い、腕に持っていたコートを羽織る。その動きがいちいち色っぽくて、こんな人に自分はよく告白されたなと思った。
「なんだ、見とれてんのか?」
「はいっ」
にやりと笑った顔が、すぐに困ったそれになった。
「だったら、早く返事をくれ。真綿で首絞められてる気分だ」
「お返事の期限まで、あと一日あります」
そう言うと、小十郎はため息をつき、分かったと言った。
「惚れた弱味だ、あと一日待ってやる」
「何で上から目線なんですか」
「返事の内容が分かってるからだ」
「“好き”って返答じゃ、ないかもしれませんよ?」
「どうだろうな」
にやりと笑うその顔を軽く睨み、ストールで口元を隠した。
ヒロイン名前は入社当初から小十郎が好きで、何度も告白しては破れていた。
それが、いつしか小十郎から好意を寄せられるようになり、先日ついに告白された。
まわりは、
「ヒロイン苗字が部長を攻め続けて、ついに寄り切った!」
と、揶揄したものだ。
だが、ヒロイン名前は何故か態度を保留した。
理由はちゃんとある。小十郎に、少しでも片思いの気持ちを味わって欲しいからだ。
(だって、ずるいじゃない。わたしはずっと片倉さん一筋で、ずっと好きって言い続けたのに、彼はわたしの気持ちを知った上で告白したんだもん。片思いのつらさとか、色々味わえばいいのよっ)
社員口の扉を開くと、ひんやりとした冷たさが頬を撫でた。
「うわっ、やっぱ寒いですね」
「そうだな」
「はー、帰ったら鍋しよっと」
「一人でか?」
「ええ。今日び、一人用の鍋の素がありますもん」
「まあ、そうだけどな」
コホンと咳払いをすると、小十郎がこんな提案をしてきた。
「どうせなら、食いにいかねえか?」
「へ?」
「本当なら俺んちに誘いてえとこだが、まだ返事をはっきりもらってねえし、連れてって襲わねえ自信はねえからな」
「はっ、おそっ!?」
「安心しろ、今はしねえよ」
くくっと笑うと、歩を止めた。
「ちょうど近くにうまい鍋屋があるが、どうだ?」
スマホを提示され、写真の鍋に思わず生唾を飲み込んだ。
「ったく、写真だけで反応すんなよ」
「だって、塩ちゃんことかすごい魅惑的……!」
「ちゃんこに反応するなんざ、相撲取りだな」
「もう、この際何言われても構いませんよ! 参りましょう、塩ちゃんこ鍋をいただきに!」
目を輝かせるヒロイン名前に、小十郎はたまらず声を出して笑った。
「お前、本当に面白えな。見てて飽きねえ」
「面白くて結構、これがわたしですから」
いばると、小十郎は肩をすくめた。
「だから、目が離せなくなったんだよ。仕事はきっちりやるくせに、飯にゃ目がなかったり、服装に合わせてストール変えたりする洒落っ気も持ち合わせてて……。もっと近くで、お前を見ていてえな」
さらりと言われたので聞き流すところだったが、公の場での告白だった。
「!!!」
ヒロイン名前は、頭が噴火するくらい血がのぼった。
「はっ、かっ、かたっ、今、こ、こくっ!!」
「何言ってんだ」
さすがの小十郎も呆れ顔になった。
「店に行くんだろ、信号渡るぞ」
コートの裾が翻る。その様があまりにかっこよく、また先ほどの告白が頭の中で繰り返されていて、ヒロイン名前には小十郎が輝いて見えた。
「ヒロイン苗字!」
呼び掛けで我に帰った時には信号は点滅していて、慌てて渡ろうとしたが、右折車に阻まれ渡るのを諦めざるを得なかった。
横断歩道向こうの小十郎が更に呆れているのが分かったが、流れる車の列ですぐ見えなくなった。
渡ったら、きっと小言を言われるだろう。だが、こう言ってやろうと思った。
いきなり再告白してきた上、いちいちかっこいい片倉さんがいけないのよ、と。
車が途切れ、横断歩道の信号が青に変わる。向かい側に小十郎の姿を見つけて心が踊った。
(しょうがないから、一日早いけど返事をしてあげます。笑って、答えを待っててくださいね!)
ヒロイン名前は横断歩道を駆け出した。ストールが、ヒロイン名前の後を追いかけるように背中で跳ねた。
(了)
「いつもなら、薄手のコート一枚で足りるのに」
首回りが寒いからとストールを巻く。荷物になるから、出来るならまだ薄手のコートだけで済む陽気であって欲しかったが、自然相手にこればかりは仕方ない。
首回りに色が集まると印象は一気に変わる。その変化を楽しみたいので、ストールは色とりどり持っている。荷は増えるがおしゃれを楽しめるのは事実で、ヒロイン名前は文句を言いながらもこの寒さを内心歓迎していた。
「お疲れ」
後ろから聞き慣れた声がして振り返った。
「あ、片倉さん。お疲れさまです。今日はもう上がりですか?」
「ああ」
「珍しいですね」
「そんなに仕事人間じゃねえぞ、俺は」
ふっと笑い、腕に持っていたコートを羽織る。その動きがいちいち色っぽくて、こんな人に自分はよく告白されたなと思った。
「なんだ、見とれてんのか?」
「はいっ」
にやりと笑った顔が、すぐに困ったそれになった。
「だったら、早く返事をくれ。真綿で首絞められてる気分だ」
「お返事の期限まで、あと一日あります」
そう言うと、小十郎はため息をつき、分かったと言った。
「惚れた弱味だ、あと一日待ってやる」
「何で上から目線なんですか」
「返事の内容が分かってるからだ」
「“好き”って返答じゃ、ないかもしれませんよ?」
「どうだろうな」
にやりと笑うその顔を軽く睨み、ストールで口元を隠した。
ヒロイン名前は入社当初から小十郎が好きで、何度も告白しては破れていた。
それが、いつしか小十郎から好意を寄せられるようになり、先日ついに告白された。
まわりは、
「ヒロイン苗字が部長を攻め続けて、ついに寄り切った!」
と、揶揄したものだ。
だが、ヒロイン名前は何故か態度を保留した。
理由はちゃんとある。小十郎に、少しでも片思いの気持ちを味わって欲しいからだ。
(だって、ずるいじゃない。わたしはずっと片倉さん一筋で、ずっと好きって言い続けたのに、彼はわたしの気持ちを知った上で告白したんだもん。片思いのつらさとか、色々味わえばいいのよっ)
社員口の扉を開くと、ひんやりとした冷たさが頬を撫でた。
「うわっ、やっぱ寒いですね」
「そうだな」
「はー、帰ったら鍋しよっと」
「一人でか?」
「ええ。今日び、一人用の鍋の素がありますもん」
「まあ、そうだけどな」
コホンと咳払いをすると、小十郎がこんな提案をしてきた。
「どうせなら、食いにいかねえか?」
「へ?」
「本当なら俺んちに誘いてえとこだが、まだ返事をはっきりもらってねえし、連れてって襲わねえ自信はねえからな」
「はっ、おそっ!?」
「安心しろ、今はしねえよ」
くくっと笑うと、歩を止めた。
「ちょうど近くにうまい鍋屋があるが、どうだ?」
スマホを提示され、写真の鍋に思わず生唾を飲み込んだ。
「ったく、写真だけで反応すんなよ」
「だって、塩ちゃんことかすごい魅惑的……!」
「ちゃんこに反応するなんざ、相撲取りだな」
「もう、この際何言われても構いませんよ! 参りましょう、塩ちゃんこ鍋をいただきに!」
目を輝かせるヒロイン名前に、小十郎はたまらず声を出して笑った。
「お前、本当に面白えな。見てて飽きねえ」
「面白くて結構、これがわたしですから」
いばると、小十郎は肩をすくめた。
「だから、目が離せなくなったんだよ。仕事はきっちりやるくせに、飯にゃ目がなかったり、服装に合わせてストール変えたりする洒落っ気も持ち合わせてて……。もっと近くで、お前を見ていてえな」
さらりと言われたので聞き流すところだったが、公の場での告白だった。
「!!!」
ヒロイン名前は、頭が噴火するくらい血がのぼった。
「はっ、かっ、かたっ、今、こ、こくっ!!」
「何言ってんだ」
さすがの小十郎も呆れ顔になった。
「店に行くんだろ、信号渡るぞ」
コートの裾が翻る。その様があまりにかっこよく、また先ほどの告白が頭の中で繰り返されていて、ヒロイン名前には小十郎が輝いて見えた。
「ヒロイン苗字!」
呼び掛けで我に帰った時には信号は点滅していて、慌てて渡ろうとしたが、右折車に阻まれ渡るのを諦めざるを得なかった。
横断歩道向こうの小十郎が更に呆れているのが分かったが、流れる車の列ですぐ見えなくなった。
渡ったら、きっと小言を言われるだろう。だが、こう言ってやろうと思った。
いきなり再告白してきた上、いちいちかっこいい片倉さんがいけないのよ、と。
車が途切れ、横断歩道の信号が青に変わる。向かい側に小十郎の姿を見つけて心が踊った。
(しょうがないから、一日早いけど返事をしてあげます。笑って、答えを待っててくださいね!)
ヒロイン名前は横断歩道を駆け出した。ストールが、ヒロイン名前の後を追いかけるように背中で跳ねた。
(了)