戦国bsr読み切り短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(もの作りってのは、夢を具現化する作業だな)
小十郎は、現地スタッフが手作業でバイクを組み立てていく様子を見てこう思った。
ある新興国のバイク工場見学に来ている。工場と言っても、プレハブの建物にいかにも手作りな手動ラインが二本並んだだけの質素なものだ。彼が主役を務める人気刑事シリーズが映画化するのだが、舞台がちょうど現在見学中のような新興国に建設されたバイク工場で、日本式のオートメーションしか知らないと言ったら見学に行けとなり現在に至っている。
「ここ、つける部品が違うわよ」
相手のミスを指摘する英語が聞こえる。
手作業で部品をつけるため、取り付け場所を間違えてしまうことがある。その指導のため日本人指導エンジニアが責任者としているのだが、驚いたことに女性である。名を、ヒロイン苗字と言う。
学生の頃に、突然親の転勤でいなくなった幼なじみのあいつと同じ名字だと思った。
場内には、部品を取り付ける音が響く。同行したバイクメーカーの広報担当者に場内を案内してもらっているのだが、今まさに目の前で組み立て作業が行われている。
部品のつけ場所が分からないスタッフに代わり、ヒロイン苗字がラインに並ぶ。スパナを構え、部品をつける姿は凛々しく雄々しい。最初に挨拶を交わした時の、とても柔らかな雰囲気とは別人だ。
「片倉さん、お待たせしました」
休憩時間になり、ヒロイン苗字がやって来た。現場ならではの話が聞きたくて、彼女との会話時間をもうけてもらった。
「なかなかに、ハードな仕事ですね」
「確かに大変ですが、一からもの作りが出来るのでとても楽しいですよ」
ふわりと笑うその顔と、作業時のそれがやはり一致しない。
(あいつも、こんな感じだったな)
ふんわり笑ったかと思えば、突然スパナを振りかざす。普段おとなしいのに、一度工作スイッチが入ると止まらない。偶然にも、彼女もまたもの作りが好きな人物だった。
今日はやけにあいつのことを思い出すなと心の中で苦笑しつつ、話を続けた。
「女性のあなたがここに来たのは、何か理由が?」
「わたしが志願したからです。一から作る楽しさを、この国の人にも知って欲しかったから」
目をキラキラさせながら話す彼女がとても眩しい。幼なじみも、その話をする時が一番輝いていた。
よく見ると、ヒロイン苗字の表情は幼なじみによく似ている。懐かしさからその話をすると、ヒロイン苗字は興味津々といった表情を浮かべた。
「なんだか光栄です。名優・片倉さんの幼なじみと似てるなんて。……その方、今は?」
「学生の頃、彼女が親の転勤で四国に行って以来連絡を取っていないので、どうしているかは分からないんです」
密かに想いを寄せていた彼女。急にいなくなり、気持ちを伝えられぬまま今日を迎えた。今の事務所にスカウトされた時、テレビに出れば彼女の視界入ると思って芸能界に身を投じた。我ながら不純な動機だと思うが、今も原動力になっているのだから仕方がない。
「会いたいですか?」
「……そうですね。会えるなら、会いたいです」
すると、ヒロイン苗字が突然笑い出した。
「もう会ってるよ、小十郎くん」
言われた意味が分からなかったが、はたと気付いた。
「……ヒロイン名前? ヒロイン名前なのか!?」
「そうよ。気付くの遅いんだから」
再び笑った。ふわりとした笑みが脳裏のそれと一致し、小十郎は大きく脱力した。
「小十郎くん、久しぶり。まさか、あなたが俳優だなんて。驚きだわ」
「驚いたのはこっちだぜ。全然分からなかった」
記憶にあるヒロイン名前は、ほぼ男の子みたいな外見だった。目の前にいる彼女に、その面影はない。
「女ってのはつくづく怖えな。化けやがる」
「化けたんじゃないの、進化したのー」
ふくれ面だが、口元が笑っている。小十郎も、笑った。
「……で? 再会した感想はどう?」
「驚いたの一言だ」
「それだけ? わたしは、小十郎くんとまた会いたかったし、やっと好きって言えるから嬉しくてしょうがないよ」
いきなり告白され、思わずむせた。
「お、おまっ!?」
「滞在時間少ないんでしょう? だったら、早く話さないと。名優と次に会える保証なんて、ないもの」
「……相変わらず、はっきりしてると言うか……」
再び脱力した。
「そう? スタッフに、決断が男前だってよく言われる」
「決断と行動は連動してるからな。スパナ持ってたお前は、男前だったしな」
「そうかなあ」
首をかしげる彼女を見て、小十郎は苦笑した。
「そういうところが、好きだったんだぜ」
ヒロイン名前は目を丸くし、顔を赤らめた。
「……小十郎くん、男前」
「お前の方が、先に男前だ」
額をこつんと叩く。
「さて、どうにかして滞在時間延ばさねえとな」
それを聞いたヒロイン名前の目が、妖しく光る。
「体験入社とか、どう?」
さっと取り出されたスパナ。きりりとした表情がやはり男前で、小十郎はもう笑うしかなかった。
(了)
小十郎は、現地スタッフが手作業でバイクを組み立てていく様子を見てこう思った。
ある新興国のバイク工場見学に来ている。工場と言っても、プレハブの建物にいかにも手作りな手動ラインが二本並んだだけの質素なものだ。彼が主役を務める人気刑事シリーズが映画化するのだが、舞台がちょうど現在見学中のような新興国に建設されたバイク工場で、日本式のオートメーションしか知らないと言ったら見学に行けとなり現在に至っている。
「ここ、つける部品が違うわよ」
相手のミスを指摘する英語が聞こえる。
手作業で部品をつけるため、取り付け場所を間違えてしまうことがある。その指導のため日本人指導エンジニアが責任者としているのだが、驚いたことに女性である。名を、ヒロイン苗字と言う。
学生の頃に、突然親の転勤でいなくなった幼なじみのあいつと同じ名字だと思った。
場内には、部品を取り付ける音が響く。同行したバイクメーカーの広報担当者に場内を案内してもらっているのだが、今まさに目の前で組み立て作業が行われている。
部品のつけ場所が分からないスタッフに代わり、ヒロイン苗字がラインに並ぶ。スパナを構え、部品をつける姿は凛々しく雄々しい。最初に挨拶を交わした時の、とても柔らかな雰囲気とは別人だ。
「片倉さん、お待たせしました」
休憩時間になり、ヒロイン苗字がやって来た。現場ならではの話が聞きたくて、彼女との会話時間をもうけてもらった。
「なかなかに、ハードな仕事ですね」
「確かに大変ですが、一からもの作りが出来るのでとても楽しいですよ」
ふわりと笑うその顔と、作業時のそれがやはり一致しない。
(あいつも、こんな感じだったな)
ふんわり笑ったかと思えば、突然スパナを振りかざす。普段おとなしいのに、一度工作スイッチが入ると止まらない。偶然にも、彼女もまたもの作りが好きな人物だった。
今日はやけにあいつのことを思い出すなと心の中で苦笑しつつ、話を続けた。
「女性のあなたがここに来たのは、何か理由が?」
「わたしが志願したからです。一から作る楽しさを、この国の人にも知って欲しかったから」
目をキラキラさせながら話す彼女がとても眩しい。幼なじみも、その話をする時が一番輝いていた。
よく見ると、ヒロイン苗字の表情は幼なじみによく似ている。懐かしさからその話をすると、ヒロイン苗字は興味津々といった表情を浮かべた。
「なんだか光栄です。名優・片倉さんの幼なじみと似てるなんて。……その方、今は?」
「学生の頃、彼女が親の転勤で四国に行って以来連絡を取っていないので、どうしているかは分からないんです」
密かに想いを寄せていた彼女。急にいなくなり、気持ちを伝えられぬまま今日を迎えた。今の事務所にスカウトされた時、テレビに出れば彼女の視界入ると思って芸能界に身を投じた。我ながら不純な動機だと思うが、今も原動力になっているのだから仕方がない。
「会いたいですか?」
「……そうですね。会えるなら、会いたいです」
すると、ヒロイン苗字が突然笑い出した。
「もう会ってるよ、小十郎くん」
言われた意味が分からなかったが、はたと気付いた。
「……ヒロイン名前? ヒロイン名前なのか!?」
「そうよ。気付くの遅いんだから」
再び笑った。ふわりとした笑みが脳裏のそれと一致し、小十郎は大きく脱力した。
「小十郎くん、久しぶり。まさか、あなたが俳優だなんて。驚きだわ」
「驚いたのはこっちだぜ。全然分からなかった」
記憶にあるヒロイン名前は、ほぼ男の子みたいな外見だった。目の前にいる彼女に、その面影はない。
「女ってのはつくづく怖えな。化けやがる」
「化けたんじゃないの、進化したのー」
ふくれ面だが、口元が笑っている。小十郎も、笑った。
「……で? 再会した感想はどう?」
「驚いたの一言だ」
「それだけ? わたしは、小十郎くんとまた会いたかったし、やっと好きって言えるから嬉しくてしょうがないよ」
いきなり告白され、思わずむせた。
「お、おまっ!?」
「滞在時間少ないんでしょう? だったら、早く話さないと。名優と次に会える保証なんて、ないもの」
「……相変わらず、はっきりしてると言うか……」
再び脱力した。
「そう? スタッフに、決断が男前だってよく言われる」
「決断と行動は連動してるからな。スパナ持ってたお前は、男前だったしな」
「そうかなあ」
首をかしげる彼女を見て、小十郎は苦笑した。
「そういうところが、好きだったんだぜ」
ヒロイン名前は目を丸くし、顔を赤らめた。
「……小十郎くん、男前」
「お前の方が、先に男前だ」
額をこつんと叩く。
「さて、どうにかして滞在時間延ばさねえとな」
それを聞いたヒロイン名前の目が、妖しく光る。
「体験入社とか、どう?」
さっと取り出されたスパナ。きりりとした表情がやはり男前で、小十郎はもう笑うしかなかった。
(了)