ハロウィーン・アフター
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<石田編>
ヒロイン名前が出社してすぐに、デスクの電話が内線を知らせた。
『やあ、おはよう』
内線主は、専務である竹中半兵衛だった。
『キミには、朝一で詫びなければと思ってね』
「詫び、ですか?」
『昨日のことさ』
何のことかと思っていると、半兵衛はパーティーのことだと言った。
『昨日、定時間際に伊達商事から少々厄介な仕事が舞い込んでね。この時、僕は三成くんの事情を知らずに下準備を頼んでしまったんだ』
始業までの残り時間を確認し、半兵衛は話を続けた。
『いつもなら一心不乱に取り組む彼が、珍しく何度も時計を見ていたのでね。理由を聞いたら、キミとパーティーをするためにキミの好きなケーキを買いに行きたいんだって言われてね。でも、彼は大丈夫だと言ってくれたので、つい甘えてしまった。その結果、ケーキは間に合わなかったそうだね。彼から聞いたよ』
語尾にため息が加わった。
『責任は僕にある。本当に済まなかったね』
「い、いえ、専務のせいじゃありません! プライベートのことですから、お気になさらないで下さい。それに、わたしが同じ立場でも残業しました」
そう言うと、半兵衛は柔らかく笑った。
『キミは優しいね。三成くんがキミに惹かれる理由が分かる気がするな』
突然の誉め言葉に、ヒロイン名前は紅潮を止められなかった。
『でも、僕としては何かやってあげたい気分なんだ。例えば、こういうのはどうかな……?』
三成は、少し落ち着かなかった。陽が明るいうちに帰ることに慣れていないせいかもしれない。
早く上がれたのは、半兵衛が今日は絶対定時で上がれと言ってきたからだ。
仕事はまだ残っている。昨日も定時から30分くらいで切り上げたし、これ以上早く帰ると自分の中の段取りが狂うと思って断ったのだが、
「これは命令だよ?」
と、笑顔で言われれば従うしかなかった。
集合ポストを覗き、中が空であることを確認して自室に向かう。
(鍵が、開いている……)
事務方にしては帰りが遅い課に所属するヒロイン名前も、昨日に引き続き珍しく定時で上がったようだ。
「帰ったぞ」
声をかけると、奥からスリッパの音が近付いてきた。
「お帰り、お疲れさま」
「貴様も早かったのだな」
「うん、まあね」
リビングに入るともう夕飯の準備にかかっていたらしく、いい匂いがしてきた。
「珍しいね、早く帰るなんて」
「半兵衛さまから、帰るよう命令されたのだ。……知らず知らずのうちに、私は粗相をしていたのかもしれない」
本気で落ち込む夫に、ヒロイン名前は小さく笑い冷蔵庫からあるものを取り出した。
「これはっ……!」
三成は目を見開いた。目の前に、昨日定時上がりで買いに行こうと思っていたあのケーキがあったからだ。
「専務から伺ったわ。昨日、これを買いに行こうとしてくれたんだってね」
人気店ゆえに帰宅ラッシュ前に行かなければ殆ど品切れしてしまうほどで、だから三成は定時上がりを目指していたのだ。結局かなわず、ケーキはコンビニのものになったが。
「専務が、三成を引き留めたことをとっても気にしてらしたの。定時上がりをすすめたのは、そのお詫びなんだって」
「それで、半兵衛さまは早く帰れと仰られたのか……」
なんと慈悲深いのだろう。三成は深く感謝した。
「せっかくのご厚意だし、今日もパーティーしちゃおう。夕飯、仕上げてくるね」
立ち上がろうとしたその手を引っ張られ、そのまま三成の腕の中に収まった。
「三成?」
「感謝する」
「え、感謝なら専務に……」
「貴様がいなければ、早く帰っても意味がない。だから、貴様にも感謝する」
背中越しに伝わる三成の鼓動が、少しだけ早い気がする。照れているらしい。
「菓子代はいくらだ? 貴様に買う予定だった品だ、私が払わねばならん」
早口でまくしたてる。やはり照れているらしい。
「変な所で律儀なんだから。……でも、お言葉に甘えます」
吹き出したが、その優しさに心が温まったので、三成の背中にすがって甘えてみせた。
(了)
⇒徳川編
ヒロイン名前が出社してすぐに、デスクの電話が内線を知らせた。
『やあ、おはよう』
内線主は、専務である竹中半兵衛だった。
『キミには、朝一で詫びなければと思ってね』
「詫び、ですか?」
『昨日のことさ』
何のことかと思っていると、半兵衛はパーティーのことだと言った。
『昨日、定時間際に伊達商事から少々厄介な仕事が舞い込んでね。この時、僕は三成くんの事情を知らずに下準備を頼んでしまったんだ』
始業までの残り時間を確認し、半兵衛は話を続けた。
『いつもなら一心不乱に取り組む彼が、珍しく何度も時計を見ていたのでね。理由を聞いたら、キミとパーティーをするためにキミの好きなケーキを買いに行きたいんだって言われてね。でも、彼は大丈夫だと言ってくれたので、つい甘えてしまった。その結果、ケーキは間に合わなかったそうだね。彼から聞いたよ』
語尾にため息が加わった。
『責任は僕にある。本当に済まなかったね』
「い、いえ、専務のせいじゃありません! プライベートのことですから、お気になさらないで下さい。それに、わたしが同じ立場でも残業しました」
そう言うと、半兵衛は柔らかく笑った。
『キミは優しいね。三成くんがキミに惹かれる理由が分かる気がするな』
突然の誉め言葉に、ヒロイン名前は紅潮を止められなかった。
『でも、僕としては何かやってあげたい気分なんだ。例えば、こういうのはどうかな……?』
三成は、少し落ち着かなかった。陽が明るいうちに帰ることに慣れていないせいかもしれない。
早く上がれたのは、半兵衛が今日は絶対定時で上がれと言ってきたからだ。
仕事はまだ残っている。昨日も定時から30分くらいで切り上げたし、これ以上早く帰ると自分の中の段取りが狂うと思って断ったのだが、
「これは命令だよ?」
と、笑顔で言われれば従うしかなかった。
集合ポストを覗き、中が空であることを確認して自室に向かう。
(鍵が、開いている……)
事務方にしては帰りが遅い課に所属するヒロイン名前も、昨日に引き続き珍しく定時で上がったようだ。
「帰ったぞ」
声をかけると、奥からスリッパの音が近付いてきた。
「お帰り、お疲れさま」
「貴様も早かったのだな」
「うん、まあね」
リビングに入るともう夕飯の準備にかかっていたらしく、いい匂いがしてきた。
「珍しいね、早く帰るなんて」
「半兵衛さまから、帰るよう命令されたのだ。……知らず知らずのうちに、私は粗相をしていたのかもしれない」
本気で落ち込む夫に、ヒロイン名前は小さく笑い冷蔵庫からあるものを取り出した。
「これはっ……!」
三成は目を見開いた。目の前に、昨日定時上がりで買いに行こうと思っていたあのケーキがあったからだ。
「専務から伺ったわ。昨日、これを買いに行こうとしてくれたんだってね」
人気店ゆえに帰宅ラッシュ前に行かなければ殆ど品切れしてしまうほどで、だから三成は定時上がりを目指していたのだ。結局かなわず、ケーキはコンビニのものになったが。
「専務が、三成を引き留めたことをとっても気にしてらしたの。定時上がりをすすめたのは、そのお詫びなんだって」
「それで、半兵衛さまは早く帰れと仰られたのか……」
なんと慈悲深いのだろう。三成は深く感謝した。
「せっかくのご厚意だし、今日もパーティーしちゃおう。夕飯、仕上げてくるね」
立ち上がろうとしたその手を引っ張られ、そのまま三成の腕の中に収まった。
「三成?」
「感謝する」
「え、感謝なら専務に……」
「貴様がいなければ、早く帰っても意味がない。だから、貴様にも感謝する」
背中越しに伝わる三成の鼓動が、少しだけ早い気がする。照れているらしい。
「菓子代はいくらだ? 貴様に買う予定だった品だ、私が払わねばならん」
早口でまくしたてる。やはり照れているらしい。
「変な所で律儀なんだから。……でも、お言葉に甘えます」
吹き出したが、その優しさに心が温まったので、三成の背中にすがって甘えてみせた。
(了)
⇒徳川編