七夕に願いを
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出社すると、誰かが持ってきた笹の葉で盛り上がっていた。
「何事?」
おはようと隣の席の家康に声をかければ、七夕が近いから短冊を飾ろうと盛り上がっているとのことだった。
「七夕かあ、懐かしいね」
「小学生の時にやって以来だな」
「徳川くん、何を願ったの?」
「そうだな、確か野球選手になりたいと書いた記憶がある」
「そっか、徳川くん野球好きだもんね」
「そういうお前は何を書いたんだ?」
「わたし?」
顎に指をあて、うーんと思い出してみる。
「“お嫁さんになれますように”って書いたことあったかな」
「お嫁さんか。可愛い願いだな」
「あの頃、片思いしてた男の子がいたんだ。小学生だったから、結局何も伝えられないまま終わっちゃったけど」
「そうか。その男子、もったいないことをしたな」
「もったいない?」
「お前と結婚出来るチャンスだったんだ。ワシなら、何が何でもお前を離したりしないがな」
思わず吹き出した。
「笑うところじゃないぞ?」
「笑ったんじゃないの。まったく、徳川くんは時と場所を考えて物を言ってよね」
「ん、何か問題があったか?」
「あったも何も……」
はあ、とため息をつく。
営業成績は優秀なのに、どうも彼には一般的なTPOというものが欠落しているらしい。
時も場所も考えず、冷やかされるネタにしかならない言葉を発する行為は慎んでもらいたい。
今日こそ言おうと口を開きかけた時、家康から短冊を突き出された。
そこには、
『隣の席の子と結婚出来ますように』
と、書かれていた。
「と、隣って……」
「もちろん、お前のことだ」
満面の笑みと共にもう何度目か分からない告白を受け、もはやため息しか出なかった。
「ひどいな、ため息とは」
「ため息もつきたくなるわよ。徳川くん、もっと視野を広くもってよ。何も、わたしだけが女じゃないんだから」
「十分、広くもってるつもりだ。その上でお前じゃないと駄目だと思ったんだ。お前の性格も作る飯も、どれもワシにとってはなくてはならないものだ」
「……」
赤面ものの台詞を、どうしてこうもバンバン吐けるのだろうか。
「席替えしてくれないかな」
「ん、どうしてだ?」
「わたしの身が持たない……」
「席替えされたら困るな。お前と弁当を食いにくくなる」
「席替えしたって、どうせ一緒に食べようって言ってくるんでしょ」
「もちろんだ。お前の胃袋を掴んでみせるというあの約束、まだ果たしていないからな」
約束も何も家康の一方的な宣誓に過ぎないのだが、彼にとっては果たすべき必須事項らしい。
「お前は何を書くんだ?」
期待に満ちたまなざしを向けられる。おそらく書かない限りしつこく言いまとわれることは目に見えている。
マジックを取り出し、願いを綴る。
『平穏な日々が過ごせますように』
「今のわたしには、一番必要なこと」
平穏でなくなった元凶に突き出してみせたが、家康は今も十分平穏だぞとずれたことを言ってきたので、無視して短冊を飾りに行くことにした。
席を立てば違う島から面妖な視線を感じた。主は確認するまでもない。
(徳川くんにしろ三成にしろ、どうしてわたしなんだか)
今日の昼休憩もうるさいのだろうと思うと、口からはまたため息が出たのだった。
「何事?」
おはようと隣の席の家康に声をかければ、七夕が近いから短冊を飾ろうと盛り上がっているとのことだった。
「七夕かあ、懐かしいね」
「小学生の時にやって以来だな」
「徳川くん、何を願ったの?」
「そうだな、確か野球選手になりたいと書いた記憶がある」
「そっか、徳川くん野球好きだもんね」
「そういうお前は何を書いたんだ?」
「わたし?」
顎に指をあて、うーんと思い出してみる。
「“お嫁さんになれますように”って書いたことあったかな」
「お嫁さんか。可愛い願いだな」
「あの頃、片思いしてた男の子がいたんだ。小学生だったから、結局何も伝えられないまま終わっちゃったけど」
「そうか。その男子、もったいないことをしたな」
「もったいない?」
「お前と結婚出来るチャンスだったんだ。ワシなら、何が何でもお前を離したりしないがな」
思わず吹き出した。
「笑うところじゃないぞ?」
「笑ったんじゃないの。まったく、徳川くんは時と場所を考えて物を言ってよね」
「ん、何か問題があったか?」
「あったも何も……」
はあ、とため息をつく。
営業成績は優秀なのに、どうも彼には一般的なTPOというものが欠落しているらしい。
時も場所も考えず、冷やかされるネタにしかならない言葉を発する行為は慎んでもらいたい。
今日こそ言おうと口を開きかけた時、家康から短冊を突き出された。
そこには、
『隣の席の子と結婚出来ますように』
と、書かれていた。
「と、隣って……」
「もちろん、お前のことだ」
満面の笑みと共にもう何度目か分からない告白を受け、もはやため息しか出なかった。
「ひどいな、ため息とは」
「ため息もつきたくなるわよ。徳川くん、もっと視野を広くもってよ。何も、わたしだけが女じゃないんだから」
「十分、広くもってるつもりだ。その上でお前じゃないと駄目だと思ったんだ。お前の性格も作る飯も、どれもワシにとってはなくてはならないものだ」
「……」
赤面ものの台詞を、どうしてこうもバンバン吐けるのだろうか。
「席替えしてくれないかな」
「ん、どうしてだ?」
「わたしの身が持たない……」
「席替えされたら困るな。お前と弁当を食いにくくなる」
「席替えしたって、どうせ一緒に食べようって言ってくるんでしょ」
「もちろんだ。お前の胃袋を掴んでみせるというあの約束、まだ果たしていないからな」
約束も何も家康の一方的な宣誓に過ぎないのだが、彼にとっては果たすべき必須事項らしい。
「お前は何を書くんだ?」
期待に満ちたまなざしを向けられる。おそらく書かない限りしつこく言いまとわれることは目に見えている。
マジックを取り出し、願いを綴る。
『平穏な日々が過ごせますように』
「今のわたしには、一番必要なこと」
平穏でなくなった元凶に突き出してみせたが、家康は今も十分平穏だぞとずれたことを言ってきたので、無視して短冊を飾りに行くことにした。
席を立てば違う島から面妖な視線を感じた。主は確認するまでもない。
(徳川くんにしろ三成にしろ、どうしてわたしなんだか)
今日の昼休憩もうるさいのだろうと思うと、口からはまたため息が出たのだった。