白石の恋

その日の夜、片倉さんのおうちで夕飯を一緒に作ることになった。
片倉さん、何だか嬉しそう。
けど、私は師匠と一緒に作る現実にびびっていて、彼氏のうちにあがったとか彼はいまだ白石市に住んでたとか、そういうことに一切気がまわらなかった。
「料理教室の最初の日、皆が突然来れなくなっただろう?」
じゃがいもの皮を剥きながら、片倉さんが口を開いた。
「あれ、皆が気を利かせたからなんだ」
「どういうことですか?」
「つまりだな……」
ちょっと赤面して、片倉さんは口を開いた。
「お前以外の全員、俺がお前に片思いしてたことに気付いてたんだよ」
「は!?じゃあ、二人きりにさせるためにわざと!?」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。
皆さん、この強面からどうやってそういう気配を感じ取るんですか、達人ですよ……!
「まあ、俺としちゃありがたかったがな。色々聞かれて困ったこともあったが」
今思えば、片倉さんの送別会で、やけに片倉さんの側に行け行けってされた気がする。
「色々合点がいきました」
煮込み料理が一段落した段階で、副菜は任すと言って片倉さんはパンを作りだした。
作り慣れてると、二時間もあれば手捏ねパンは出来るそうだ。
「お前に食わせてえんだよ」
材料を切りながら、米粉パンを持って帰れるなんて嬉しい!と、思っていたら。
「明日の朝、一緒に食いてえからな」
え、一緒?
明日の朝、来いってこと?
切ることと考えることが両立しないので、なんのことやらと思っていたら。
「泊まってけよ、明日日曜日だしな」

思わず、指を切断しかけました。

「危ねえだろ」
「なっ、だ、だって、か、片倉さんがっ……!」
「小十郎だ」
そう呼べと笑って隙ありとばかりにキス。



今更、彼氏宅にあがったのだという現実に気付きました。



(了)
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