白石の恋

夏も終わった頃、片方の仕事が無事終了したので、公共事業だけに専念出来るようになった。
「うーーーん……」
9月中旬のある日、私は白石城公園に来ていた。
最終打ち合わせのために仕上げたデザインがどうにも納得いかなくて、直接現地にきたのだ。
「この石碑は残すからこっちにスペース作った方が……、いやいや、それじゃ非対称になるから、クライアントの要望通りにならないし」
昼休憩も兼ねているので、いつも持参してるお手製おにぎりをぱくつきながらあちこちを歩いていると。
「飯くらい、落ちついて食ったらどうなんだ?」
後ろを振り向けば、なんと支店長の姿があった。
「あ、お疲れ様です。どうしたんですか?」
「外回りの帰りに、公園で一休みするかと思ってな。そうしたら、お前がいた」
鞄からレジャーシートを取り出し、支店長は腰掛けた。
うわぁ、準備いいなぁ。
私なんて座れればいいと思ってたから、いつも鞄に入れてるエコバッグをシート代わりにしてたくらい。
女子力の欠片もない自分が恥ずかしい……。
「まあ、座れ」
促されば座らない訳に行かず、シートの端に腰掛けた。
「なんか、恥ずかしいです」
「シートか?気にすんな、俺は今日ここに来るつもりだったから持ってただけだ。たまたまだ」
いや、謙遜してるけど、支店長は確実に女子力的なものは私より上ですよ。男ですけど上ですよ。
そう言うと、相変わらずの、
「お前は面白えな」
発言でまとめられた。
私のショックは伝わってないだろ、チクショウ。
しょんぼりしていると、支店長が取り出したお弁当箱のすごくキレイな様に目が釘付けになった。
「あんまり見るなよ。食いにくい」
ちょっと照れて、支店長は視線をそらした。
「奥さん、すごくお料理上手なんですね。いいなぁ、習いたいくらい!」
そう言うと、何故か支店長はきょとんとした。
「俺は独身だ」
「へ?」
今度は、こっちがきょとんとした。
強面だけど、モテる要素満載の支店長が独身?
嘘でしょ?
いやいや、その前に待て待て、独身てことは、このお弁当はつまり……。
「俺が作った」
開いた口が塞がらないってのがこういうことだって、今まさに体感中。
それくらい口を開いたままにしてたら、ため息をつかれ、爪楊枝が刺さってるピクルスを差し出された。
いや、くださいって主張した訳じゃないんだけど、せっかくだからと頬張れば、その味の美味なこと!
「美味しいです!雑味がないって言ったらいいのかな」
「無農薬で野菜育ててるからな」
調理だけじゃなく、材料から作れるとか、なんなのこの人……!
こりゃ、奥さんいらない訳だわ。
完全に女子力で完敗したのが分かって小さくため息をつけば、
「さっき習いたいって言ってたが、野郎が講師でも習いてえか?前、握り飯貰った礼だ、教えてやるぜ」
支店長はにやりと笑った。
「いいんですか!?」
がばっと食い付けば、支店長が驚いた。冗談だったんだろう。
支店長の気が変わらないうちに、今度の日曜日に支店長宅で料理教室をやる約束を取り付けることに成功した。
「有志を募って伺います!」
「……そうか」
こう言うと、支店長は珍しく戸惑った。
「あ、料理男子だって知られたくないですよね……」
「いや、俺が料理するのは皆知ってるからな。その心配はしてねえ」
なら、何で困った顔してるんだろ?
迷惑なら止めると聞いてもそうじゃないって言うし。
んー、分からない。
追及したかったけど、休憩時間が終わってしまったので、遠慮なく日曜に押し掛けることにした。
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