白石の恋
翌週、支店長に言われた通り資材屋に問い合わせてみると、確かに安いものはたくさんあると言われた。
けれど、耐久年数を考えれば最初に提案したものが一番お勧めと言われ、上司に説明するためにその根拠を教えて欲しいと言ったら、白石城に来て欲しいと言われた。
昼前、資材屋さんと一緒に待ち合わせすると、何故かそこには外回りに同行していた支店長の姿が。
「上司と聞いて、おそらく片倉さんのことじゃないかと思ってね」
そっか。この資材屋さん、うちとお付き合い長いんだっけ。
私の説明の代わりに、目で見てもらって確認してもらおうと思った訳ね。
実際、公園で使われてる資材を見ながら説明を受ければ、さすがの支店長も納得の模様。
けど、まだ何か食い付くと、資材屋さんは困った顔して笑った。
支店長を眺めながら、こんな風に聞き出せばいいのかと思い、密かにスキルを盗むいい機会になったのは内緒の話。
お話が終わった段階でお昼の時間になったので、今日は支店長と一緒することに。
「はい、うーめんです。お待ちどおさま」
公園内にある歴史探訪ミュージアムには食堂があって、そこでは白石市名物である温麺(うーめん)が食べられる。
アイスとか奢ってもらったから今日は出すって言ったのに、支店長は私の分までさっさと食券を買ってしまった。
代金を受け取ってもらえる余地はなく、またもや奢られてしまった。
「それで足りんのか?」
あっという間に完食しちゃったから、支店長が笑いながら聞いてきた。
「足りませんよ。だから、コレです」
鞄からアルミホイルにくるんだおにぎりを取り出し、ぱくつく。
「いつも持ち歩いてんのか?」
「はい。おやつなんで」
一瞬きょとんとして、その後支店長は俯いて肩を震わせた。
「間食が握り飯たあ、たいした食欲だな」
「頭使っても、お腹が空きますから。あ、資材屋さんとの交渉、ためになりました。ああいう風に聞けばいいんですね」
二個目のおにぎりにぱくつくと、支店長が何故か私を凝視してきた。
おにぎり、食べたかったのかな?
「成る程な、そうやって動向を注視してるんだな」
どういうことか聞き返すと。
「お前がまだ設計事務所にいた時もだが、些細な話も結構覚えてたよな。小せえことだが、おかげでお前がいた時は仕事がやりやすかった」
だから、支店長は私のことを覚えていてくれたらしい。
「そんな、たいしたことじゃないです」
「謙遜すんな。仕事以外の話を覚えておくなんざ、そう簡単に出来ることじゃねえ」
「そうなんですか?じゃあ、育った環境がそうさせたのかもしれません。今時珍しい五人兄弟の一番上なので、下の面倒見てたら色んな話をかいつまんで覚えるスキルが身に付いたんじゃないかと」
「そうか。けど、俺は滅多に誉めねえからな。賛美は受け取っとけ」
そう言われれば、受け取らざるを得ない。ありがたく頂戴しておくことにした。
「麺だけじゃ、さすがに足りねえな」
「あ、ならこれどうぞ」
鞄から、三つ目のおにぎりを取り出す。
「……何個持ち歩いてんだ」
「四個です。出先で食いっぱぐれることもありえるから」
「準備がいいな」
あれ、支店長また笑ってる。
普通だと思ってることを笑われると、ちょっと複雑。
「感心してんだ、そう拗ねんな」
そう言うと、左手を出してきたので、残りを全部渡した。
「うめえな」
……何でだ、すごく照れくさい!
「高くつきますよ」
「また今度、何か奢ってやるよ」
さらっと言われた。
この言葉がよもや未来を変えようとは、この時は思いもしなかった。
けれど、耐久年数を考えれば最初に提案したものが一番お勧めと言われ、上司に説明するためにその根拠を教えて欲しいと言ったら、白石城に来て欲しいと言われた。
昼前、資材屋さんと一緒に待ち合わせすると、何故かそこには外回りに同行していた支店長の姿が。
「上司と聞いて、おそらく片倉さんのことじゃないかと思ってね」
そっか。この資材屋さん、うちとお付き合い長いんだっけ。
私の説明の代わりに、目で見てもらって確認してもらおうと思った訳ね。
実際、公園で使われてる資材を見ながら説明を受ければ、さすがの支店長も納得の模様。
けど、まだ何か食い付くと、資材屋さんは困った顔して笑った。
支店長を眺めながら、こんな風に聞き出せばいいのかと思い、密かにスキルを盗むいい機会になったのは内緒の話。
お話が終わった段階でお昼の時間になったので、今日は支店長と一緒することに。
「はい、うーめんです。お待ちどおさま」
公園内にある歴史探訪ミュージアムには食堂があって、そこでは白石市名物である温麺(うーめん)が食べられる。
アイスとか奢ってもらったから今日は出すって言ったのに、支店長は私の分までさっさと食券を買ってしまった。
代金を受け取ってもらえる余地はなく、またもや奢られてしまった。
「それで足りんのか?」
あっという間に完食しちゃったから、支店長が笑いながら聞いてきた。
「足りませんよ。だから、コレです」
鞄からアルミホイルにくるんだおにぎりを取り出し、ぱくつく。
「いつも持ち歩いてんのか?」
「はい。おやつなんで」
一瞬きょとんとして、その後支店長は俯いて肩を震わせた。
「間食が握り飯たあ、たいした食欲だな」
「頭使っても、お腹が空きますから。あ、資材屋さんとの交渉、ためになりました。ああいう風に聞けばいいんですね」
二個目のおにぎりにぱくつくと、支店長が何故か私を凝視してきた。
おにぎり、食べたかったのかな?
「成る程な、そうやって動向を注視してるんだな」
どういうことか聞き返すと。
「お前がまだ設計事務所にいた時もだが、些細な話も結構覚えてたよな。小せえことだが、おかげでお前がいた時は仕事がやりやすかった」
だから、支店長は私のことを覚えていてくれたらしい。
「そんな、たいしたことじゃないです」
「謙遜すんな。仕事以外の話を覚えておくなんざ、そう簡単に出来ることじゃねえ」
「そうなんですか?じゃあ、育った環境がそうさせたのかもしれません。今時珍しい五人兄弟の一番上なので、下の面倒見てたら色んな話をかいつまんで覚えるスキルが身に付いたんじゃないかと」
「そうか。けど、俺は滅多に誉めねえからな。賛美は受け取っとけ」
そう言われれば、受け取らざるを得ない。ありがたく頂戴しておくことにした。
「麺だけじゃ、さすがに足りねえな」
「あ、ならこれどうぞ」
鞄から、三つ目のおにぎりを取り出す。
「……何個持ち歩いてんだ」
「四個です。出先で食いっぱぐれることもありえるから」
「準備がいいな」
あれ、支店長また笑ってる。
普通だと思ってることを笑われると、ちょっと複雑。
「感心してんだ、そう拗ねんな」
そう言うと、左手を出してきたので、残りを全部渡した。
「うめえな」
……何でだ、すごく照れくさい!
「高くつきますよ」
「また今度、何か奢ってやるよ」
さらっと言われた。
この言葉がよもや未来を変えようとは、この時は思いもしなかった。