白石の恋
整備事業に携わるようになると、今までの仕事と同時進行だから更にハードになってきた。
支店長の意向で残業は出来ないことになってるんだけど、私の力量では時間内にこなすのが難しいため、許可を得て週に2日だけ残業することにした。残りは早出でなんとかする!
「んー……、めどついたぁ!」
残業デーと決めた金曜日。社内に私の声が響いた。
以前から受け持っていた仕事のめどがつき、思わず大声で叫んだのだ。
「そいつは良かったな」
なのに、一人だと思ってた社内で突然返答がきてびっくりしてしまった。
「し、支店長……!」
「事務所の明かりがついてたからな。まだいるんだろうと思ってな。ほらよ、差し入れだ」
出入口に目をやれば、私服姿の支店長がそこにいた。
そして、手にはコンビニの袋。
「支店長でも、コンビニ行かれるんですね」
「当たり前だ。お前、俺を何だと思ってやがる」
「人間ですが、コンビニには行かない人間かと」
差し出されたアイスを有り難く受けとれば、その手が一瞬ぴくりと反応した。
「……人間なら、コンビニ行ってもおかしくねえだろうが」
「雰囲気が合わないんですもの。あ、いただきます」
遠慮なく頬張れば、甘くて冷たい味が尖った神経を和らげてくれた。気を遣って冷房を入れてなかったから、アイスは本当に助かった……!
「やっぱり、お前は面白いな」
支店長は支店長で、ブラックの缶コーヒーを傾けた。
「どの辺りがですか?」
「反応と、発想だな。……俺のこの面を見てもびびんなかった女は、お前が初めてだったしな」
「え、それは誤解です。私、むちゃくちゃびびってましたよ。仕事一緒にして、“抜かりなく抜け目なくミスなく”な手腕に更にびびりましたし」
「……やっぱり、面白え」
下を向いたかと思えば、体が震えてる。
違う、笑ってるんだ!
「お、お誉めに預かったと思っていいんでしょうか?」
「好きに解釈しろよ」
まだ喉を鳴らして笑ってる。
「まだ残る気か?」
「はい」
見せてみろと言って、支店長は設計図と予算見積もりを手に取った。
間近で見ると、支店長の指って長いなぁ。それに、筋肉質。
うーん、気付いてなかったけど、頬の傷さえなけりゃ、めちゃくちゃイケメンだ……。
「ここ、もうちっと削れねえか?先方がこだわってるとこだが、予算がかなりかかってる」
「じゃあ、月曜に資材屋に問い合わせてみます。ただ資材屋の話を鵜呑みにする訳ではありませんが、耐久性を考えると、恐らく将来的にはこの資材の方が費用対効果は高いかと」
あ、長い指が口元に移った。
考える時、いつもこうするよね。癖かな。
「成る程な、確かに一理ある。が、一手になるかもしれねえ、聞いといてくれ。……暑いからな、程々にして帰れよ」
コンビニの袋から、今度はスポーツドリンク。
「アイス、買い置き分は冷凍庫に入れとく。暑くなったら、腹壊さない程度に食えよ」
あ、アイス、冷房つけてないの知ってて買ってきてくれたの?
「あ、ありがとうございます!」
急いで立って頭を下げれば、軽く笑って手を振った。
「……なんか、粘ってもいいかな」
何でか、そう思った。
支店長の意向で残業は出来ないことになってるんだけど、私の力量では時間内にこなすのが難しいため、許可を得て週に2日だけ残業することにした。残りは早出でなんとかする!
「んー……、めどついたぁ!」
残業デーと決めた金曜日。社内に私の声が響いた。
以前から受け持っていた仕事のめどがつき、思わず大声で叫んだのだ。
「そいつは良かったな」
なのに、一人だと思ってた社内で突然返答がきてびっくりしてしまった。
「し、支店長……!」
「事務所の明かりがついてたからな。まだいるんだろうと思ってな。ほらよ、差し入れだ」
出入口に目をやれば、私服姿の支店長がそこにいた。
そして、手にはコンビニの袋。
「支店長でも、コンビニ行かれるんですね」
「当たり前だ。お前、俺を何だと思ってやがる」
「人間ですが、コンビニには行かない人間かと」
差し出されたアイスを有り難く受けとれば、その手が一瞬ぴくりと反応した。
「……人間なら、コンビニ行ってもおかしくねえだろうが」
「雰囲気が合わないんですもの。あ、いただきます」
遠慮なく頬張れば、甘くて冷たい味が尖った神経を和らげてくれた。気を遣って冷房を入れてなかったから、アイスは本当に助かった……!
「やっぱり、お前は面白いな」
支店長は支店長で、ブラックの缶コーヒーを傾けた。
「どの辺りがですか?」
「反応と、発想だな。……俺のこの面を見てもびびんなかった女は、お前が初めてだったしな」
「え、それは誤解です。私、むちゃくちゃびびってましたよ。仕事一緒にして、“抜かりなく抜け目なくミスなく”な手腕に更にびびりましたし」
「……やっぱり、面白え」
下を向いたかと思えば、体が震えてる。
違う、笑ってるんだ!
「お、お誉めに預かったと思っていいんでしょうか?」
「好きに解釈しろよ」
まだ喉を鳴らして笑ってる。
「まだ残る気か?」
「はい」
見せてみろと言って、支店長は設計図と予算見積もりを手に取った。
間近で見ると、支店長の指って長いなぁ。それに、筋肉質。
うーん、気付いてなかったけど、頬の傷さえなけりゃ、めちゃくちゃイケメンだ……。
「ここ、もうちっと削れねえか?先方がこだわってるとこだが、予算がかなりかかってる」
「じゃあ、月曜に資材屋に問い合わせてみます。ただ資材屋の話を鵜呑みにする訳ではありませんが、耐久性を考えると、恐らく将来的にはこの資材の方が費用対効果は高いかと」
あ、長い指が口元に移った。
考える時、いつもこうするよね。癖かな。
「成る程な、確かに一理ある。が、一手になるかもしれねえ、聞いといてくれ。……暑いからな、程々にして帰れよ」
コンビニの袋から、今度はスポーツドリンク。
「アイス、買い置き分は冷凍庫に入れとく。暑くなったら、腹壊さない程度に食えよ」
あ、アイス、冷房つけてないの知ってて買ってきてくれたの?
「あ、ありがとうございます!」
急いで立って頭を下げれば、軽く笑って手を振った。
「……なんか、粘ってもいいかな」
何でか、そう思った。