白石の恋

今日は金曜日。明日明後日の「おうちおこもり」にそなえ、仕事終わりに小十郎さんと食材の買い出しをした。
二日間だけでなく月曜以降の作り置きのことも考えたら、いつもながらかなりの買い出し量となった。
「よいしょっと」
持ってきたエコバック二つからあふれんばかりの食材。バックの柄にまでかかるほどの量で、柄を肩に負えなかったのでバッグを手に持って歩いていると横から手を差し出された。
「重いだろ、貸せ」
小十郎さんだってすでに一つ持っているので、甘える訳にいかないとわたしは首を振った。
「いいよ、小十郎さんも疲れてるでしょ」
そう言っても、小十郎さんはおとなしく引き下がるタマではない。なおもずいと差し出された掌を無視することに決め、駐車場のマイカーへとずんずん進んだ。
と、なんなく追いつかれて荷を奪われてしまった。
「ああっ、ドロボー!」
「泥棒じゃねえ!」
“泥棒”という単語にまわりの方々がぎょっとなさったので、わたしたちはそそくさとマイカーへ乗り込んだ。
「あんなところであらぬ単語を口走るんじゃねえ」
「ご、ごめんなさい~。でも、わたしの荷を奪ったのは事実よっ」
びしっと人差し指を立てると、その指を、そして掌を掴まれじっと見つめられた。
「ほら見ろ、跡ついてるじゃねえか」
「エコバック持ってたんだから、しょうがないですぅ」
むくれてひっこめようとしたら、掌に突然キスされた。
「な、な、何ごと!?」
慌てて引っ込める。
「俺に関することで、お前に傷ついて欲しくねえんだよ。掌へのキスは“懇願”らしいからな、これくらいしねえと聞いてもらえねえだろ?」
にやりと笑う小十郎さんは、口をパクパクするわたしを放って車を運転し始めた。
キスされたインパクトの方が強く、何を懇願していたか分からなかったので夕飯時に尋ねると、小十郎さんは口をぽかんと開けて盛大にため息をつかれてしまった。
「……やっぱり、お前だな」
どういうこと??
誰か、教えて下さい。



(了)
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