白石の恋

夏。
東北もやっと梅雨が明け、外では蝉が盛大に鳴き始めている。
「片倉支店長、一番にお電話です」
「ああ」
そんな外とはうってかわって、伊達建設の白石支店内は電話の音とキーボードを叩く音だけが響いている。
三年前、私は伊達建設に入社した。
一級建築士として支倉設計事務所で働いていたが、事務所の所長が年齢を理由に事務所をたたんでしまったため、職にあぶれてしまった。
でも、所長はお優しい方で、私たち従業員の再就職先を斡旋して下さった。私の場合は伊達建設だった。
伊達建設とは何度か仕事をしたことはあったけど、まさか自分の職場になろうとは思わなかった。
しかも、配属されたのは白石市にある支店で、そこの支店長が以前仕事を一緒にした片倉小十郎さんだった。
「まさか、お前が部下になるとはな」
歓迎会の日、酌をしに行った際に言われた言葉だ。
大きなトラブルを起こした訳じゃないし、噛み付きもしなかった(正確にはヤクザの雰囲気が怖くて出来なかった)のに、何故か片倉さんは私のことをやけに覚えていた。
「……よろしくお願いします。お手柔らかに願います」
「そりゃ、無理な話だな」
にやりと口の端を上げた顔は、やっぱり今見てもヤクザだった……!



これから先、どうなるんだろうと内心びびりながら日々を過ごしていたけど、業務の量たるや半端なく、あっという間に三年過ぎてしまった。
そんなある日、大きな仕事が舞い込んだ。
「白石城公園の整備ですか?」
「そうだ」
東日本大震災で白石市のシンボルである白石城は一部損傷し、その改築工事が現在行われている。それに合わせ城内公園も整備されることが決まり、落札したのが伊達建設だった。
「やります、やらせて下さい!」
前々から公共事業に興味があったから、二つ返事で快諾した。
一般向けの仕事も面白いけど、公共事業は何かない限りずっと残るから、いつか自分の作品を街に残したいって思ってた私にとっては嬉しい仕事だ。
「公共事業だから、当然予算の枠組みが厳しい。その範囲内、出来ればもっとうかせる形で相手の要望を遂げなきゃならねえ。手強いぜ?」
「望むところです」
見据えれば、支店長の目元が緩んだ。
「これだけは言っておく。お前だけの仕事じゃねえからな、抱え込むなよ」
そう言うと、支店長はまたいつもの強面に戻り、外線を取った。
(……支店長、今笑ったの?)
あまりのことに、何が起きたか分からなかったのは言うまでもない。
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