戸惑い
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鯉登から持ち掛けられた話を受けるか、奏子は迷っていた。
姉の幸せのためなら、何でもする気でいた。
馬具屋の仕事一筋とは言え、姉も一人の女性だ。自分の仕事を理解した上で支えてくれる殿方がいるのなら、愛子とて結婚したいと思っているだろう。
月島。
あの男なら、あるいは愛子のことをすべて理解した上で添い遂げてくれるかもしれない。
少し話しただけだが、実に実直で誠実な男だと感じた。そして、とても素直な人なのだと思った。
姉と出て戻って来て以降、姉のことをずっと見つめていた。
鯉登が言った通り、姉に想いを寄せているのは間違いないだろう。
一方の愛子は、終始客に相対する態度を崩さなかった。
得意先である師団の将校とその部下が相手なのだ、馬具屋の職人でもある愛子からすれば、そのような態度に徹するのも致し方ないだろう。
(姉様は、ご自分が人さまの御内儀になるご自分を想像していらっしゃらない。……もし、月島さんが馬具屋になってもいいとお考えだと言ったら、どのように思うのかしら)
月島が馬具屋を継ぐ可能性はあるのだろうか。この間の様子を見るにつけ、鯉登の側近として働くことに楽しみさえ見出している様子だった。
彼が軍人を退かない限り、きっと二人の縁談は成り立たない。
「……よし」
奏子は、思い切って師団を訪ねることにした。
「……何だ、表が騒がしいな」
翌日。
実地訓練の準備で表に出ていた月島は、門兵が何やら騒いでいることに気が付いた。
「おい、騒がしいぞ」
「はっ、月島曹長殿、失礼いたしました! ですが、鯉登大尉殿に、その、随分とお可愛らしいお客人がお見えでして」
「鯉登大尉殿に?」
門兵が言う場所へ向かうと、そこには先日会った顔があった。
「奏子さん?」
「あ、月島さま。ごきげんよう」
淑女らしい挨拶をしたのち、奏子は頭を下げた。
「騒ぎの原因を作ってしまったようで、大変申し訳ありません」
「いや、それは気にしなくていい」
兵営暮らしでは、客商売ではない女性と接する機会は少ない。門兵たちは仕事柄色んな人間に相対するので多少免疫はあるが、奏子ほどの美貌を持つ者と会う機会はそう多くはない。
(あいつらが騒ぐのも仕方がないことかもしれんな)
とは言え、規律が乱れる元であることは間違いないので、後でしっかり締めておこうと思った。
「それで、鯉登大尉殿に御用があるとお聞きしたのだが」
「はい。私用向きの内容ですので、こちらをお渡しいただければと思い参りました」
そう言って、奏子は書簡を取り出した。
「中を確認しても?」
「あ、そ、それはどうぞご容赦を」
慌てて止める彼女に、月島は鯉登に春が来たかもしれないと感じた。
姉の幸せのためなら、何でもする気でいた。
馬具屋の仕事一筋とは言え、姉も一人の女性だ。自分の仕事を理解した上で支えてくれる殿方がいるのなら、愛子とて結婚したいと思っているだろう。
月島。
あの男なら、あるいは愛子のことをすべて理解した上で添い遂げてくれるかもしれない。
少し話しただけだが、実に実直で誠実な男だと感じた。そして、とても素直な人なのだと思った。
姉と出て戻って来て以降、姉のことをずっと見つめていた。
鯉登が言った通り、姉に想いを寄せているのは間違いないだろう。
一方の愛子は、終始客に相対する態度を崩さなかった。
得意先である師団の将校とその部下が相手なのだ、馬具屋の職人でもある愛子からすれば、そのような態度に徹するのも致し方ないだろう。
(姉様は、ご自分が人さまの御内儀になるご自分を想像していらっしゃらない。……もし、月島さんが馬具屋になってもいいとお考えだと言ったら、どのように思うのかしら)
月島が馬具屋を継ぐ可能性はあるのだろうか。この間の様子を見るにつけ、鯉登の側近として働くことに楽しみさえ見出している様子だった。
彼が軍人を退かない限り、きっと二人の縁談は成り立たない。
「……よし」
奏子は、思い切って師団を訪ねることにした。
「……何だ、表が騒がしいな」
翌日。
実地訓練の準備で表に出ていた月島は、門兵が何やら騒いでいることに気が付いた。
「おい、騒がしいぞ」
「はっ、月島曹長殿、失礼いたしました! ですが、鯉登大尉殿に、その、随分とお可愛らしいお客人がお見えでして」
「鯉登大尉殿に?」
門兵が言う場所へ向かうと、そこには先日会った顔があった。
「奏子さん?」
「あ、月島さま。ごきげんよう」
淑女らしい挨拶をしたのち、奏子は頭を下げた。
「騒ぎの原因を作ってしまったようで、大変申し訳ありません」
「いや、それは気にしなくていい」
兵営暮らしでは、客商売ではない女性と接する機会は少ない。門兵たちは仕事柄色んな人間に相対するので多少免疫はあるが、奏子ほどの美貌を持つ者と会う機会はそう多くはない。
(あいつらが騒ぐのも仕方がないことかもしれんな)
とは言え、規律が乱れる元であることは間違いないので、後でしっかり締めておこうと思った。
「それで、鯉登大尉殿に御用があるとお聞きしたのだが」
「はい。私用向きの内容ですので、こちらをお渡しいただければと思い参りました」
そう言って、奏子は書簡を取り出した。
「中を確認しても?」
「あ、そ、それはどうぞご容赦を」
慌てて止める彼女に、月島は鯉登に春が来たかもしれないと感じた。