気付き
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一応得意先の長なので無下にするわけにいかず、かといって理由は分からないが工場を見せることに抵抗を感じた奏子は、先ほどまで月島がいた応接室に鯉登を案内した。
「私は工場が見たいと言ったのだが」
「生憎、今は作業中ですので」
嘘を堂々と述べてみせた。
愛想笑いの一つでも浮かべられたらよいのだが、この男はどうもいけ好かない。
自分の未熟な部分を改めて知るきっかけになったこの男の底知れぬ何かを、奏子は本能的に嗅ぎ取っていたのかもしれない。
「そうか、なら仕方がない」
あっさりと引き下がった鯉登に、茶でも出してやろうと部屋を出ようとした時、
「妹御前、私に一つ協力してくれないか」
こんなことを申し出された。
「協力?」
「姉君の婚姻のことだ」
「その件なら、なおさらお断りします」
「話は最後まで聞け」
空気が少しぴりりと冷える。
こちらに選択権がないことを察知し、奏子は仏頂面を浮かべ顔だけ鯉登に向け直した。
本来、将校に対してこの態度は不敬に値するが、鯉登はこういう点は気にしない質なのだろう、奏子の目を見ると口火を切った。
「姉君の縁談だが、あれは虚偽だ」
「……え?」
奏子は全身の毛が逆立つ思いがしたが、次に続く言葉に驚愕した。
「あなたが先ほど相対した男、月島と言うのだが」
「お名前、お伺いしました」
「そうか。その月島だが、おそらく姉君に想いを寄せている」
「え?」
奏子は混乱した。
「話したのなら分かったと思うが、あの男は無口で無愛想だ。だが、誰よりも優しく、情が厚い。他の者が姉君に想いを寄せていると知れば、必ず身を引くだろう。あいつは、そう言う奴なのだ」
少し苦し気に顔を歪める鯉登の顔を見て、本当に月島が大切なのだと感じた。
月島曰く、二人はひとまわり近く年が離れていると言っていた。
奏子は、気付けば二人の中に姉と自分とを重ね合わせていた。
「私は、大事な部下であり大切な身内みたいな存在のあいつに、想いを遂げて欲しいと思っている。ゆえに、他を牽制するため、私との縁談と偽って申し込んだ。姉君には先ほど謝罪したが、あなたにも改めて詫びをする」
そう言って頭を下げた鯉登に、奏子は何をすればよいか分からず戸惑うばかりだった。
「詫びた矢先に図々しいことは分かっているが、ひとつあなたに協力してもらいたい」
「協力、ですか」
少し興味が湧いた奏子は、身体ごと鯉登に向き直った。
「二人を結びつけるため、ちからを貸して欲しい」
鯉登の真っ直ぐな瞳に、奏子は戸惑いを更に強くした。
「私は工場が見たいと言ったのだが」
「生憎、今は作業中ですので」
嘘を堂々と述べてみせた。
愛想笑いの一つでも浮かべられたらよいのだが、この男はどうもいけ好かない。
自分の未熟な部分を改めて知るきっかけになったこの男の底知れぬ何かを、奏子は本能的に嗅ぎ取っていたのかもしれない。
「そうか、なら仕方がない」
あっさりと引き下がった鯉登に、茶でも出してやろうと部屋を出ようとした時、
「妹御前、私に一つ協力してくれないか」
こんなことを申し出された。
「協力?」
「姉君の婚姻のことだ」
「その件なら、なおさらお断りします」
「話は最後まで聞け」
空気が少しぴりりと冷える。
こちらに選択権がないことを察知し、奏子は仏頂面を浮かべ顔だけ鯉登に向け直した。
本来、将校に対してこの態度は不敬に値するが、鯉登はこういう点は気にしない質なのだろう、奏子の目を見ると口火を切った。
「姉君の縁談だが、あれは虚偽だ」
「……え?」
奏子は全身の毛が逆立つ思いがしたが、次に続く言葉に驚愕した。
「あなたが先ほど相対した男、月島と言うのだが」
「お名前、お伺いしました」
「そうか。その月島だが、おそらく姉君に想いを寄せている」
「え?」
奏子は混乱した。
「話したのなら分かったと思うが、あの男は無口で無愛想だ。だが、誰よりも優しく、情が厚い。他の者が姉君に想いを寄せていると知れば、必ず身を引くだろう。あいつは、そう言う奴なのだ」
少し苦し気に顔を歪める鯉登の顔を見て、本当に月島が大切なのだと感じた。
月島曰く、二人はひとまわり近く年が離れていると言っていた。
奏子は、気付けば二人の中に姉と自分とを重ね合わせていた。
「私は、大事な部下であり大切な身内みたいな存在のあいつに、想いを遂げて欲しいと思っている。ゆえに、他を牽制するため、私との縁談と偽って申し込んだ。姉君には先ほど謝罪したが、あなたにも改めて詫びをする」
そう言って頭を下げた鯉登に、奏子は何をすればよいか分からず戸惑うばかりだった。
「詫びた矢先に図々しいことは分かっているが、ひとつあなたに協力してもらいたい」
「協力、ですか」
少し興味が湧いた奏子は、身体ごと鯉登に向き直った。
「二人を結びつけるため、ちからを貸して欲しい」
鯉登の真っ直ぐな瞳に、奏子は戸惑いを更に強くした。