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いきり立つ妹をたしなめ、愛子は鯉登に向き合った。
「鯉登さま、でしょうか。お初にお目にかかります、愛子と申します」
「鯉登音之進と申します。先日は、一方的に縁談を申し込み、失礼した」
「いえ」
丁寧な人物だと思った。
圧迫された中で暮らしているからか、兵の中には市井の人々に対して横柄な態度を取る者も多い。
階級者になればなおさらだ。
だが、彼からはそういったものは微塵も感じない。
同じ目線で物を見ている、そんな雰囲気さえあった。
「可能ならば、少しお話できないかと思い伺いました」
「縁談のことなら、お断りしたはずです」
「ええ。だからこそ、お話したいのです」
にこりと笑った鯉登に、愛子は厄介だと感じた。
諦めない、そんな力を感じたからだ。
「姉様は今、大事なお仕事中なの」
そこへ、奏子が割って入った。
「お約束を取り付けてからになさってはいかがですか」
愛らしい外見からは想像出来ない、冷ややかな声。
「確かにその通りだ。が、こちらも何かと立て込んでいる。本当に少しの時間も難しいなら、また日を改めるが……」
ちらと愛子を見やる。
愛子は敏いらしく、小さくため息をつき、「少しだけなら」と言った。
「姉様!」
「大丈夫よ。それより、お連れの方のお相手を」
姉が言うことに従う、それが奏子の矜持なので、渋々ながら応接間に連れを通した。
「……さて、我々は少し歩きながら話そう」
店の近くにある河川敷まで供だって歩く。
道行く女性が皆、鯉登を見て囁いている。
そんな女性たちを気にもせず、鯉登は愛子に歩幅を合わせゆっくり歩いてくれた。
「愛子さん、実はあなたには謝らねばならないことがある」
「謝らねばならないこと、ですか」
鯉登は頷いた。
「申し込んだ縁談、あれは実は裏があるのです」
軍帽を取り、頭を下げたのちこう言った。
「あなたへの縁談であることは間違いないのだが、相手は私ではない。私の右腕である、月島だ」
「月島さん、ですか」
供だってやってきた、無口なあの男かと思った。
「あれは、私にとって兄も同然な大切な者でな。妻帯させてやりたいのだが、なかなかどうして頑固者で、私が妻帯せぬうちは誰も娶らないと言っているような男だ」
そんな男が、ある日恋を覚えたばかりの少年のようにそわそわしていた日があった。
「愛子さん、あなたに会った日だ。私の下について八年くらい経つが、あの男があんな顔をするのは初めて見たのだ」
だから、彼の想いを叶えてやりたい。
そう思った鯉登は、一芝居打ったという訳だ。
「あなたには大変失礼な話で申し訳ないが、どうか少し考えてやってくれないか」
鯉登はまた頭を下げた。
愛子は、胸がずきりと痛んだ。
義父と母を結びつけるために動いたかつての自分を見ている気分になったからだ。
「……申し訳ありませんが、結婚は考えておりません」
「月島という人間を知ってからではダメか?」
鯉登は本当に月島が大切なのだろう。
食い入るように言われては、にべもなく断るのも憚れ、
「……お話するだけなら」
と、応えた。
「鯉登さま、でしょうか。お初にお目にかかります、愛子と申します」
「鯉登音之進と申します。先日は、一方的に縁談を申し込み、失礼した」
「いえ」
丁寧な人物だと思った。
圧迫された中で暮らしているからか、兵の中には市井の人々に対して横柄な態度を取る者も多い。
階級者になればなおさらだ。
だが、彼からはそういったものは微塵も感じない。
同じ目線で物を見ている、そんな雰囲気さえあった。
「可能ならば、少しお話できないかと思い伺いました」
「縁談のことなら、お断りしたはずです」
「ええ。だからこそ、お話したいのです」
にこりと笑った鯉登に、愛子は厄介だと感じた。
諦めない、そんな力を感じたからだ。
「姉様は今、大事なお仕事中なの」
そこへ、奏子が割って入った。
「お約束を取り付けてからになさってはいかがですか」
愛らしい外見からは想像出来ない、冷ややかな声。
「確かにその通りだ。が、こちらも何かと立て込んでいる。本当に少しの時間も難しいなら、また日を改めるが……」
ちらと愛子を見やる。
愛子は敏いらしく、小さくため息をつき、「少しだけなら」と言った。
「姉様!」
「大丈夫よ。それより、お連れの方のお相手を」
姉が言うことに従う、それが奏子の矜持なので、渋々ながら応接間に連れを通した。
「……さて、我々は少し歩きながら話そう」
店の近くにある河川敷まで供だって歩く。
道行く女性が皆、鯉登を見て囁いている。
そんな女性たちを気にもせず、鯉登は愛子に歩幅を合わせゆっくり歩いてくれた。
「愛子さん、実はあなたには謝らねばならないことがある」
「謝らねばならないこと、ですか」
鯉登は頷いた。
「申し込んだ縁談、あれは実は裏があるのです」
軍帽を取り、頭を下げたのちこう言った。
「あなたへの縁談であることは間違いないのだが、相手は私ではない。私の右腕である、月島だ」
「月島さん、ですか」
供だってやってきた、無口なあの男かと思った。
「あれは、私にとって兄も同然な大切な者でな。妻帯させてやりたいのだが、なかなかどうして頑固者で、私が妻帯せぬうちは誰も娶らないと言っているような男だ」
そんな男が、ある日恋を覚えたばかりの少年のようにそわそわしていた日があった。
「愛子さん、あなたに会った日だ。私の下について八年くらい経つが、あの男があんな顔をするのは初めて見たのだ」
だから、彼の想いを叶えてやりたい。
そう思った鯉登は、一芝居打ったという訳だ。
「あなたには大変失礼な話で申し訳ないが、どうか少し考えてやってくれないか」
鯉登はまた頭を下げた。
愛子は、胸がずきりと痛んだ。
義父と母を結びつけるために動いたかつての自分を見ている気分になったからだ。
「……申し訳ありませんが、結婚は考えておりません」
「月島という人間を知ってからではダメか?」
鯉登は本当に月島が大切なのだろう。
食い入るように言われては、にべもなく断るのも憚れ、
「……お話するだけなら」
と、応えた。