気付き
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
愛子には昔、想い慕う者がいた。師匠であり、義理の父となった登 である。
想い慕うからこそ、彼が誰を想っているかも分かっていた。
そして、その想いが成就するよう祈ったし、成就するよう色々と画策したりもした。
その甲斐あって、彼は義父となった。
親子となったその日、愛子は密かに泣いた。
そして、この日を最後に登への想いを断ち切り、娘として、また弟子として生きていくことを誓った。
だから、恋愛も、結婚も、興味はなくなった。
この時、自分はもう恋はしないと思った。
そんな愛子に、転機が訪れた。
鯉登との見合い話だ。
階級者の鯉登が、一体何故自分との縁談を思い付いたのかは分からない。
分からないが、見合い話と聞いて愛子よりはしゃいだのが母と奏子だった。
「姉様、どんな方か写真を見たらよろしいのに」
申し込まれた縁談とともに持参された写真を見ずじまいだったので、それを妹に咎められた。
「だって、興味がないのだもの」
「姉様ったら、本当にお馬のことしか頭にないのだから」
はあ、とわざとため息をついた。
「せっかく美人なのに、少しは着飾ったらよろしいのでは?」
「着飾ったら、仕事にならないでしょう」
「仕事じゃない時の話ですー」
妹は、頬を膨らませた。
奏子が可愛くて仕方がない。
年が離れていることもあり、つい奏子を猫かわいがりすることもあるが、やれ着飾れだの外に出ようなどと誘うのだけは勘弁願いたいといつも思っていた。
夢見がちで、姉の贔屓目を除いてもとても愛くるしい外見の奏子だが、亡き父に仕込まれた剣道の腕は今も一級品で、竹刀を構えた彼女は戦う者の目をしていて、その差異をとても好ましく思っていた。
そんな妹が、道場から帰るなり
「姉様とこいのぼりさんの婚姻、私は反対よっ」
などと息巻いたから、驚いてしまった。つい最近まで、写真を見ろとあれだけ鼻息が荒かったのに。
「奏子、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも!」
キーキー怒り出したから、一口大の甘味を口に含んでやれば、「甘い」と言って表情を和らげた。
「ありがとう、心配してくれて。でも、わたしは結婚するつもりはないから大丈夫よ」
「もし結婚なんてなったら、私があいつを伸してやるわ」
妹がいきり立つことは、家族のことか剣道のことくらいだから、想像するに、道場で鯉登絡みのことで何か不快な思いをしたのだろう。
道場内の人間に、鯉登という人間のことを聞いてくると言っていたから、おそらく合っていると思われる。
「伸さなくていいわ。何をされても、反応する気はないから」
「……姉様の方が、よほど不動心を心得てらっしゃる」
「あなたは情熱的なだけよ」
しょんぼりする妹が可愛くて、頭を撫でた。
「ごめんください」
そこへ、店ではなく自宅の玄関から来客の声がした。
はい、と一言返事をして向かうと、二人の軍人が立っていた。
「あっ!」
ついてきた妹の毛が逆立つのを背後に感じた。
(この方が、もしかして……)
肩に階級章を掲げるこの人物こそ、鯉登音之進その人なのだと察した。
想い慕うからこそ、彼が誰を想っているかも分かっていた。
そして、その想いが成就するよう祈ったし、成就するよう色々と画策したりもした。
その甲斐あって、彼は義父となった。
親子となったその日、愛子は密かに泣いた。
そして、この日を最後に登への想いを断ち切り、娘として、また弟子として生きていくことを誓った。
だから、恋愛も、結婚も、興味はなくなった。
この時、自分はもう恋はしないと思った。
そんな愛子に、転機が訪れた。
鯉登との見合い話だ。
階級者の鯉登が、一体何故自分との縁談を思い付いたのかは分からない。
分からないが、見合い話と聞いて愛子よりはしゃいだのが母と奏子だった。
「姉様、どんな方か写真を見たらよろしいのに」
申し込まれた縁談とともに持参された写真を見ずじまいだったので、それを妹に咎められた。
「だって、興味がないのだもの」
「姉様ったら、本当にお馬のことしか頭にないのだから」
はあ、とわざとため息をついた。
「せっかく美人なのに、少しは着飾ったらよろしいのでは?」
「着飾ったら、仕事にならないでしょう」
「仕事じゃない時の話ですー」
妹は、頬を膨らませた。
奏子が可愛くて仕方がない。
年が離れていることもあり、つい奏子を猫かわいがりすることもあるが、やれ着飾れだの外に出ようなどと誘うのだけは勘弁願いたいといつも思っていた。
夢見がちで、姉の贔屓目を除いてもとても愛くるしい外見の奏子だが、亡き父に仕込まれた剣道の腕は今も一級品で、竹刀を構えた彼女は戦う者の目をしていて、その差異をとても好ましく思っていた。
そんな妹が、道場から帰るなり
「姉様とこいのぼりさんの婚姻、私は反対よっ」
などと息巻いたから、驚いてしまった。つい最近まで、写真を見ろとあれだけ鼻息が荒かったのに。
「奏子、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも!」
キーキー怒り出したから、一口大の甘味を口に含んでやれば、「甘い」と言って表情を和らげた。
「ありがとう、心配してくれて。でも、わたしは結婚するつもりはないから大丈夫よ」
「もし結婚なんてなったら、私があいつを伸してやるわ」
妹がいきり立つことは、家族のことか剣道のことくらいだから、想像するに、道場で鯉登絡みのことで何か不快な思いをしたのだろう。
道場内の人間に、鯉登という人間のことを聞いてくると言っていたから、おそらく合っていると思われる。
「伸さなくていいわ。何をされても、反応する気はないから」
「……姉様の方が、よほど不動心を心得てらっしゃる」
「あなたは情熱的なだけよ」
しょんぼりする妹が可愛くて、頭を撫でた。
「ごめんください」
そこへ、店ではなく自宅の玄関から来客の声がした。
はい、と一言返事をして向かうと、二人の軍人が立っていた。
「あっ!」
ついてきた妹の毛が逆立つのを背後に感じた。
(この方が、もしかして……)
肩に階級章を掲げるこの人物こそ、鯉登音之進その人なのだと察した。