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鯉登が馬具屋に持ち掛けた縁談。
実は、月島のためだった。
鯉登の命で馬具屋に赴いた日、月島は愛子と出会った。
本来、外商はすべて母が行うのだが、この日は別の商談のため出かけていた。
義父は根っからの職人のため外商が出来る人間ではない。だから、母が不在の時は愛子が担当することになっていた。
愛子を見た時、月島は一瞬息をするのを忘れた。かつての想い人であったちよに、雰囲気が似ている気がしたからだ。
だが、よく見れば全く違った。
癖毛ではないし、身長は月島と同じくらいで女性にしては大柄だ。
「……あの、どうされましたか?」
それなのに、ちよを彷彿させてしまうのだ。
「い、いえ、何でもありません」
ごまかすように軍帽を深く被り、受け取るものを受け取るや足早に馬具屋を後にした。
そんな月島の様子に、鯉登はいち早く気付いた。
金塊争奪戦以降、右腕として働いてくれている月島のことを、鯉登は大切な部下であると同時にどこかで兄のように思っていた。亡くなった兄と同年代だということもあって、余計にそう感じていたのかもしれない。
だからこそ、月島には誰よりも幸せになって欲しいと願っていて、ことあるごとに妻帯を勧めているのだが、
「鯉登中尉殿のお世話が忙しくて、妻帯する暇はありません」
と、いつも袖にしてきた。
大尉に昇進すると同時に月島も軍曹から曹長に昇進したので、これを機に妻帯しろと言おうとした矢先、月島のぼんやり顔に遭遇し、その理由を無理やり聞き出し(右腕になってからの月島は、鯉登にあまり隠し事をしなくなった)、馬具屋の娘が要因と分かるや、
(これは、月島が妻帯する絶好の機会ではないか!)
と一人息まき、他の者に持っていかれてはと縁談を申し込んだのである。
月島名義では相手にもされないかもしれないと思い自分の名を使ったのだが、無論彼女と妻帯する気はまったくなく、そこは愛子の結婚する気がないという情報を事前に仕入れておいてからの作戦であった。
自分の何がよいのか分からないが、町ゆく娘にさえ懸想されることが多いので、念のため事前に愛子に結婚する気がないことを調査したことは月島には内緒の話である。
(とはいえ、私との縁談を一刀両断した娘が、月島との縁談を受けるとも思えぬ。さて、どうしたものか)
道場の壁ぎわで瞑目していると、
「大尉殿」
月島の声に目を開けた。
「何だ」
「大尉殿、あの娘は例の馬具屋の次女です」
「……ほう、あの馬具屋のか」
しめたと思った。
愛子の情報を収集していた際、妹がいることは知っていたが、その妹の深い情報までは必要に感じず、特段調べていなかった。
思いがけないところで妹と出会ったものだと思った。
しかも、鯉登がわざと負けたことを見抜き、憤怒した。
自分が嫁に迎えるなら、気の強い娘がよいと思っていて、そういう意味では奏子は鯉登の眼鏡にかなったことになる。
(妹、悪いが貴様には月島の縁談のため、協力してもらうぞ)
そしてまた、鯉登は一人笑った。
実は、月島のためだった。
鯉登の命で馬具屋に赴いた日、月島は愛子と出会った。
本来、外商はすべて母が行うのだが、この日は別の商談のため出かけていた。
義父は根っからの職人のため外商が出来る人間ではない。だから、母が不在の時は愛子が担当することになっていた。
愛子を見た時、月島は一瞬息をするのを忘れた。かつての想い人であったちよに、雰囲気が似ている気がしたからだ。
だが、よく見れば全く違った。
癖毛ではないし、身長は月島と同じくらいで女性にしては大柄だ。
「……あの、どうされましたか?」
それなのに、ちよを彷彿させてしまうのだ。
「い、いえ、何でもありません」
ごまかすように軍帽を深く被り、受け取るものを受け取るや足早に馬具屋を後にした。
そんな月島の様子に、鯉登はいち早く気付いた。
金塊争奪戦以降、右腕として働いてくれている月島のことを、鯉登は大切な部下であると同時にどこかで兄のように思っていた。亡くなった兄と同年代だということもあって、余計にそう感じていたのかもしれない。
だからこそ、月島には誰よりも幸せになって欲しいと願っていて、ことあるごとに妻帯を勧めているのだが、
「鯉登中尉殿のお世話が忙しくて、妻帯する暇はありません」
と、いつも袖にしてきた。
大尉に昇進すると同時に月島も軍曹から曹長に昇進したので、これを機に妻帯しろと言おうとした矢先、月島のぼんやり顔に遭遇し、その理由を無理やり聞き出し(右腕になってからの月島は、鯉登にあまり隠し事をしなくなった)、馬具屋の娘が要因と分かるや、
(これは、月島が妻帯する絶好の機会ではないか!)
と一人息まき、他の者に持っていかれてはと縁談を申し込んだのである。
月島名義では相手にもされないかもしれないと思い自分の名を使ったのだが、無論彼女と妻帯する気はまったくなく、そこは愛子の結婚する気がないという情報を事前に仕入れておいてからの作戦であった。
自分の何がよいのか分からないが、町ゆく娘にさえ懸想されることが多いので、念のため事前に愛子に結婚する気がないことを調査したことは月島には内緒の話である。
(とはいえ、私との縁談を一刀両断した娘が、月島との縁談を受けるとも思えぬ。さて、どうしたものか)
道場の壁ぎわで瞑目していると、
「大尉殿」
月島の声に目を開けた。
「何だ」
「大尉殿、あの娘は例の馬具屋の次女です」
「……ほう、あの馬具屋のか」
しめたと思った。
愛子の情報を収集していた際、妹がいることは知っていたが、その妹の深い情報までは必要に感じず、特段調べていなかった。
思いがけないところで妹と出会ったものだと思った。
しかも、鯉登がわざと負けたことを見抜き、憤怒した。
自分が嫁に迎えるなら、気の強い娘がよいと思っていて、そういう意味では奏子は鯉登の眼鏡にかなったことになる。
(妹、悪いが貴様には月島の縁談のため、協力してもらうぞ)
そしてまた、鯉登は一人笑った。