戸惑い
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戸惑う奏子の瞳を、月島は真正面から受け止めた。
「月島さまは、姉を慕ってくださっているのですね」
「ああ。鯉登大尉殿には気付かれていたようですが」
「お前は、存外分かりやすい男だからな。視線で愛子殿をいつも追っていたしな」
鯉登は小さく笑った。
「だから、婚約話を唐突に持ち出されたのですね。ご自分の位と彼女が釣り合わないことを承知で、他の人間に彼女が嫁がぬための布石として。……私と彼女が一緒になれるようにするために」
「そうだ。こうでもせんと、お前は本当に私と結婚したと思われるような状況だからな」
今度は声をあげて笑った。
「お気遣いはありがたいですが、愛子殿に求婚したのは鯉登大尉殿が先です。私が彼女に何か申し上げるのはそれこそ彼女に失礼だと思いますし、この話は今日で終わりにさせてください」
月島は、きっぱりと言い切った。
「鯉登大尉殿が私を想ってやってくださった、それだけで十分です。想いをと遂げられずとも、後悔はありません」
「月島……」
「それに、もうこの歳です。愛子殿のようにお若く未来のある方が俺のような老人に嫁ぐなど、勿体ないことです」
月島は奏子をもう一度見つめ、頭を下げた。
「あなたがたお二人を巻き込む狂言をしたこと、本当に申し訳ない。どうかこの話、なかったことに……」
「ふざけないでください」
奏子は、茶卓に拳を叩きつけた。
「あなた方お二人の中で完結することなら、いくらでもどうぞ。姉も、あなた方に興味はないでしょうから問題ないと思います。むしろ、仕事相手として興味を持とうとしなかったのですから、振り回されたとも思っていないでしょう。……ですが、私はそうは思えません」
大きな瞳に怒りの炎をにじませ、奏子は鯉登と月島を同時に睨んだ。
「あなた方に話を持ち掛けられたことは、近所の方々も取引先にも知れ渡っているでしょう。軍関係の交友は存外狭いですからね。ここでまた婚姻しないとなると、姉はまた行き遅れの変わり者と揶揄されます。姉自身はそのことを気にはしないでしょう。でも、本当は心の奥でいつも傷付いているのです。自分が頑なに馬具屋を優先しているせいで、両親が娘にそんな人生を歩ませている とまわりから言われることに」
鯉登と月島は同時に息を飲んだ。
「断る? それなら、最初から姉を舞い込むような話を持って来ないでください。一体、何のための芝居だったのですか。あなた方にとっては一時の座興と流せても、こちらは一般の平民です。しかも、軍と深く関わっています。……言いたくありませんが、まわりからは軍に媚を売る者と一部の人間からは揶揄される存在なのです。軍人ではない平民は、まわりからも軍からも揶揄される。どちらにも属せない半端者なのです」
奏子は立ち上がると、頭を下げた。
「御無礼の発言、お許しください。どうか、姉と私の家族に関わるのはこれきりにしてください。今後は、当方はただの取引先として接してください」
それではと言い、奏子は裾を翻し店を後にした。
「月島さまは、姉を慕ってくださっているのですね」
「ああ。鯉登大尉殿には気付かれていたようですが」
「お前は、存外分かりやすい男だからな。視線で愛子殿をいつも追っていたしな」
鯉登は小さく笑った。
「だから、婚約話を唐突に持ち出されたのですね。ご自分の位と彼女が釣り合わないことを承知で、他の人間に彼女が嫁がぬための布石として。……私と彼女が一緒になれるようにするために」
「そうだ。こうでもせんと、お前は本当に私と結婚したと思われるような状況だからな」
今度は声をあげて笑った。
「お気遣いはありがたいですが、愛子殿に求婚したのは鯉登大尉殿が先です。私が彼女に何か申し上げるのはそれこそ彼女に失礼だと思いますし、この話は今日で終わりにさせてください」
月島は、きっぱりと言い切った。
「鯉登大尉殿が私を想ってやってくださった、それだけで十分です。想いをと遂げられずとも、後悔はありません」
「月島……」
「それに、もうこの歳です。愛子殿のようにお若く未来のある方が俺のような老人に嫁ぐなど、勿体ないことです」
月島は奏子をもう一度見つめ、頭を下げた。
「あなたがたお二人を巻き込む狂言をしたこと、本当に申し訳ない。どうかこの話、なかったことに……」
「ふざけないでください」
奏子は、茶卓に拳を叩きつけた。
「あなた方お二人の中で完結することなら、いくらでもどうぞ。姉も、あなた方に興味はないでしょうから問題ないと思います。むしろ、仕事相手として興味を持とうとしなかったのですから、振り回されたとも思っていないでしょう。……ですが、私はそうは思えません」
大きな瞳に怒りの炎をにじませ、奏子は鯉登と月島を同時に睨んだ。
「あなた方に話を持ち掛けられたことは、近所の方々も取引先にも知れ渡っているでしょう。軍関係の交友は存外狭いですからね。ここでまた婚姻しないとなると、姉はまた行き遅れの変わり者と揶揄されます。姉自身はそのことを気にはしないでしょう。でも、本当は心の奥でいつも傷付いているのです。自分が頑なに馬具屋を優先しているせいで、
鯉登と月島は同時に息を飲んだ。
「断る? それなら、最初から姉を舞い込むような話を持って来ないでください。一体、何のための芝居だったのですか。あなた方にとっては一時の座興と流せても、こちらは一般の平民です。しかも、軍と深く関わっています。……言いたくありませんが、まわりからは軍に媚を売る者と一部の人間からは揶揄される存在なのです。軍人ではない平民は、まわりからも軍からも揶揄される。どちらにも属せない半端者なのです」
奏子は立ち上がると、頭を下げた。
「御無礼の発言、お許しください。どうか、姉と私の家族に関わるのはこれきりにしてください。今後は、当方はただの取引先として接してください」
それではと言い、奏子は裾を翻し店を後にした。
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