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翌日。
奏子の姿は、通っている剣道の道場にあった。
この日は、陸軍から兵士が指南役としてやって来ている。
指南で来ている兵士はこの道場の出身で、愛子に舞い込んだ縁談の張本人・鯉登の隊に所属しているらしいことまでは分かった。
(まずは、出入りされてらっしゃる兵隊さんから、鯉登さんの人と成りを聞けたらいいわね)
練習後に兵に話しかける算段を頭の中で巡らせていると、場内に兵士たちの沸き立つ声があがった。見れば、出入り口に若い男が立っていた。
「こ、鯉登大尉!」
手で兵を制し道場主に頭を下げる美丈夫、それが鯉登音之進であった。
今日は非番らしく、隊服ではなく着物姿だ。一目で軍人と分かる体躯だが、醸し出す雰囲気はどこかの役者のようだ。
(この方が、姉様に求婚なさった鯉登さん)
目で追うと、こちらの視線に気付いた鯉登が近付いてきた。
「ほう、こちらの道場には女性も通っているのか」
近くで見ると、より美丈夫だ。まるで、役者絵から飛び出してきたかのようだ。
個性的な眉を除いて、であるが。
「鯉登大尉、女性に不躾に近付くものではありません」
その時、今まで壁にずっと張り付いていた男が口を開いた。
「近付かねば話しかけられないではないか、月島」
月島、と呼ばれたその男は、何でも鯉登大尉の右腕と称される男らしい。
今日は非番で、もう一人の兵の付き添いでこの道場に来ており、鯉登はこの月島に用があって道場に赴いたそうだ。
「どれ、私も久しぶりにご指南いただこう」
道場主である奏子の師匠とは何度も手合わせをしているらしく、どこか楽し気に笑う様子はまるで少年そのものだった。
大尉ともなれば、数百人の兵を率いて一隊を動かす存在と姉から聞いたことがあるが、果たして今目の前にいる大尉の笑顔からはそういった緊張感は全く感じられない。
(こんな方が、姉に求婚?)
奏子は、複雑な気持ちになった。
奏子は姉が大好きで、姉には姉が好きになった人と幸せになって欲しいが、それが叶わないなら姉を一生涯かけて守り通す気概のある殿方と一緒になって欲しいと願っている。
馬具屋をやりたいと願う彼女の思いが本物なのは疑いようもないが、内心では華やかな洋服を着てみたいと思う乙女心を持っていることも知っていて、だからこ、そんな複雑な性格の姉を、こんな少年のような笑みを浮かべる人に、商売がうまくいくかもしれないからという理由だけで渡すのは癪だった。
「……ご指南いただけますか」
奏子は、一勝負願い出た。
剣道において、相手の強さは竹刀を交えた瞬間に分かる。
「お願いします」
第七師団は叩き上げの者が多いと聞いている。その者たちを束ねる隊の隊長である大尉の腕は、さぞかし素晴らしいに違いない。
だが、予想に反し、勝負は奏子の小手一本であっさりと決まった。
道場内はわっと湧いたが、奏子は激怒した。
「鯉登さん、女だからと甘く見ていらっしゃるのですね」
面を外し、烈火の如き瞳を鯉登に向けた。
「手は抜いておらん。あなたの腕が勝っただけだ」
「……もう、結構です」
一礼を残し、奏子は道場を後にした。
「……何だ、あの娘は。本当のことを言ったのに怒りおった」
「大尉殿、あの娘は例の馬具屋の次女です」
「……ほう、あの馬具屋のか」
鯉登は人知れず笑った。
奏子の姿は、通っている剣道の道場にあった。
この日は、陸軍から兵士が指南役としてやって来ている。
指南で来ている兵士はこの道場の出身で、愛子に舞い込んだ縁談の張本人・鯉登の隊に所属しているらしいことまでは分かった。
(まずは、出入りされてらっしゃる兵隊さんから、鯉登さんの人と成りを聞けたらいいわね)
練習後に兵に話しかける算段を頭の中で巡らせていると、場内に兵士たちの沸き立つ声があがった。見れば、出入り口に若い男が立っていた。
「こ、鯉登大尉!」
手で兵を制し道場主に頭を下げる美丈夫、それが鯉登音之進であった。
今日は非番らしく、隊服ではなく着物姿だ。一目で軍人と分かる体躯だが、醸し出す雰囲気はどこかの役者のようだ。
(この方が、姉様に求婚なさった鯉登さん)
目で追うと、こちらの視線に気付いた鯉登が近付いてきた。
「ほう、こちらの道場には女性も通っているのか」
近くで見ると、より美丈夫だ。まるで、役者絵から飛び出してきたかのようだ。
個性的な眉を除いて、であるが。
「鯉登大尉、女性に不躾に近付くものではありません」
その時、今まで壁にずっと張り付いていた男が口を開いた。
「近付かねば話しかけられないではないか、月島」
月島、と呼ばれたその男は、何でも鯉登大尉の右腕と称される男らしい。
今日は非番で、もう一人の兵の付き添いでこの道場に来ており、鯉登はこの月島に用があって道場に赴いたそうだ。
「どれ、私も久しぶりにご指南いただこう」
道場主である奏子の師匠とは何度も手合わせをしているらしく、どこか楽し気に笑う様子はまるで少年そのものだった。
大尉ともなれば、数百人の兵を率いて一隊を動かす存在と姉から聞いたことがあるが、果たして今目の前にいる大尉の笑顔からはそういった緊張感は全く感じられない。
(こんな方が、姉に求婚?)
奏子は、複雑な気持ちになった。
奏子は姉が大好きで、姉には姉が好きになった人と幸せになって欲しいが、それが叶わないなら姉を一生涯かけて守り通す気概のある殿方と一緒になって欲しいと願っている。
馬具屋をやりたいと願う彼女の思いが本物なのは疑いようもないが、内心では華やかな洋服を着てみたいと思う乙女心を持っていることも知っていて、だからこ、そんな複雑な性格の姉を、こんな少年のような笑みを浮かべる人に、商売がうまくいくかもしれないからという理由だけで渡すのは癪だった。
「……ご指南いただけますか」
奏子は、一勝負願い出た。
剣道において、相手の強さは竹刀を交えた瞬間に分かる。
「お願いします」
第七師団は叩き上げの者が多いと聞いている。その者たちを束ねる隊の隊長である大尉の腕は、さぞかし素晴らしいに違いない。
だが、予想に反し、勝負は奏子の小手一本であっさりと決まった。
道場内はわっと湧いたが、奏子は激怒した。
「鯉登さん、女だからと甘く見ていらっしゃるのですね」
面を外し、烈火の如き瞳を鯉登に向けた。
「手は抜いておらん。あなたの腕が勝っただけだ」
「……もう、結構です」
一礼を残し、奏子は道場を後にした。
「……何だ、あの娘は。本当のことを言ったのに怒りおった」
「大尉殿、あの娘は例の馬具屋の次女です」
「……ほう、あの馬具屋のか」
鯉登は人知れず笑った。