戸惑い
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「鯉登大尉殿、兵営をあれほど黙って出るなと何度申し上げれば覚えていただけるのですか?」
奏子の手前、声を抑えているが、月島は明らかに怒りの様相だった。
「月島さま、鯉登さまはわたしの事情を汲んでくださったゆえでございます」
「だとしても、私には一言あるべきでは? お帰りになられたかどうか分からず、部下が右往左往しておりました」
「ああ、済まん」
言葉とは裏腹に、鯉登の表情に悪びれたところはなかった。
「全く……。それで? 私に何を確認なさりたいので?」
上官を見ると、上官はまず座るよう椅子を叩いた。嘆息して座れば、鯉登が月島にと適当に注文した団子がやって来た。月島はそれには手を付けず、茶のみ啜った。
「何だ、食わんのか」
「あなたがお召しになりたいものを頼まれた時点で、私が食す選択肢はありません」
「悪いな」
鯉登は、また悪びれず素直に団子を口にした。
「……ああ、お気になさらず。大尉殿は、本当に私のために頼んでくださったのです。その上で、私に選択肢を与え、決断を任せられた。私には、大尉殿のお気持ちだけで十分なので、この茶がいただければ十分なのです」
そう言って、月島は少し微笑んだ。
「もうひとつ言うと、私も今日は本当は非番です。鯉登大尉殿が残された仕事が気になりまして」
月島は心の内を読むことが出来るのだろうか。奏子の疑問を、すべて解決してしまった。
「だから、私も出て来ただろう?」
「元はと言えば、あなたが昨日猫だのなんだのとおっしゃらずに真っ直ぐ兵営に戻ってらしたら、こんなことにならなかったのですよ」
「寄り道をしたからこそ、迷われていたご婦人をお助け出来たではないか」
「それは、結果論です。我々の書類は、救われていません」
「だから、代替案としてこうして出て来たではないか」
「上官がいない時間も、下士官には必要なのです」
「お前の部下から見れば、お前がいない時間も必要ということではないか」
「俺とあなたとでは、重みが違います」
「だから、その不健康な思考、いい加減止めろと言っている」
流れるように続く二人の会話に、奏子は思わず噴き出した。
「も、申し訳ございません。お二人の絆の深さが伝わって来て、まるで兄弟げんかのようで、微笑ましくて」
二人も顔を見合わせ、そして笑った。
「確かにな。月島は、年の離れた私の兄と同じ年頃だ。だから、余計そう感じるのかもしれんな」
「こんな手のかかる弟は御免ですけどね」
「抜かせ。世話好きのお前にぴったりの人材であろうが」
なおも続く二人の会話に、奏子はそっと手紙を取り下げようとした。
「鯉登大尉殿、奏子さん、これについて、私にお話があるのでしょう?」
引き下げようとした手紙を、武骨な男の手が止めた。
奏子の手前、声を抑えているが、月島は明らかに怒りの様相だった。
「月島さま、鯉登さまはわたしの事情を汲んでくださったゆえでございます」
「だとしても、私には一言あるべきでは? お帰りになられたかどうか分からず、部下が右往左往しておりました」
「ああ、済まん」
言葉とは裏腹に、鯉登の表情に悪びれたところはなかった。
「全く……。それで? 私に何を確認なさりたいので?」
上官を見ると、上官はまず座るよう椅子を叩いた。嘆息して座れば、鯉登が月島にと適当に注文した団子がやって来た。月島はそれには手を付けず、茶のみ啜った。
「何だ、食わんのか」
「あなたがお召しになりたいものを頼まれた時点で、私が食す選択肢はありません」
「悪いな」
鯉登は、また悪びれず素直に団子を口にした。
「……ああ、お気になさらず。大尉殿は、本当に私のために頼んでくださったのです。その上で、私に選択肢を与え、決断を任せられた。私には、大尉殿のお気持ちだけで十分なので、この茶がいただければ十分なのです」
そう言って、月島は少し微笑んだ。
「もうひとつ言うと、私も今日は本当は非番です。鯉登大尉殿が残された仕事が気になりまして」
月島は心の内を読むことが出来るのだろうか。奏子の疑問を、すべて解決してしまった。
「だから、私も出て来ただろう?」
「元はと言えば、あなたが昨日猫だのなんだのとおっしゃらずに真っ直ぐ兵営に戻ってらしたら、こんなことにならなかったのですよ」
「寄り道をしたからこそ、迷われていたご婦人をお助け出来たではないか」
「それは、結果論です。我々の書類は、救われていません」
「だから、代替案としてこうして出て来たではないか」
「上官がいない時間も、下士官には必要なのです」
「お前の部下から見れば、お前がいない時間も必要ということではないか」
「俺とあなたとでは、重みが違います」
「だから、その不健康な思考、いい加減止めろと言っている」
流れるように続く二人の会話に、奏子は思わず噴き出した。
「も、申し訳ございません。お二人の絆の深さが伝わって来て、まるで兄弟げんかのようで、微笑ましくて」
二人も顔を見合わせ、そして笑った。
「確かにな。月島は、年の離れた私の兄と同じ年頃だ。だから、余計そう感じるのかもしれんな」
「こんな手のかかる弟は御免ですけどね」
「抜かせ。世話好きのお前にぴったりの人材であろうが」
なおも続く二人の会話に、奏子はそっと手紙を取り下げようとした。
「鯉登大尉殿、奏子さん、これについて、私にお話があるのでしょう?」
引き下げようとした手紙を、武骨な男の手が止めた。