戸惑い
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言った後で、奏子は自分がひどいことを言ったと後悔した。
軍の詳しいことはよく分からないが、鯉登は少尉時代に直属の上官絡みで随分と苦労したらしい。
彼の外見からはそんなことは微塵も感じられない。
今だって、団子を頬張り茶をすする様は、軍服を着ていなければただの好青年だ。
彼がそんなふうにいられるのは、きっと月島の存在があったからなのだろう。自宅を訪れた際の二人のやり取りからは、幾多の苦難を共に乗り越えて来た信頼と言う名の絆が見えた。
「わたし、自分のことばかりです。嫌になってしまう」
きゅ、と手を握る。
「奏子殿が気に病むことではない。茶番劇を先に持ち掛けたのはこちらだ。あなたは、それに誘発されただけに過ぎない」
「自分のことばかり、という姿勢を改めていれば、こういう咄嗟の時には出てこないものです」
「奏子殿はご自分に随分と厳しいようだな」
ふ、と笑った顔が優しくて、奏子はこの人は人のいいところを見るのが得意なのだろうと思った。
道場で会った時の不愉快な気持ちは、とうに冷めていた。
「だが、奏子殿の言われることは最もだ。私も姉上と少しばかり話をさせていただいたが、どこか月島と似ている風でもあった」
「月島さまと、ですか?」
「そうだ」
茶を頼む、と店の者に告げたついでに、鯉登は団子の追加注文をした。
「そんなに召し上がってよろしいのですか?」
「私は、今日は本来非番なのでな。月島に用があって兵営に顔を出したのだが、あれに何も言わず出たのはまずかったかもしれないな」
そう言って、からりと笑った。
月島が追いかけて来なかった理由を知った奏子であったが、ならば自分が言ったことも的外れだったと感じ、差し出がましいことを申しましたと謝れば、
「いや、一度顔を出した以上、無断外出はどのみちよくない。私にも立場というものがあるからな、自覚せねばならないところだ」
と、またからりと笑った。
「姉上のことなんだが」
鯉登はずいと前のめりになった。
「ここで二人で話していても埒が明かないと思わないか?」
「え、まあ、それは確かに……」
「いっそ、本人に直接聞いてみるという手もあるが、どうだ」
悪戯を思いついた顔に、奏子の童心が疼く。
「……姉を傷付けない範囲でしたら」
「奏子殿は話が早くていいな。……ということだ、月島」
「え!?」
驚愕の声をあげたと同時に、月島がそっと姿を現した。
軍の詳しいことはよく分からないが、鯉登は少尉時代に直属の上官絡みで随分と苦労したらしい。
彼の外見からはそんなことは微塵も感じられない。
今だって、団子を頬張り茶をすする様は、軍服を着ていなければただの好青年だ。
彼がそんなふうにいられるのは、きっと月島の存在があったからなのだろう。自宅を訪れた際の二人のやり取りからは、幾多の苦難を共に乗り越えて来た信頼と言う名の絆が見えた。
「わたし、自分のことばかりです。嫌になってしまう」
きゅ、と手を握る。
「奏子殿が気に病むことではない。茶番劇を先に持ち掛けたのはこちらだ。あなたは、それに誘発されただけに過ぎない」
「自分のことばかり、という姿勢を改めていれば、こういう咄嗟の時には出てこないものです」
「奏子殿はご自分に随分と厳しいようだな」
ふ、と笑った顔が優しくて、奏子はこの人は人のいいところを見るのが得意なのだろうと思った。
道場で会った時の不愉快な気持ちは、とうに冷めていた。
「だが、奏子殿の言われることは最もだ。私も姉上と少しばかり話をさせていただいたが、どこか月島と似ている風でもあった」
「月島さまと、ですか?」
「そうだ」
茶を頼む、と店の者に告げたついでに、鯉登は団子の追加注文をした。
「そんなに召し上がってよろしいのですか?」
「私は、今日は本来非番なのでな。月島に用があって兵営に顔を出したのだが、あれに何も言わず出たのはまずかったかもしれないな」
そう言って、からりと笑った。
月島が追いかけて来なかった理由を知った奏子であったが、ならば自分が言ったことも的外れだったと感じ、差し出がましいことを申しましたと謝れば、
「いや、一度顔を出した以上、無断外出はどのみちよくない。私にも立場というものがあるからな、自覚せねばならないところだ」
と、またからりと笑った。
「姉上のことなんだが」
鯉登はずいと前のめりになった。
「ここで二人で話していても埒が明かないと思わないか?」
「え、まあ、それは確かに……」
「いっそ、本人に直接聞いてみるという手もあるが、どうだ」
悪戯を思いついた顔に、奏子の童心が疼く。
「……姉を傷付けない範囲でしたら」
「奏子殿は話が早くていいな。……ということだ、月島」
「え!?」
驚愕の声をあげたと同時に、月島がそっと姿を現した。