戸惑い
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「奏子殿、ひとつ芝居を打ってくれないか」
鯉登は人好きのする笑みを浮かべた。
「私が無断で外に出ていたと知れたら大目玉だ。だから、その手紙を受け取りに外に出ていたことにして欲しいのだ」
「それは構いませんが……」
「そうか、助かる!」
また笑うその顔が無邪気で、奏子は思わず見つめた。
「何だ、どうした」
「大尉になるような方は、簡単にお笑いにならないと思ってましたので、意外に思いまして」
「ああ、よく言われる」
「あと、僭越ですが……」
「構わん、言ってくれ」
奏子は、頷いたのちこう言った。
「無断外出には違いないのですから、正直に申し上げた方がよろしいのではありませんか?」
鯉登は目を点にしたのち、破顔した。
「まったく、その通りだ! だがな、私はあれに叱られたくないのだ」
「あれ?」
鯉登の視線の先を見る。
そこには、鬼の形相でこちらに来る月島の姿があった。
「鯉登大尉殿!!」
「そら、逃げろ!」
「え!?」
突然手を引っ張られ、鯉登と共に走る。
月島は、何故か追いかけて来なかった。
団子屋近くまで走ったところで、鯉登はようやく手を離してくれた。
「婦女子に失敬なことをした上、巻き込んでしまったな」
詫びに団子を馳走すると言われ、有無を言わさず茶屋に座らされた。
「あの、よろしいのですか?」
「ああ、構わん」
「そうではなくて」
店の者がまた来てくださってと謝辞を述べたのち、意味深な視線を奏子に向けた。
「わたしといると、変な噂を立てられるのではありませんか?」
「言いたい奴には言わせておけばいい」
「そうはいきません。うちは、ただでさえ軍と懇意な間柄です」
「なら、なおさらだ。そこの娘と茶をして何が悪い」
そう言い切り、鯉登は茶を啜った。
「月島には、姉上さえお心を許してくださるのなら、本当にそういう間柄になって欲しいのだ」
奏子は、はたと手紙のことを思い出した。
「そのことで、手紙をしたためてきたのでした。差し支えなければ、お読みいただけませんか?」
団子を頬張り、鯉登は手紙を広げた。
そこには、姉の愛子の馬具屋にかける思いや姿勢、そして、姉と結婚するなら軍を辞める必要があるだろうことが記されていた。
「なるほどな」
「月島さまは、わたしから見ても鯉登さまにお仕えするのをとても楽しそうにしていらっしゃるように見えました。ですから、これはとても残酷なことを申し上げているとは分かっているのです」
「そうだな。私にとっても、あれがいなくなるのは残酷なことだ。ともに命を預け合った仲だからな」
「っ……、申し訳ありません」
「いや、姉上の幸せを願う奏子殿のお気持ちは大切なことです」
鯉登は、また茶を啜った。
鯉登は人好きのする笑みを浮かべた。
「私が無断で外に出ていたと知れたら大目玉だ。だから、その手紙を受け取りに外に出ていたことにして欲しいのだ」
「それは構いませんが……」
「そうか、助かる!」
また笑うその顔が無邪気で、奏子は思わず見つめた。
「何だ、どうした」
「大尉になるような方は、簡単にお笑いにならないと思ってましたので、意外に思いまして」
「ああ、よく言われる」
「あと、僭越ですが……」
「構わん、言ってくれ」
奏子は、頷いたのちこう言った。
「無断外出には違いないのですから、正直に申し上げた方がよろしいのではありませんか?」
鯉登は目を点にしたのち、破顔した。
「まったく、その通りだ! だがな、私はあれに叱られたくないのだ」
「あれ?」
鯉登の視線の先を見る。
そこには、鬼の形相でこちらに来る月島の姿があった。
「鯉登大尉殿!!」
「そら、逃げろ!」
「え!?」
突然手を引っ張られ、鯉登と共に走る。
月島は、何故か追いかけて来なかった。
団子屋近くまで走ったところで、鯉登はようやく手を離してくれた。
「婦女子に失敬なことをした上、巻き込んでしまったな」
詫びに団子を馳走すると言われ、有無を言わさず茶屋に座らされた。
「あの、よろしいのですか?」
「ああ、構わん」
「そうではなくて」
店の者がまた来てくださってと謝辞を述べたのち、意味深な視線を奏子に向けた。
「わたしといると、変な噂を立てられるのではありませんか?」
「言いたい奴には言わせておけばいい」
「そうはいきません。うちは、ただでさえ軍と懇意な間柄です」
「なら、なおさらだ。そこの娘と茶をして何が悪い」
そう言い切り、鯉登は茶を啜った。
「月島には、姉上さえお心を許してくださるのなら、本当にそういう間柄になって欲しいのだ」
奏子は、はたと手紙のことを思い出した。
「そのことで、手紙をしたためてきたのでした。差し支えなければ、お読みいただけませんか?」
団子を頬張り、鯉登は手紙を広げた。
そこには、姉の愛子の馬具屋にかける思いや姿勢、そして、姉と結婚するなら軍を辞める必要があるだろうことが記されていた。
「なるほどな」
「月島さまは、わたしから見ても鯉登さまにお仕えするのをとても楽しそうにしていらっしゃるように見えました。ですから、これはとても残酷なことを申し上げているとは分かっているのです」
「そうだな。私にとっても、あれがいなくなるのは残酷なことだ。ともに命を預け合った仲だからな」
「っ……、申し訳ありません」
「いや、姉上の幸せを願う奏子殿のお気持ちは大切なことです」
鯉登は、また茶を啜った。