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陸軍と繋がりがある馬具屋。
そこの長女として生まれた愛子は、生まれた時から手先が器用だった。
父の願いもあり、女ながらに馬具職人としての道を進み、父が亡くなった後は馬具屋の二代目として生きていくつもりだった。
そんな彼女に、突如縁談が舞い込んだ。
「……陸軍の、将校さん?」
「そう。第七師団の」
母・キヨがほくほく顔で答えた。
「陸軍の中でも、とびきり優秀で美丈夫な方だそうよ。ええと、確か名前は……」
「こいのぼりさんよ、母様」
愛子の妹・奏子が話に割って入った。
「そうそう、こいのぼりと書いて鯉登さん」
「お断りして」
愛子の態度は取り付く島もなかった。
「どうして? 陸軍の大尉さんよ」
「どうしても何も、将校と結婚したら私、この馬具屋をやっていけないじゃない。母様だって困るでしょう?」
「そ、それはそうだけど……」
愛子の馬具屋は、母が切り盛りをしている。職人は愛子の他に、師匠であり義理の父でもある登 の二人だけ。
腕利きと言われてはいるが、所詮小さな馬具屋だ。後ろ盾があった方が商売はしやすい。
「義父様は根っからの職人。切り盛りは絶対向いてない。その点、私は職人でもあるし、切り盛りだって出来る。義父様から弟子をとってもよいと言われている」
ほら、結婚なんてしてる暇はないでしょ、と、愛子は話を終わらせ、さっさと作業場へ戻ってしまった。
「あ、愛子! まったく……。よいご縁なのに」
「しょうがないわよ、母様。姉様は、昔からお馬が大好きだもの。馬に携わってる時が一番楽しそう」
「それは、私も分かっているのだけど……」
まだまだ女性は家にいるもの、という認識が強い大正時代。‟でもくらしー”なるものがはやり、男女平等という言葉が出回っているものの、実際人々の意識にそれが浸透しているかというとそうではない。
ゆえに、愛子は‟よい年をして行き遅れた哀れな娘”とか、‟馬に生涯を捧げるつもりの気狂い娘”など、散々な悪態をつかれている。
だが、キヨにとっては腹を痛めて産んだ大事な娘だ。幸せになって欲しいと常に願っていて、今回の縁組は商売のことも含めとびきり上玉であることは間違いなかった。
「何で、将校さんほどの方がうちみたいな小さな馬具屋に目をつけたのかしら」
「確かに、そこは不思議よね。……ねえ、母様。私が裏を取ってきてさしあげましょうか?」
奏子は、大きな瞳を三日月状にした。
「どうやって?」
「私が通っている道場に、陸軍の方が出入りされる日があるの。お話できるかは分からないけれど、本営を尋ねてお聞きするよりは色んなお話が聞けるかもしれないわ」
こうして、どちらかと言えば奏子の好奇心を満たすために、愛子の縁組の裏どりが始まった。
そこの長女として生まれた愛子は、生まれた時から手先が器用だった。
父の願いもあり、女ながらに馬具職人としての道を進み、父が亡くなった後は馬具屋の二代目として生きていくつもりだった。
そんな彼女に、突如縁談が舞い込んだ。
「……陸軍の、将校さん?」
「そう。第七師団の」
母・キヨがほくほく顔で答えた。
「陸軍の中でも、とびきり優秀で美丈夫な方だそうよ。ええと、確か名前は……」
「こいのぼりさんよ、母様」
愛子の妹・奏子が話に割って入った。
「そうそう、こいのぼりと書いて鯉登さん」
「お断りして」
愛子の態度は取り付く島もなかった。
「どうして? 陸軍の大尉さんよ」
「どうしても何も、将校と結婚したら私、この馬具屋をやっていけないじゃない。母様だって困るでしょう?」
「そ、それはそうだけど……」
愛子の馬具屋は、母が切り盛りをしている。職人は愛子の他に、師匠であり義理の父でもある
腕利きと言われてはいるが、所詮小さな馬具屋だ。後ろ盾があった方が商売はしやすい。
「義父様は根っからの職人。切り盛りは絶対向いてない。その点、私は職人でもあるし、切り盛りだって出来る。義父様から弟子をとってもよいと言われている」
ほら、結婚なんてしてる暇はないでしょ、と、愛子は話を終わらせ、さっさと作業場へ戻ってしまった。
「あ、愛子! まったく……。よいご縁なのに」
「しょうがないわよ、母様。姉様は、昔からお馬が大好きだもの。馬に携わってる時が一番楽しそう」
「それは、私も分かっているのだけど……」
まだまだ女性は家にいるもの、という認識が強い大正時代。‟でもくらしー”なるものがはやり、男女平等という言葉が出回っているものの、実際人々の意識にそれが浸透しているかというとそうではない。
ゆえに、愛子は‟よい年をして行き遅れた哀れな娘”とか、‟馬に生涯を捧げるつもりの気狂い娘”など、散々な悪態をつかれている。
だが、キヨにとっては腹を痛めて産んだ大事な娘だ。幸せになって欲しいと常に願っていて、今回の縁組は商売のことも含めとびきり上玉であることは間違いなかった。
「何で、将校さんほどの方がうちみたいな小さな馬具屋に目をつけたのかしら」
「確かに、そこは不思議よね。……ねえ、母様。私が裏を取ってきてさしあげましょうか?」
奏子は、大きな瞳を三日月状にした。
「どうやって?」
「私が通っている道場に、陸軍の方が出入りされる日があるの。お話できるかは分からないけれど、本営を尋ねてお聞きするよりは色んなお話が聞けるかもしれないわ」
こうして、どちらかと言えば奏子の好奇心を満たすために、愛子の縁組の裏どりが始まった。
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