キミと結婚したいんだ
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「お前には、サイドエフェクトがある。それに、自分が信じたことなら、何も俺たちのお墨付きなど必要ない。それなのに、遠征から戻ってきたばかりの俺達を捕まえわざわざ言いに来るのは、背中を押して欲しいからじゃないのか」
鋭い観察眼を持つ風間ならではの推察に、迅はお手上げだった。
「その通りだよ、風間さん。俺、自信ないんだよね」
「だったら、やめたらいいだろ」
「太刀川、お前にはデリカシーというものがないのか」
「だってそうだろ、風間さん」
口に入れたあげせんを飲み込んだ。
「自信が出来たらやるってなら、自信がないうちはやらないって言ってるようなもんだろ。それに、このまま話を勧めたところで、お前だけじゃなくトリモン2号機だって不安になる。それが嫌だから背中を押して欲しいってなら、俺は押さない。そういう奴は、大抵困ったらまた人を頼る」
ぐうの音も出ない言葉だ。
太刀川は、普段ぼーっとしていてランキング戦にしか興味がないように見えるが、そのくせ物事の本質はきちんととらえている。裏表がない性格だから、その口から発せられる言葉には妙に信ぴょう性もあり、それでいて嫌味もないから素直に聞き入れられる。
「……その通りだよ、太刀川さん。俺、自信がないっていうより、怖いんだよね」
空を見上げた。
「今生をかけてあいつを守っていきたいって思うのは本当なんだけど、多分、あいつを失ったら今度こそ俺は壊れちゃうんじゃないかって思うんだ」
「……母親のことか」
静かに頷いた。
「母さんが死んで、最上さんがいなくなって、それでも俺が立って歩いてこられたのは、玉狛の皆がいたからだ。それから風間さんや太刀川さんに出会って、やっと生きてるって心地がしてきてさ。俺はこの町を守ることで自分を生かしてきたつもりだけど、この町に生かされてきてたんだ。ただ、それは特定の誰かじゃなかったから、俺自身客観的に色々見ることが出来たんだよ」
まだまだ花冷えする季節で、日が暮れ始めると肌寒さが増した。
「それ、俺が主眼で見ちゃう人間が絡んだら、俺はこの町のために生きるってことが出来なくなる気がして」
そう呟いた迅の後頭部を、太刀川がはたいた。
「お、いい音がしたな」
「って~! 何するんだよ、太刀川さん!」
「お前はバカかと思ってな」
しれっと言ってのけた。
「この町は、お前だけが守ってるんじゃないし、トリモン2号機だってお前が守ってやらなきゃいけない人間じゃないんだろ?」
「う、うん。少なくとも、トリオンだけで言えば俺より圧倒的に上だ」
「だったら、俺たちなんかじゃなく、トリモン2号機に素直に言えばいい。お前と結婚したいけど、死なれたら立ち直れないくらい怖いってな」
呆気に取られていると、風間が咳ばらいをし口を開いた。
「これは俺の感覚だが、結婚というのは不安を半分にすることができるものじゃないかと思っている。どちらか一方だけが何かをするのは、既に生活として破綻している」
二人の飾らない言葉に、迅は手にしていた婚姻届けをポケットにしまった。
「ありがとう、風間さん、太刀川さん。俺、ちょっと行ってくる」
「ああ」
「フラれるなよ」
「縁起でもないこと言わないでよ、太刀川さん!」
ようやくいつもの笑みを浮かべ、走って行った。
「やれやれ、面倒な奴だ」
「そう言いながらも嬉しそうだな、風間さん。これからランキン……」
「断る」
さっさと踵を返す風間の背を、太刀川も慌てて追いかけた。
ラウンジにいた勇に声をかけ、迅は屋上へとやってきた。
「どうしたの、迅くん」
花冷えの季節。かじかむ指先をこすり合わせる勇の片手を自身のポケットにねじ込んだ。
「ど、どうしたの、急に」
「こうしたかっただけ」
ややぶっきらぼうに言うのが珍しいなと思っていると、迅が真剣な話なんだけど、と前置きをした上でこう言った。
「俺、お前と結婚したいと思ってる」
「……へ」
「真面目なプロポーズに、間の抜けた声で返事するなよ」
「だ、だって、唐突に言われたんだもの、その辺は汲んでほしいッ」
特大のため息をつかれたので、勇も負けじと言い返した。
「真剣に悩んだ結果がこれか」
「ご、ごめんなさい。でも、やっぱり唐突すぎ……」
四の五の言う口を自分のそれで塞いでやる。逃げられないよう腰に手を回すと、やはり驚いて腰が引けたので自分に引き寄せた。
「……俺、本気なんだけど」
腕の中でもがく彼女の耳元で囁くと、スケベ!と言われた。
「変なこと、何も言ってないけど」
「いい声で耳元で囁かないで」
「ふーん」
にやにや笑う迅の腕から何とか逃げようともがいてみたが、腕力の差は否めず、なおも強くなる腕に最後は諦めて身を任せることにした。
「……俺さ、ちょっと怖いんだ」
勇の肩口に顔を埋めた。
「母さんと師匠、めちゃくちゃ大切な人を亡くしたから、これ以上大切な人を失いたくない。今の俺にとって、お前がそうなんだ」
だから、失うことで自分は立ち直れなくなるのではないか――。
迅は、太刀川たちに話した内容をそのまま伝えた。
「……怖いよね。大切な人を失うのって」
勇も、大規模侵攻時に兄以外の家族を全員失っている。その兄も、ブラックトリガーとなり既にこの世にない。
失う怖さと悲しさは、勇自身も嫌と言うほど体験してきたから、迅の気持ちは痛いほど理解出来た。
「わたしは死ななよって言えたらいいんだけど、そんなこと分からないし、無責任に言えることでもないと思ってる」
迅の背中に手を回した。
「でも、だったらなおさら、一秒でも長く迅くんの隣に立っていたいし、背中を預けて欲しいって思ってる。だから、預けられるように鍛えようと思う」
「鍛えるって」
吹き出して笑ったが、勇の言葉が心底嬉しかった。
「相馬勇さん、俺と結婚してください」
そう言うと、迅はネイバーフッドで購入した指輪を取り出し、勇の左薬指に指輪をはめた。
「はい、よろしくお願いします」
勇も、迅の薬指に指輪をはめた。その手が震えていて、勇が顔を上げると、再び迅の腕の中に閉じ込められた。
「じ、迅くん?」
迅はただ何も言わず、勇の温もりを感じていた。
後日。
二人で太刀川と風間を尋ね、改めて婚姻届けの仲介人に名を記して欲しいと願い出た。
すると、おそらく太刀川が言いふらしたのだろう、非番のボーダー隊員たちがどこからともなく現れ、二人の届けは多くのボーダー隊員たちに見守られる形で完成したのだった。
(おわり)
鋭い観察眼を持つ風間ならではの推察に、迅はお手上げだった。
「その通りだよ、風間さん。俺、自信ないんだよね」
「だったら、やめたらいいだろ」
「太刀川、お前にはデリカシーというものがないのか」
「だってそうだろ、風間さん」
口に入れたあげせんを飲み込んだ。
「自信が出来たらやるってなら、自信がないうちはやらないって言ってるようなもんだろ。それに、このまま話を勧めたところで、お前だけじゃなくトリモン2号機だって不安になる。それが嫌だから背中を押して欲しいってなら、俺は押さない。そういう奴は、大抵困ったらまた人を頼る」
ぐうの音も出ない言葉だ。
太刀川は、普段ぼーっとしていてランキング戦にしか興味がないように見えるが、そのくせ物事の本質はきちんととらえている。裏表がない性格だから、その口から発せられる言葉には妙に信ぴょう性もあり、それでいて嫌味もないから素直に聞き入れられる。
「……その通りだよ、太刀川さん。俺、自信がないっていうより、怖いんだよね」
空を見上げた。
「今生をかけてあいつを守っていきたいって思うのは本当なんだけど、多分、あいつを失ったら今度こそ俺は壊れちゃうんじゃないかって思うんだ」
「……母親のことか」
静かに頷いた。
「母さんが死んで、最上さんがいなくなって、それでも俺が立って歩いてこられたのは、玉狛の皆がいたからだ。それから風間さんや太刀川さんに出会って、やっと生きてるって心地がしてきてさ。俺はこの町を守ることで自分を生かしてきたつもりだけど、この町に生かされてきてたんだ。ただ、それは特定の誰かじゃなかったから、俺自身客観的に色々見ることが出来たんだよ」
まだまだ花冷えする季節で、日が暮れ始めると肌寒さが増した。
「それ、俺が主眼で見ちゃう人間が絡んだら、俺はこの町のために生きるってことが出来なくなる気がして」
そう呟いた迅の後頭部を、太刀川がはたいた。
「お、いい音がしたな」
「って~! 何するんだよ、太刀川さん!」
「お前はバカかと思ってな」
しれっと言ってのけた。
「この町は、お前だけが守ってるんじゃないし、トリモン2号機だってお前が守ってやらなきゃいけない人間じゃないんだろ?」
「う、うん。少なくとも、トリオンだけで言えば俺より圧倒的に上だ」
「だったら、俺たちなんかじゃなく、トリモン2号機に素直に言えばいい。お前と結婚したいけど、死なれたら立ち直れないくらい怖いってな」
呆気に取られていると、風間が咳ばらいをし口を開いた。
「これは俺の感覚だが、結婚というのは不安を半分にすることができるものじゃないかと思っている。どちらか一方だけが何かをするのは、既に生活として破綻している」
二人の飾らない言葉に、迅は手にしていた婚姻届けをポケットにしまった。
「ありがとう、風間さん、太刀川さん。俺、ちょっと行ってくる」
「ああ」
「フラれるなよ」
「縁起でもないこと言わないでよ、太刀川さん!」
ようやくいつもの笑みを浮かべ、走って行った。
「やれやれ、面倒な奴だ」
「そう言いながらも嬉しそうだな、風間さん。これからランキン……」
「断る」
さっさと踵を返す風間の背を、太刀川も慌てて追いかけた。
ラウンジにいた勇に声をかけ、迅は屋上へとやってきた。
「どうしたの、迅くん」
花冷えの季節。かじかむ指先をこすり合わせる勇の片手を自身のポケットにねじ込んだ。
「ど、どうしたの、急に」
「こうしたかっただけ」
ややぶっきらぼうに言うのが珍しいなと思っていると、迅が真剣な話なんだけど、と前置きをした上でこう言った。
「俺、お前と結婚したいと思ってる」
「……へ」
「真面目なプロポーズに、間の抜けた声で返事するなよ」
「だ、だって、唐突に言われたんだもの、その辺は汲んでほしいッ」
特大のため息をつかれたので、勇も負けじと言い返した。
「真剣に悩んだ結果がこれか」
「ご、ごめんなさい。でも、やっぱり唐突すぎ……」
四の五の言う口を自分のそれで塞いでやる。逃げられないよう腰に手を回すと、やはり驚いて腰が引けたので自分に引き寄せた。
「……俺、本気なんだけど」
腕の中でもがく彼女の耳元で囁くと、スケベ!と言われた。
「変なこと、何も言ってないけど」
「いい声で耳元で囁かないで」
「ふーん」
にやにや笑う迅の腕から何とか逃げようともがいてみたが、腕力の差は否めず、なおも強くなる腕に最後は諦めて身を任せることにした。
「……俺さ、ちょっと怖いんだ」
勇の肩口に顔を埋めた。
「母さんと師匠、めちゃくちゃ大切な人を亡くしたから、これ以上大切な人を失いたくない。今の俺にとって、お前がそうなんだ」
だから、失うことで自分は立ち直れなくなるのではないか――。
迅は、太刀川たちに話した内容をそのまま伝えた。
「……怖いよね。大切な人を失うのって」
勇も、大規模侵攻時に兄以外の家族を全員失っている。その兄も、ブラックトリガーとなり既にこの世にない。
失う怖さと悲しさは、勇自身も嫌と言うほど体験してきたから、迅の気持ちは痛いほど理解出来た。
「わたしは死ななよって言えたらいいんだけど、そんなこと分からないし、無責任に言えることでもないと思ってる」
迅の背中に手を回した。
「でも、だったらなおさら、一秒でも長く迅くんの隣に立っていたいし、背中を預けて欲しいって思ってる。だから、預けられるように鍛えようと思う」
「鍛えるって」
吹き出して笑ったが、勇の言葉が心底嬉しかった。
「相馬勇さん、俺と結婚してください」
そう言うと、迅はネイバーフッドで購入した指輪を取り出し、勇の左薬指に指輪をはめた。
「はい、よろしくお願いします」
勇も、迅の薬指に指輪をはめた。その手が震えていて、勇が顔を上げると、再び迅の腕の中に閉じ込められた。
「じ、迅くん?」
迅はただ何も言わず、勇の温もりを感じていた。
後日。
二人で太刀川と風間を尋ね、改めて婚姻届けの仲介人に名を記して欲しいと願い出た。
すると、おそらく太刀川が言いふらしたのだろう、非番のボーダー隊員たちがどこからともなく現れ、二人の届けは多くのボーダー隊員たちに見守られる形で完成したのだった。
(おわり)
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