The Lovers
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会長がなんか凄い覚醒を果たして怪盗団の仲間になった日の翌日。
今日から本格的にカネシロパレスの攻略が始まるが、諸々の準備をするのはすっかり蓮に任せ切りでパレスへ行く日も蓮の連絡で決まる。
私もいつでも行けるようにしておこうと思いつつも、昼休みには図書室に赴いていた。
面白そうな本を借りて、図書室を出ると…
「あれ?杏と会長だ」
隣の生徒会室から杏と会長が出て来た所にタイミング良く出会した。
「遊江?図書室で何してたの?」
「本借りてた」
何するって一つしかないと思うけど。杏に苦笑してると、そういえばどうして会長と一緒だったのか気になった。
「二人は?」
聞けば、杏が会長を生徒会室に呼び出して、鴨志田の件や色々と蟠りだった事を話し合ったとスッキリした表情で教えてくれた。
特に杏は誰よりも会長に突っかかってたし、会長も負けじと言い返してた。
話し合って和解出来たみたいだ。
「そっか。良かった…あ、私も会長に謝らないと」
「え?謝る?」
不思議がる会長を真っ直ぐ見つめる。
「“学校の言いなりで動いてるだけの人”とか、会長の置かれた事情も知らずに酷い言葉だったでしょ?」
「気にしないで。私も貴方の立場だったら同じこと言ってたわ。それに、あの時酷い事を言ったのは私が先だったから」
申し訳なさそうに返されて、私は首を振った。
あの時のようなトゲトゲしさはすっかり消えて、私を気遣ってくれる優しさは彼女自身が元々持っていたものだろう。
「それだけじゃない。連れ去られる前に庇ってくれたお礼もちゃんと言ってなかった」
「お礼なんて、巻き込んだ私にすることじゃないわ」
「ううん。会長のした事は凄い事だよ」
確かに無謀だったかもしれない。それでも、私達の誰もあんな行動を取れないだろう。
リスクを考えたら…とか、そんな理由を並べて実際に行き詰まっていたから。
結果良ければ、とも大々的に言えないけど、きっと私達のしている事は結果が全てだから。
過程で何があろうと改心を成功させればいいんだと思う。
「事態も進展したのは、全部会長のお蔭」
「……貴方も杏と同じことを言うのね」
本当の気持ちを言えば、会長は遠慮気味に微笑んだ。
杏が何を言ったのか分からなくて、チラッと杏を窺えば杏は嬉しそうに笑う。
「ねぇ、南条さん。これからは仲良くやっていきましょう?」
「え?」
「“これからは、一緒に乗り越えよう”って言ってくれたでしょう。すごく嬉しかったわ」
「会長…」
「そんな堅い呼び方じゃなくて、貴方も真って呼んで?」
「まこと…」
「そう。これからよろしくね、遊江」
名前を呼んで、呼ばれて、ようやく会長──真と距離が縮まった気がした。
「よし!それじゃあ、放課後は遊江も一緒にクレープね!」
話が纏まった所で杏が朗らかに告げた。
先程、仲良くなった暁に真と一緒に行く約束をしたらしい。
そこに私も混ぜてくれた杏の優しさを受け止めて、私は笑みを浮かべて頷いた。
午後の授業中に、祐介から真の呼び方についてチャットが届いた。
これから共に戦う仲間になるが礼儀を欠く事も出来ないと、祐介らしい理由で微笑ましくなる。
真から呼び捨てでいいと言われ、他のみんなともこれでようやく打ち解けられるだろう。
そして、放課後には杏と真と共にセントラル街に向かった。
一緒に電車に乗り、他愛もない話をして盛り上がり、クレープ屋さんに並んで待って、どれにしようか?分け合おうね、とか……
私が夢見ていた普通の高校生活が目の前にある。
夢見ていた──そう。以前の私はこうして友達と呼べる存在も居なければ、遊んだりなんてした事もない。
感覚がそれを知っている。
最近、少しずつ何かを思い出しそうな気配がして、なんだか怖い。
昨日もあんな事を思い出してしまったし。
「……ぃ、おーい?遊江?」
「っ!?」
呼ばれた声にハッとすれば、目の前に杏の綺麗な顔がドアップであった。
覗き込まれていたらしい。すぐに反応を返せば杏は姿勢を戻してから怪訝そうな目を向けてくる。
「どうしたの?ボーッとしてたよ?」
「ちょっと考え事…」
「考え事?なに?」
ストレートに聞かれて、一瞬言葉に詰まる。
そんな様子を見逃さなかったのは真だった。
「何か気がかりが?もしかして昨日の…?」
真にも覗き込まれるように聞かれて、言うべきか迷う。
少し沈黙していると、既に注文していたらしいクレープが3つ出来上がって、ひとまずそれを受け取ってから店を離れた。
人通りの多いセントラル街だけど、人気の少ない場所に移動してきた。
「それで、どうしたの?私たちには話せない事なら聞かないけど」
気遣ってくれる事がこんなにも嬉しい。
だけど、そこに甘えるのは違う。ちゃんと話さないと。
「真には、まだ教えてなかったから最初から話すね」
長くなるけどいい?と聞けば、貴方のペースで大丈夫と優しく返されて、気持ちが少し楽になった。
単刀直入に記憶喪失の事を話した。
モルガナと出会った時の事、テレパシーの事、たまに思い出す記憶の事、昨日少しだけ鮮明に思い出した記憶の事。
テレパシーの話とかは、凄いね!とか楽しく聞いていたかもしれない。けど、昨日の話をしていく中で、真も杏も表情を険しくさせていくのが分かりやすいくらい分かった。
「──おしまい。…って感じなんだけど」
説明を終えて二人を窺い見れば、複雑な表情をしていた。
「なに、それ!もし、それが本当なら酷くない!?」
先に言葉を発したのは杏だった。
「ねぇ、遊江」
真に真剣な声で呼ばれた。
「貴方を疑うつもりはないのだけど、その記憶って合ってるの?」
「え?」
「間違った記憶だったりしないかしら」
間違った記憶……。
もしそうならどれほど良かったか。
「身体が覚えてた。カネシロの部下に拘束された時とか、あの冷たい目に、酷く恐怖を感じた…知らないのに、知ってた。だから……」
俯きながら答えると、真が短く頷いた。
「ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまって」
肩をそっと撫でられて、恐怖は和らいでいく。
たまにふと思い出す瞬間があるけど、みんなと一緒なら大丈夫な気持ちになる。
「ありがとう、真。杏も怒ってくれてありがとう」
もう大丈夫だと伝えたくて笑みを浮かべれば、二人も安心したように笑みを返してくれた。
「何かあったらすぐに言ってね。私たちは遊江の味方だからね!」
「そうね。一緒に乗り越えましょう?」
こんなに温かい言葉を初めて貰って、目頭が熱くなった。
この記憶は、涙と共に流して、今は考えないようにしよう。
気持ちを入れ替えて、怪盗団としてしっかりやらなければ!
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