The Hierophant②
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「つまり、テレビ番組を作る為に“スポンサー”を募るんです。番組合間の“CM”は……」
都内にあるテレビ局、私は今そのスタジオに居る。社会科見学で訪れ、局の広報さんの説明を受けている真っ只中。
選択制の為、クラス分けはたいしてされてなくて、私はいつものメンバーと一緒に居た。
広報さんの説明に「へぇ……」と分かってるのか曖昧な相槌をする竜司。「知ってる」と頷く蓮。
文字通りの説明しかない広報さんに「そのまんまやな…」と何故か関西弁の杏。「だな」と頷く蓮。
尚も文字通りの説明の広報さんに、「いつまで続くんだ?」と痺れを切らして出てくるモルガナ。「そろそろ限界」と退屈に項垂れる竜司。
そんなみんなの後ろで、出そうになった欠伸を噛み殺していたら…
ドンッ──!
「うぎゅっ!」
更に後ろから体格の良いおじさんが私の隣を通り過ぎ、目の前に居た蓮の肩に思い切りぶつかって前へとスタスタ歩いて行った。
おじさんがぶつかった時に鞄も押されたのかモルガナから変な声が上がる。
「……あれ?」
そして、反動で蓮が反転した為、不思議そうな目と合ってビックリした。
思わず蓮の腕を掴んでもう一度反転させてあげた。
「ありがと」
よく分かってない様子でお礼を言う蓮に苦笑を返す。
さっきのおじさんは、広報さんの前に立って何か文句を言い始めた。
そんなおじさんに竜司が突っかかりそうになるが、広報さんがすぐに謝罪して私達に次の指示を出した為に竜司が飛び出す事はなかった。
蓮にぶつかっといて謝罪もなく偉そうな態度なのが気に食わないらしい。
「君、テレビ出てみたくない?」
現場体験と言われ、それぞれが散開していく中で、スタッフらしき男性が杏に声をかけた。
は?と聞き返す杏に男性は、じろりと杏を上から下まで舐めるように視線を流した。
「君、スタイルすっけぇ良いからさぁ」
「や、いま見学中なんで…」
下心丸出しの笑い声に杏は冷めた眼差しと口調で返す。
けど、男性は興味が出たら連絡してと気にしていない様子だ。
そんな男性に竜司も文句めいて呟くが、男性にカメラアシスタントの仕事を雑に頼まれて蓮と竜司は駆り出される。
私と杏も他のスタッフに呼ばれてスタジオ内の仕事を手伝う事になった。
慣れない仕事を真面目にこなして、そのまま現地解散となる。
廊下を杏と一緒に歩いていると、蓮と竜司を見つけた。
「───便所行ってもスッキリしねえぞ、これぇ!」
なんて聞こえて杏と一緒に呆れてため息をついた。
「声デカいから」
二人に合流しながら杏が窘める。
だけど、気持ちは分かると視線を落とした。
杏もずっと男性スタッフに色目使われてたから気疲れしたのだろう。
「お疲れ様」
杏と竜司を労うと、竜司は肩を落とす。
「こんなのが明日もあんのかよ…」
「サボるんじゃねえぞ、リュージ」
「わあってるよ、“いい子ちゃん”だろ?怪盗団もラクじゃねーな」
面倒でも学校行事には真面目に出ておく。目立った行動を取らず、大人しく過ごす為だ。
「日頃あんま来ない方向来たし、気晴らしにどっか寄って帰んない?」
気持ちを切り替えて、杏が提案してくる。
「ワガハイ、あそこがいいぜ!来るとき見えた《デカいパンケーキ》みたいな場所!」
蓮の背中からモルガナが言うけど、パンケーキってなんだ?
例えが食べ物なのがモルガナらしいけど。
「なんだかオイシそう!何なんだアレ?」
「あー…《ドームタウン》か?丸いアレは野球場だな。あと周りは遊園地」
「ビル街の真ん中なのに、結構ガチな絶叫マシーンとかあるよね」
竜司と杏の説明に、私も納得した。
ドーム…あれは確かにパンケーキに見えなくもない。
「よし…挑戦だ!ワガハイの男気見せてやる!」
「別に絶叫マシーン乗れたからって男気感じないけどね」
ねっ、と同意を求めてきた杏に大きく頷く。
男気ってそういう所じゃないと思うよ、モルガナ。
「その前に、ネコ乗れねえだろ」
「そうなの…?」
モルガナもしかして、絶叫マシーンが何かよく分かってない?
「カバンに閉じこもってりゃバレねえかもだが、ぜってーゲロ酔いすんぜ?」
私もそう思う。やめといた方がいい。
「けど、行ってみっか。ドームタウン!なんか行きたくなってきたわ!」
竜司の言葉に杏も「ジェットコースターのお腹になった!」と同意する。
モルガナはゲロ酔いが嫌そうだったが、それなら私もと同じように同意しようと口を開いたその時だった。
「失礼」
廊下を通りかかった誰かが、私達に声をかけてきた。
「その服、秀尽の学生さん、ですよね?」
大人っぽい雰囲気の恐らくは同年代だろうその人は、綺麗とカッコイイをないまぜにしたような容貌の男性だった。
「なに?」
竜司のいつものようなぶっきらぼうな態度にも、彼は微笑みを浮かべて此方に歩み寄って来る。
「たまたま近くを通ったんで、挨拶でもと思って。明日、一緒に出演するから」
どこかの制服だろう身なりだから、学生なのは確か。
それに、なんとなく見た事があるような感覚から、もしかしたらタレントさんなのかな?
「ああ僕、明智吾郎っていいます」
笑顔で名乗ってくれたけど、その名前にピンとは来なかった。
だけど、軽く首を傾げている杏は引っかかってるみたいだ。
「出演?お前、有名人なの?」
「何回かテレビに出させてもらっただけだよ」
という事は、タレントというわけでもなさそうだ。
そんな彼は、ポケットからスマホを取り出して画面を見ると、ほんの僅かに表情を崩した。
「ごめん、ほんとに通りかかっただけなんだ。もう行かないと。明日の打ち合わせなんだ」
時間を確認したらしいスマホをしまうと、彼は通りかかった廊下へ戻ろうと足を踏み出した。
だけど、すぐに止まって振り返ってくる。
「これからケーキ食べに行くのかい?」
僕もお腹空いたよ…と続けるけど、急になんの話だろうか?
同じ事を思ったらしい蓮達と顔を見合わせて首を傾げた。
竜司がその疑問を代表して投げかければ、彼はあれ?と怪訝がる。
「あれ?違ったかな?《美味しそうなパンケーキ》とか聞こえたから」
────!?
「まあ、いいや。じゃあ、明日スタジオで」
そう言い残して彼は今度こそ立ち去っていく。
「あいつ、駆け出しの芸人かなんかだな。あの髪型変えねえと人気でなさそうじゃね?」
「なんもわかってない…」
彼の長めの髪を茶化した竜司の発言に杏は呆れて首を振る。
杏は、彼の事がピンと来ていてどんな人なのか分かってるらしい。
「まいいや、どうせ明日会うんだしよ」
話題を戻して、竜司が行こうぜと促すから私達はドームタウンへと向かう為に廊下を歩き出す。
モルガナが情けない声を上げるが、私はそれよりも気になった事があった。
ドームタウンへ着いて、ジェットコースターや他の乗り物を楽しんでいる時でさえ頭をよぎるそれ。
《美味しそうなパンケーキ》とか聞こえたから──。
そんな事、有り得るはずがない。
だって…《パンケーキ》とあの時発言したのは、モルガナ“だけ”だったのだから。
それなのにどうして彼──明智吾郎は、その言葉が聞こえたなんて言えたのだろう?
常人の耳には、モルガナの言葉は猫の鳴き声にしか聞こえない。
言語として理解出来るのは、異世界で実際にモルガナが喋ってる所を見聞きしないとではないのか?
それとも動物の声が分かるとか、特殊な人だったとでもいうのだろうか?
彼は一体──何者?
みんなと一緒に遊んでも、家に帰ってベッドにもぐっても、頭を占めるのはそんな疑問ばかりだった。
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