The High Priestess②
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翌5月6日。朝。
一人の部屋で目覚めた私は、ベッドから出ると身支度を整えた。
晴れた良い朝、家を出て行く。他の住人の何人かと同じにマンションを出て、同じ方向──駅へ向かった。
電車を乗り継ぎ、とある場所に着く。
以前一度だけ訪れた場所を同じルートで一つの部屋へ向かって、中に入ると何人もの人が此方を窺った。
その内の一人に話しかける。
「おはようございます」
「おはよう。迷わなかったか?」
「はい」
挨拶を交わして、その人から必要な物を受け取って、時間になってから一緒に違う場所へ移動する。
そして、その人に続いて部屋に入った。
そこには同じ服装の若い男女がたくさんいて、入ってきた人と後に続く私に気付いて前を向き直る。
「静かにしろー。今日は転入生を紹介する」
言うやザワつき始める室内。
「転入生だって」「急だね」「へぇ、女の子…そこそこ可愛いかも?」
なんて喋り始めた男女の中に、一人目立つ金髪が居た。
俄かに騒がしくなった周囲に机に伏していた頭をゆっくりと上げ、前方を何事かと見てくる。
「自己紹介を」
「はい。えっと、なんじょ───」
「はぁああ!?ユエーっ!?」
「五月蝿いぞ、坂本!」
名乗る前に金髪の彼が驚愕して大声を上げた。
隣に立つ男性──担任の先生が嗜める中、私は遮られた自己紹介を続けた。
「南条遊江です」
「な、なんじょーって……」
「おはよう、竜司」
「おう、おはよ…じゃなくて!」
呆気に取られる金髪の彼──竜司に手を振れば、室内の男女──生徒達のざわめきが大きくなった。
ここは、秀尽学園高校。同じ制服を着て今日から私もこの学校の生徒となる。
「あの子、坂本の知り合い?」「狙おうと思ったけどパスだな」「不良仲間ってこと?」
席へ着く中、周りからひそひそと聞こえてくるのは、竜司との事。私が竜司と知り合いだったらなんだというのかよく分からないが、休み時間に入っても私に話しかけてくるような人は居なかった。
「なんだよお前!転入って!」
クラスでは彼だけが私の席に駆け寄って話しかけてくれる。
「そのままだよ。改めて、南条遊江です。今日からよろしくね」
「大丈夫ってそういうことかよ……まいいや。よろしくな、遊江」
呆れつつ笑った竜司に笑みを返す。
そんな私達のやり取りを遠巻きにクラスメイト達は見ていた。
そして、昼休み。
「転入するなら昨日言ってくれればよかったじゃん!」
「驚かせたくて」
蓮と杏も呼んで、階段脇の廊下で再会を果たす。
昨日言ってた大丈夫の意味もみんな理解して、改めて事情を説明する。
それは、現実世界に来て家を探し当てた時、家探しで見つけたのはスマホだけではなかった事。自分名義の口座手帳や生活に必要なアレコレ。そして、その中に一つの書類も見つけた。
それが、この秀尽学園高校へ転入する書類だったのだ。
5月からの転入で、その前に一度だけこの学校を訪れていた。みんなの目を盗んで職員室を訪れ、転入クラスの担任と挨拶を交わしていた。
「制服似合ってる」
「ふふ、ありがとう」
蓮にポツリと言われて嬉しさに頬が緩んだ。
密かに思ってた。私もみんなと同じ制服を着たいと。
仲間の証みたいなものが欲しいと。
「よし!ユエも揃ったことだし、集まるのも楽になったな」
蓮の鞄から顔を見せたモルガナ。学校内でも鞄の中なんだ?だから蓮、ずっと鞄背負ってたんだ。
可笑しさに忍んで笑っていると、教室から女子が怪盗団の事を話しながら廊下に出てきた。
信じているような信じていないような会話が聞こえ、少し複雑な心境に陥る。信じてほしいと思っても、その術がないもどかしさ。
そんな思いを抱きながら、午後の授業を受けた。
放課後、竜司と一緒に蓮と杏のクラスのD組へと向かう。
人も疎らのD組の窓際の席に蓮はいた。誰かと話してるみたいだ。
「あれ、三島だ」
「例のバレー部の?」
前方の扉からこっそりと窺って竜司に教えてもらう。
パレスで見た彼で、鴨志田から酷い体罰を受けていた被害者。
そんな三島君が蓮にスマホを見せて怪盗お願いチャンネルを作ったのが自分だと話して聞かせた。
どうやら三島君は、怪盗団の一人が蓮であると確信しているみたいだ。
けど、それを材料に脅すというわけでもなく純粋に応援したいと思っていてくれてるらしい事をこっそり聞いていた。
話し終えた三島君が立ち去るのと入れ替えに竜司と蓮の下へ向かえば教室の端で離れていた杏とも合流する。
「聞いてたぜ、今の…」
「あのサイト、三島くんのだったんだ」
「そうらしい」
蓮の下に集まって声があまり大きくならないように注意して話す。
三島君にバレているかもしれないが、あの様子だと大丈夫そうだと判断し、彼の事は好きにさせておく。
怪盗お願いチャンネルも上手く利用出来れば、パレスを持たない悪者も改心させられる。それは良い事だ。
「ともかく《大物探し》だな」
「それが見つかるまでは準備ね」
装備などもしっかり準備しておく必要がある。
また蓮に任せ切りにならないように気を付けなくちゃ。
「って、あー!!」
気合いを入れていたら、不意に竜司が大声を上げたから驚いた。
「何よ急に!」
「俺ら………じき試験じゃね!?」
重大な何かを思い出したように竜司が唖然とする。
試験…とは?
「……その様子じゃ今回も酷そうね」
「お、お前だって英語ばっかだろ!?」
「何もできないよりいいじゃん!」
二人のやり取りに私こそ唖然とする。
「来週、試験だ」
私が固まっている事に気付いた蓮が苦笑いを浮かべて教えてくれる。
「そ、う…なんだ…試験…」
「うわー、転入早々試験って…ついてねー」
「は、範囲を教えてください…」
「遊江って勉強の方は?」
「そこそこだと思う、よ?」
杏に答えて、私は小さく溜息を吐いた。
竜司の言う通り、少しついてない。が、あるのならやらなきゃだ。
大物探しは勿論だが、試験勉強が目下の課題だった。
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