The Magician
Name change
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「マジねーわ……好意を受けたら好意で返すのが礼儀だろ」
「まぁね」
「それをアイツら、ワガハイがこんな姿だからってバカにしやがって」
「別にバカにはしてないと思うけど」
「ユエ!オマエもあの時もっと言ってたら良かったんだよ!」
怒りの矛先が此方に変わり、私は苦笑いを浮かべた。
彼ら──雨宮君と坂本君が現実世界へと戻ってからモルガナはずっとこんな感じで怒っていた。
「無理強いは良くないでしょ?」
「ユエも見ただろ。アイツの力」
アイツと指すのは、恐らく雨宮君。初めて出会った時からモルガナは彼に思う所があったから、彼の手助けが欲しいんだろう。
「確かに、力強いペルソナではあったけど…」
「あの力があれば、《メメントス》の奥にだって行けるはずだ」
《メメントス》──それは、簡単に言うなら大衆全員のパレス。
肥大化して歪んだ強い欲望を持った者が形成させるのがパレスだとすると、メメントスはまだパレスには満たない者達の欲望が渦巻く巣窟といったところだ。
元は人間だったはずと話すモルガナの記憶は、そのメメントスに行けば戻るかもしれないと漠然と感じているそうだ。
メメントスもパレスも一人二人では深入りするのは戦力的にも厳しい。だから、モルガナは一人でも多くの協力者が欲しいと私にも言ってきていた。
私自身もこのパレスで目覚めて、それ以前の記憶が無いからモルガナの提案を拒否する理由も見当たらないし、一緒に行動する事で私の記憶も戻るかもしれないと思った。
「それになにより……」
ポツリとしたモルガナの声に思考を戻して、モルガナを見てみる。
「ワガハイを舐めてるあの態度が気に入らねー!一言言ってやらんとおさまんねぇ!」
「あー…」
そっちが本音か。
「だからユエ!早く出口を見つけるぞ!」
「はーい」
こんな会話をしながらも、私達は城の外の周辺をウロウロとしていた。
どこかに現実世界へと出られる場所があるだろうとモルガナが言ったから。
そして、あちらこちらと探し回った結果、なんとか見つけられた現実世界への出口にして入口。
お互いに見合って頷いてから、えいっとそこに飛び込んだ。
認知世界との境を超えただろう瞬間、少しフラッと目眩のような感覚に襲われ、思わずその場にへたり込んでしまう。
「大丈夫か?ユエ」
「ん。ちょっとフラついただけ…」
モルガナの声に項垂れてた頭を上げてそちらを見やった。
「無理すんなよ?立てるか?」
「ありがとう。モルガ、ナ…?」
モルガナは、見た目二頭身の猫のぬいぐるみ。…のはず。
なんだけど、目の前にいてモルガナの声で喋っているのは、猫。
「え…っと、モルガナ?」
「なんだ?」
呼べば返事をする黒い猫。青い瞳と黄色いスカーフを首に巻く、猫そのもの。
「あの……猫」
「ネコじゃねー!オマエまで何言ってんの!?」
モルガナを指差して指摘してもモルガナは怒るだけ。
どういう事なのかよく分からないまま辺りを見回せば、ここもよく分からない路地のような場所だった。
現実世界へ出られたと確信し、慌ててモルガナを抱きかかえ、路地を走り出す。
抱える瞬間にモルガナから「にゃっ!?」と声が上がったが、気にしてる場合じゃない。
すぐに路地を抜ければ、少し広い通りに出た。交通量もそこそこある大通りだろうか。
取りあえず近くにあったお店の窓ガラスの前まで向かった。
昼間だからあまりハッキリとはしなかったが、うっすらとでも私達の姿を反射して映し出してくれる。
「これ…モルガナと私」
腕に抱いたモルガナにも窓ガラスを見てもらうように抱き直せば、モルガナはそこをみて固まった。
私も自分自身の姿を初めて見たけど、そうこれが私ってすぐに分かった。
どうやら自分の顔は忘れてないみたいで安堵する。
格好は、パレス内で着てたチャイナな感じは消えていて、淡いブルーのワンピースを身に纏っていた。
「……な、なな…なんじゃこりゃあ!?」
モルガナから盛大な叫声が飛び出す。
その瞬間、道行く人達がチラチラと此方を見てきたのが分かった。
「ワガハイが…ネコ……」
ショックを受けているモルガナ。
腕の中で項垂れてしまった。
そんな私達の下に…
「ねぇ、お姉ちゃん。ネコさんどうしたの?」
小さな女の子が歩み寄ってきた。
ハッとして周囲を気にすれば、チラチラと見てくる人達の中に何やらヒソヒソと話してる人達もいた。
そして、心配そうに寄ってきた女の子。後ろに母親らしき女性が慌ててこちらに駆けてくる姿が見える。
モルガナ、普通に喋ってたから怪訝に思って?
「すごくニャーニャーないてるよ?」
「………え?ニャーニャー?」
「うん。ずっとニャーっていってる。どこかいたいの?」
「………そ、そうなの。この子具合が悪くて、病院に連れていこうと思ってて」
「びょーいん……そっか。はやく元気になるといいね」
「う、うん。ありがとう」
にこりと笑った女の子を母親だろう女性が慌てて引っ張って連れて行く。
あ、これもしかして不審者と思われてた感じかな?
「おい、ユエ」
腕の中から落ち着いた声がした。
「ご、ごめん。つい」
猫扱いして怒ってると思って謝ると、モルガナはそうじゃねぇと首を振る。
「どうやらワガハイの声は他の奴らには猫の鳴き声にしか聴こえないみたいだぜ」
「みたいだね。認知の影響かな?」
「恐らくな」
モルガナとずっと会話していた私は、現実世界に出て猫の姿になろうがモルガナの声はモルガナの声として認識出来た。だから、言葉も解る。
でも、大抵は猫は喋るものではないと思っているだろうから、モルガナの本来の姿を知らない見た事ない人には猫の鳴き声としか聴こえない。
全て、認知の産物だ。
「この際姿は後回しだ。まずはあいつら捜さなきゃな」
「うん。…………えっと」
「…………ココ…どこだよ」
改めて冷静になってみると、私達は一体どこに出てきたのだろう?
辺りをよーく観察してみると、なんとなく見覚えがあるような気もしてきた。
「私…ここ、知ってる…?」
「!…記憶か?」
「………たぶん。家、あるかも」
「よし。それなら先にユエの記憶を辿ってみようぜ」
「いいの?」
「何遠慮してんだよ。ワガハイとユエの仲だろ?」
見上げてくる猫のその瞳は、まさしくモルガナそのもので私は小さく微笑んだ。
そして、気の向くままに街中を歩き出した。
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