ネゴトコンシール
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昨日は、試合だった。
白熱してた。興奮した。楽しかった。
勝ったからスゴく気持ちよくて、ふわふわした気分で家に帰ってきて、それからぐっすりと眠りに落ちた。
そう、それはちゃんと覚えてる。
「……………………」
覚えてるんだけど、あれ?
なんだこれ?
朝日が漏れるカーテン。タオルケットだけのベッド。
横たわる私。
目の前に…
「ん……」
くぐもった声を漏らす鉄朗。
寝返りを打ってこっちに向いた。
あれ?何これ?
なんで鉄朗が私のベッドで一緒に寝てるの?
いや違う!よく見ればここ鉄朗の部屋!
私か!なんで私がか!
「……詩庵」
「!!」
ぽそっと呼ばれてビクついてみるが、鉄朗の目蓋はくっついたまま。
すぐに寝言だと気付いて安堵したのも束の間、寝言でまで私の名前を呼ばれて嬉しさと恥ずかしさが込み上げる。
一体どんな夢見てくれちゃってるの?
「…大人しくしてなさい…」
「………………………」
いやマジでどんな夢見てんの。
とまあ、起きる気配のない鉄朗は置いといて、今の状況を整理しよう。
えっと、まず昨日鉄朗たちの試合を観て、接戦の末の勝利でなんか異様にテンションが上がって…。
はしゃぎ過ぎた結果目眩に倒れた。
鉄朗におんぶされて家まで帰ったけど、運悪く両親は不在。
取りあえず鉄朗の家に保護されて、試合疲れですぐに寝た鉄朗をしばらくイタズラしようと眺めていたけど、私も睡魔に負けて鉄朗の隣にダイブ。
今に至る、ってところかな。
うん。全部思い出した。
夜に一度目覚めた鉄朗が私の寝顔に欲情して、私を襲った。
とかエロい展開も何もなく、同じ屋根の下にいる鉄朗の親御さんに顔見せられないなんて展開もなく!
ただただ添い寝しただけ。
ああ、もう!せっかくのチャンスだったのに!
何やってるかな私!
「……静かに、しなさい…」
また寝言。
何?私煩くでもしてるの?
「静かにしないと……その口塞ぐぞ…」
…え?何で?
まさか自分の口で塞ごうとか?
ヤダ、鉄朗ったらそんなイヤらしい夢見て…
「…ガムテープ…」
「……………」
アンタの口をそれで塞いであげようか!
なんなの!もっと色気ある夢見れないの?
「……けんまも…」
「てつろーくんは研磨が大好きなんですねー」
寝てもなお研磨の名前が出ることに嫉妬する。
まぁ、研磨は私も好きだからいいけどさ。
横になったまま鉄朗の寝顔を観察してて、ふと違和感を覚えた。
なんだろう?何かが違う?
すよすよ寝言漏らして眠る鉄朗の顔は間抜けに整っていて、長い手足はだらしなく投げ出されてて…
「…………あ」
そうか。髪だ。
枕で挟んで寝ると出来るというあのトサカな寝癖がないんだ。
鉄朗の独特な寝方が成せる技らしいけど、私が隣で寝てたからいつもと勝手が違ったのかも。
「……さらさら」
頬にかかる髪をそっと払って、そのまま髪に触れてみた。
思った以上に柔らかな髪質に驚いた。
撫でるように触れる手が止められないくらい、イイ。
今までこんな風に鉄朗に触ったことがなかったことに気付いて、フツフツと沸き上がるイタズラ心。
夜は睡魔に負けて出来なかったから今がチャンス!
髪に触れた手でそのまま頬をつつく。
軽く身動ぎしただけで起きる気配はなかった。
なので続行。
つついた指を下にずらしていった。
Tシャツから覗く鎖骨の綺麗なことといったら。
肌に触れても別に手触りが良いとかはないけど、伝わる温もりはスゴく安心する。
「…やめなさい」
「?」
鉄朗の声に視線を顔に向けてみたけど、別に起きているわけじゃないみたい。
まだ寝言。というか、こんなに触っても起きないなんて…
「無防備もいいとこだよ、てつろー」
「やめないと…襲うぞ…」
「今襲われかけてるのはてつろーなんだけどな」
ハッキリとした寝言に構わず、鉄朗のお腹に手を添えた。
Tシャツ捲れてたのが悪い。
スポーツ男子のその割れた腹筋をなぞる。
「お肉のない体…ムカつく」
体脂肪率が一桁になったりならなかったりの引き締まったそれを押してみても、ぷにぷになんてしてない。
「全然違う」
自分のお腹に触れてみると、悲しくなってくる。
太ってるわけじゃない…と思う。けど、減らしたいと思うのは乙女の証。
特に意識していたつもりもなく、腹筋を下へとなぞった。
腰にかかる短パンまで指を落としていく。
「私も鍛えようかな…」
なんて呟いた時だった。
ガシッ!と、その手が掴まれた。
「っ!?」
ビックリして声も出せずにいると、
グイッと引っ張られた。
「お前際どすぎ」
ハッキリとした寝言……ではなくて、私に向けて言った言葉。
胸に収まる形で見上げれば、ジトッとした眼が私を見下ろしていた。
「あ、おはようてつろー」
「おはよう…じゃねーわ!」
怒鳴られたと思ったら、次の瞬間には私は天井を見上げていた。
「なんなのお前。そんなに襲われたいの?」
私を組み敷いて跨がる鉄朗を見て、私はドキッとした。
寝癖が付いていない髪が鉄朗の顔にかかっていて、普段より幼く見える顔立ちなのに寝起きの不機嫌さがもたらす色気も相俟って、ドキドキが加速する。
「あれ?さっきの寝言じゃなかったんだ?」
「あんだけ触ってりゃ起きるデショ」
「寝たフリとかズルい」
「ズルいの前に自分のしでかしたコトを反省しなさい!」
肘をベッドにつけて距離を一気に縮められる。
近付いた顔はいつもの鉄朗だった。
「男のベッドに入るってどーゆーコトか分かってるのか?」
「…さぁ?よく分かんない」
「何?そう言えば手取り教えてくれると思ってんの?」
髪の間から見える鋭い眼差しも、もういつものモノ。
私をあやす、年上ぶった眼。
「教えてほしいって言ったって教えてくれないよね、てつろーは」
ふいっと顔を逸らす。
こんな子供じみた行動でも鉄朗に構ってもらいたいなんて…
「………てか今何時?」
体から鉄朗の温もりが遠ざかる。
ベッドの縁に腰かけた鉄朗が時計を確認する姿をジト目で見つめた。
「据え膳食わぬは男の恥だよ、てつろー」
「………」
ピクッと反応して、ゆっくりと振り返った鉄朗は、そのまま私の方へと体を倒してきた。
そして、私の……
「ぐえっ…」
お腹に頭をダイブさせてきた。
「そんな色気ない声出すヤツは据え膳じゃありませーん」
「今のはてつろーが悪いよ!」
「いやいや。そこはグッとこらえて可愛く悲鳴をあげるトコだ」
「ぐぬぬ…もう一回!やり直し!」
「残念でした~。チャンスがそう何度もあると思うなよ」
舌を突き出して体を起こした鉄朗は、そのままベッドをも出て立ち上がった。
これっぽっちも相手にされてないんだと思うと、悲しいとか寂しいとかそんな感情より悔しさが勝って腹が立つ。
いつまでたっても妹のような扱いから抜け出さない。
「チャンスくれないならいいよーだ。研磨で練習してやるから」
悔し紛れに鉄朗に背を向けるように寝返りを打った。
すると…
「そんなコト言うヤツにはオシオキが必要だな」
なんて言って、私に覆い被さ───
「それやったら怒るぞ」
ガチャ……バタン!
「………………」
さっきの私の妄想。
甘い言葉も行動もなく、もう怒った口調で部屋を出て行った。
ヤキモチは妬いてくれるみたいで、一応は彼女としてちゃんと認識してることに安心はする。
キスはしてくれるし、愛情だってくれる。
それに対して不満なんてない。
けど、やっぱり身体も満たしたくなってくるのがお年頃の女の子だし。
「………………ちゃんと捕まえてないと逃げちゃうよ」
なんて、思ってもないことを口にしながら、鉄朗の匂いに包まれてまた眠りについた。
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