ミセカケマイタイプ
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「やっぱり一年君かな。可愛いし」
「そこは先輩でしょ!」
「ね、ほらあのリ、リブロース…じゃなくて」
「リベロね」
捕球のスペシャリストが食べ物になった……。
「そう!あのリベロの先輩の男らしさといったら!」
「でも、落ち着きあるあの先輩も地味にイイよね」
放課後の教室。部活休みの鉄朗を一人で待ってるとクラスメートがやって来た。
最初は確か小テストの話してたはずだけど、今は恋バナ…というか誰がカッコイイかって話になってる。
「詩庵は?…ってあんたは主将だよねぇ?」
にやにやと聞いてくる友達に眉根を寄せた。
からかう気満々な顔で何を言わせたいのか、全く。
「私はもちろんセッター」
「そこは主将って言えよ!」
「その手には乗りませんー。私が好きなのはセッターなんですぅ」
「え、でもセッターって………」
一人が何かに気付いたように呟けば、他のみんなも「あぁ」と頷いた。
「なるほどねぇ。うんうん、セッターの彼も確かに捨てがたい」
「詩庵も罪な女だよねぇ」
「大げさだから。普通に好きなだけだし」
なんてワイワイきゃあきゃあお喋りしていると…
「詩庵ー。帰るぞー」
戸口から声がした。
見れは鉄朗が立っている。
「あ、旦那のお迎えだね」
「いいなぁ、私もあんなカッコイイ先輩捕まえたい」
「幼なじみとか羨ましすぎでしょ」
なんて様々な声が上がる中、鞄を持って席を立つ。
そして戸口へ向かう途中、振り向いて…
「ごめんあそばせ」
スカートの端を摘まんで膝を折った。
何それ!貴族か!なんて笑い声が高々に響く中、教室を後にした。
「まだ話してたかった?」
「てつろー来るまでって言ってたし」
廊下に出ると鉄朗と並んで歩き出す。
「にしても、女子は好きだねぇ。ああいうトーク」
「ああいうって、もしかして聞いてた?」
「何?聞かれちゃマズかった?」
こっちもニヤニヤ………?
鉄朗を窺い見ると、明らかにニヤつく場面なのにどことなく冷たい眼差しが見下ろしていた。
「いや?どこから聞いてたのかなぁって」
「一年が可愛いとか辺りから?」
そう告げた鉄朗の眼が僅かに細くなる。
その眼嫌い。
あの話丸々聞かれてたってことか。
てか、それならさっさと声かければいいのに。
「なんで声かけなかったの?」
「楽しそうなの邪魔しちゃワリーなって思って?」
「ふーん」
そんな気遣いあったらさっきも声かけてなかったでしょ。
なんでバレる嘘なんて吐く必要が?
「詩庵、お前………いやいいや」
「珍しいね。てつろーが言い淀むなんて」
「別に。ナンデモネ」
「なんでもないならその眼やめてよ」
「どの眼?」
「その睨んでくる感じの!」
「甘んじて受けろ」
「はぁ?やだよ。なんで受けなきゃなんないの」
「自分の胸に手を宛てて考えてネ」
意味分かんない。どうしちゃったの?鉄朗。
取り合えず手を宛ててみるけども。
「身に覚えがありません」
「お前、研磨が好きなの?」
「は?……好きだけど」
「あっそ」
? ? ?
え?
本当になんなの?
今の質問の意図は?正解は?
なんか急激に不機嫌を露にした鉄朗がスタスタと廊下を歩き出したから、足早に追いかけた。
「てつろー速い!なんなの!」
「なんなのはこっちのセリフだから」
はぁ?本当意味が分からない。
なんでそんな不機嫌なの。
「お前さ、俺がさっきの会話聞いてたって分かってるだろ」
「分かってるけど…だからそれがなんだって──」
「じゃあなんでそんな平然としてるんだよ」
「は?…さっきの会話なんてただのお喋りでしょ?」
「ただのお喋りだろうが、気に喰わねぇの」
「………?」
「お前、セッターが好きって言ってただろうが」
ああ。それが引っ掛かってたのね。
でも、鉄朗が怒る理由なんて………あ、そういうことか。
「…うん。言ったね」
「詩庵ちゃんは本っ当に研磨が好きなんですね!」
「………ふふ」
「オイこら、何笑ってんだ」
だからさっき研磨が好きか聞いてきたわけね。
鉄朗ってたまーにそういう所あるよね。
「主将じゃなくてセッターを選んだのが嫌だったんだね?てつろーは」
「んなの当たり前デショ。俺より研磨取るとか…」
「違うよてつろー」
盛大な勘違いをしてくれちゃった鉄朗に、私は鞄を漁って一冊の漫画を取り出した。
「言い訳はいらん……って何それ」
「バレーの漫画。さっきのはコレに出てくるキャラの話をしてただけ」
「………え?」
不機嫌顔がポカンと呆けたらその手に漫画を持たせた。
「面白いからてつろーも読んでみなよ」
「え…何?マンガ?…ってコトは俺つまり…」
「勘違いしたってことだねぇ。私が言ったセッターは研磨のことじゃないし、このセッター、てつろーみたいなんだよ」
ズバッと言ってあげれば、鉄朗が顔を抑えてその場に蹲った。
見える耳が少し赤くなってるのが可愛かった。
「穴があったら入りたい」
「どうぞ」
ちょうど靴箱の前まで来ていたから、私の靴箱を示してみた。
「小さすぎるっつの」
「あはは…」
「ったく………変な態度取って悪かったな」
「うん。許してあげないけどね。怖い眼されたし」
「ゴメン。大人げなかったわマジで」
「てつろーが私を女として見てくれるなら許す」
「お前まだそんなコト言ってんの?」
「いつまでも言うよ」
「言った言葉には責任持てよ?」
鉄朗に笑顔を向ければ、鉄朗は呆れたように立ち上がった。
靴を取り替える為に伸ばした手がそっと掴まれる。
そして、グイッと身体の向きを変えられたかと思うと靴箱に押さえ付けられた。
両手を絡むように握りながら鉄朗が上体を屈める。
近付く端整なカオに自分の顔が熱を帯びていくのが分かる。
ただの幼なじみだった人が恋人に変わってまだ日が浅い。
絡む指、縮まる距離、見つめてくる眼差し…
どれも、知らない男の人みたいで緊張してしまう。
「さっきのお詫びな」
そう言うと顔がゆっくりと近付き…
ちゅ──とおでこにキスされた。
「え?」
それだけ?
おでこにキスとか舐めてんの?
「子供扱いやめて」
「はいはい。女扱いな」
軽く睨むと鉄朗の手が解け、すかさず顎に添えられた。
クッと持ち上げられたかと思うと、視界が鉄朗一色に覆われた。
今度はちゃんとキスされる。
鉄朗の温もりにそっと眼を閉じる。
すぐに離れるだろうなって思っていると…
「っん!?……ふ…んんっ…」
深くなったキスに唇の隙間から舌が滑り込んできた。
角度を変えながら執拗に蹂躙される。
逃げを打つ舌を絡み取られ、なぶられる。
思考が止まる。何がなんだか分からない。
ただ身体から力が抜けていくのだけが分かる。
「ん……はっ…」
やっと解放されたけど、すっかり力の抜けた身体はその場に座ることを余儀なくされた。
呼吸を取り戻して、鉄朗を見上げる。
ニタリと笑う顔で見下ろされて、睨みつけてやった。
「どうしたのかなぁ?女扱いしろって言ったのはそっちデショー?」
「エロイことしろとまでは言ってない!」
「こんなのエロイうちに入んねぇよ」
「フーッ!」
「威嚇ってネコか…………?」
からかうように私を見下ろしていた鉄朗が、ふと何かに気付いて廊下の方へと視線を向けた。
「………あらら」
そんな声が気になって鉄朗と同じ方を見てみると、
「──ッ!!!!」
声も出せなかった。
「ど~も~。詩庵がいつもお世話になってますー」
「え…あ、いえ!はい!」
暢気な鉄朗に声をかけられて、廊下からこっそりとこっちを見ていたクラスメートがどぎまぎと返事する。
「ご、ゴメン詩庵…邪魔する気はなかったんだけど…」
「もうとっくに帰ったと思ってたから…」
気まずげに謝ってくるあたり、今の見られてたってことだよね?
「穴があったら入りたい」
「入れば?」
「入れるワケなかろうが!」
さっき私がしたように靴箱を指差されて、怒鳴り散らす。
その勢いのまま立ち上がり、少し震える手で靴を替えた。
「みんなバイバイ!今のは抹消して!」
そう吐き捨てて玄関を飛び出した。
勿論すぐに鉄朗が追ってくるけど、構わず走り続けた。
今なら羞恥心で死ねそう。
明日からどんな顔して教室入ればいいの!
「てつろーのぶわぁーか!」
「ヒッド。詩庵のお願い聞いてやっただけなのにー」
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