オヨグロマンチシズム
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今日は、部活が休みだから久々にデートをした。
土曜日。天気、快晴。凄く暑い。
「でも、ココは涼しいからいいよね」
「急に喋り出して、“でも”はオカシイぞ?詩庵ちゃん」
隣に並ぶ鉄朗が私の言葉に突っ込んでくるけど、気にしなかった。
ポツリと喋って、また沈黙。私も鉄朗もすぐに目の前の光景に夢中になる。
「熱帯魚って目に楽しいよね」
「綺麗だもんな。癒されるねー」
「ねー」
「シロクマとかアザラシもいるんだ」
「海の生き物だからじゃない?でっかー、毛並み良さそー」
「モフってみたい」
「同じく」
「………カワイイ」
「どれが?」
「あのウツボ」
「……ウソでしょ?ウツボかわいいって言う奴初めて見た」
「あ、オモシロイ顔…見てみろよアイツ」
「ホントだ。てつろーの髪型とイイ勝負だ」
「オイ」
「カメ見てると悠久って言葉を思い出す」
「飛んでるみたいだよね。てか、デカい」
「な。思った以上にデカいな」
「イワシの群れ…」
「サバの大軍…」
「「──美味そう」」
涼しい室内。目の前に広がる煌めきの世界。
そこそこの客足の水族館。手を繋いでゆっくり見て回っている。
一つの水槽の前で二人してじーっと見詰めては感想を漏らし、隣に移動してはじーっと見詰め、多分他の人よりも長めに一つ所に留まっている以外は、有り触れた水族館の回り方をしている。
周りには、家族連れや友達同士、恋人と思しき親密度で見て回る人達がいて、私達もそんな一つになっている。
「魚見るとどうして美味しそうって言っちゃうんだろ」
「そのまんま食えるからじゃね?」
「牛とか豚は、見ても美味しそうって言わないのに」
「アッチは加工するからネ」
「どっちも同じなのにね」
「………詩庵のその分け隔てない所、好きだよ」
「………………アリガト」
鉄朗を見上げてみれば、優しい眼差しをこっちに向けていた。
ちょっと照れ臭くてすぐに水槽に視線を戻す。
「そろそろイルカショーの時間だ。行くか」
「ん」
言うや、鉄朗が私の手をやんわり握り直して歩き出す。
普通に繋いだ手だけど、お互いにちょっとだけ汗をかいていて、そこだけが外の気温みたいに熱かった。
イルカショーが始まる30分前くらいに着くと、席はそこそこの埋まり具合だった。
やっぱり人気があるし、コレを目当てにして来てる人は多いだろう。
私達は一番後ろの席に座った。前後左右空いてて他の客とは離れてる。
隣に知らない人がいるのが苦手だから、そんな私だと知ってるから、鉄朗が極自然に選んでくれた事が嬉しかった。
後から隣や前に来る可能性はあるけど、後方はそれなりに空いてるからワザワザ近くに来るコトは少ないだろう。
「イルカショー終わったらどうする?」
「もっかい回りたい」
「おかわりコースですか。リョーカイ」
閉館までまだ時間があるから、まだまだ鉄朗とこの空間を楽しみたいと思った。
そんな会話をしながら待って、いよいよイルカショーが始まった。
前方の近い席に座る子供達や大人達も楽しそうにはしゃいでいるのが見える。
後方に座る恋人達の中には、ショーを見ないで自分達の世界の人がいたりもして、色んな人達がいるなぁってボンヤリ思った。
「………なんか」
「ん?」
「イルカ見てると、しょーよー思い出す」
「チビちゃん?……あぁ、よく跳ぶから?」
「うん。見てて飽きないよね」
「………研磨と同じカオしてるぞ、お前」
「研磨も楽しそうだよね」
「まぁな。チビちゃんとの出会いは、研磨にとって良いものだったみたいだし」
鉄朗を窺えば、優しい顔をしていた。
「てつろーも、楽しそうで何より」
「え?俺?」
「うん。烏野と遊ぶ時、本当に楽しそうにしてたもん」
「遊ぶって……愉快な言い方してくれるね」
「だって、遊んでるみたいに試合してるから」
「まぁ、実際アイツらとやんの楽しいけどね」
なんて、イルカショーを見ながらそんな会話もしていた。
場所がどこだろうと、どんなシチュエーションだろうと、私達の空気は変わらない。
デートっていっても自分達の世界に浸るような甘い空気が流れるコトもない。
私がそうさせないだけで、鉄朗はきっと甘いほうに持って行きたがってるけど。
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