シニックナザレゴト
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「うおおおおお…!?」
こんな奇声から始まるのもどうかと思うけど、そんな奇声を上げられたんじゃあしょうがない。
放課後に訪ねた此処、男子バレー部の部室。
ドアをノックして出てきた男子に取り合えず声をかけた。
…ら、奇声を上げられた。
「山本うるせー!」
「す、すんません!でもっ、じじじ女子が俺に声かけてきてっ」
かーなり興奮している彼に、若干引きかける。
出たのがアナタだったからたまたまなのに。
「女子?………って、あら~?詩庵ちゃんじゃないの」
山本君の後ろからひょっこりと顔を見せてすぐにニヤリと笑みを深めるトサカヘッドから物凄い見下ろされる。
「わざわざ着替え中の部室になんて来ちゃって、詩庵ちゃんってばエッチ」
なんか、思い切り殴りたい衝動に駆られる。
ムカつく。
「研磨いる?」
一切の反応を示さずにこっちの用件だけ告げれば、彼からからかいの表情が消えていく。
「はいはい研磨ね。研磨くーん、お友達ですよー」
部室の中に向かって言ってる最中、隙間からちらりと見えた室内に研磨の姿があった。
制服から練習着に着替えてるのだろう。いつにも増して猫背な背中がTシャツに隠れていく。
「友達ってダレ……」
袖に腕を通しながらこっちに来て私と目が合えば、ああ…と短い声を上げた。
二人を押し退けて私の前に立って、そこでようやく着替えを終える。
「何?どうしたの」
「英語のノート貸してほしくて」
「英語……ああ、ちょっと待ってて」
中に戻ってすぐにノートを持って来てくれる研磨を待つ。
「…………」
黙って待ってる間、頭上から鋭い視線を感じるが気丈にスルー。
きっと目を合わせたらダメなヤツだから。
「はい。すぐ返してね」
抑揚のない声と表情でノートを差し出してくる研磨にお礼を言いながら手を伸ばす。
ノートを受け取──
「の前に」
──ろうとしたら、横からノートをかっさらわれた。
私達より高く上がったノートを追って手を伸ばす。
「ちょ、返してよ!てつろー!」
「俺の質問に答えたらな」
手を伸ばしても更に高く上げられて、どうしたって届かない。
ノートを追った拍子に鉄朗とまで目が合う。
やっぱり合わせちゃダメなヤツだった。にっこりとしてはいるが目が全然笑ってない。
観念して手を下ろして何と聞き返した。
「お前授業サボったのか」
「サボってないし」
「じゃあなんで研磨にノート借りんだよ」
「休んだだけだし」
「理由なく休むのはサボりと言います」
「………生理痛で」
「詩庵今生理じゃねーだろ」
「…………………………」
てか、え…。
「ん?どした?言い訳終わりか?」
「いや、え…なんで私が生理じゃないって知ってんの?」
「お前の生理周期なんて把握済みです」
そんなドヤられても、ほら見て。研磨もドン引きだし。
「ぅ、わ…やだやだやだ!怖い怖い!生理周期知ってるとか気持ち悪いから!」
「っ、シッツレーな奴だなぁ!お前なぁ!生理の時いっつも貧血起こして倒れてんだろ!?その度に世話してるんだから覚えるっつーの!」
「や、だからって………ないわー」
「あのなぁ、研磨だって知ってんぞ」
「は?…てか、おれ関係ないし」
不意に話を振られた研磨は不機嫌に顔を逸らす。
確かに、元々貧血気味だから生理の時はフラつくし、最悪倒れる。
クラスメイトの研磨がそれを知っててもおかしな事じゃない。
報告が鉄朗に行ってたってそれもおかしな話じゃない。
でも、私が言いたいのはそういう事じゃない!
「例え知ってたからってこんな公衆の面前で言う!?」
「お前が生理痛って嘘つくのがいけないんですぅ!」
「はぁあ!?嘘じゃないし!」
「へぇ~、だったら証拠見せてみろよ」
「バッカじゃないの!!見せれるわけないじゃん!!」
「なんで?別に減るもんじゃねーだろ」
「………い、やいやいやいやいや!見たいとか変態じゃん!」
「見たいなんて言ってません。証拠を見せなさいって言ったんです」
「意味同じだし!なんなの!?そんなに血を見たいの!?」
「詩庵ちゃんが本当の事言ってくれないんじゃあ、見せてもらうしかないよなぁ」
ニタニタと笑って一歩歩み寄られれば、私の足も危機感に駆られて一歩後ずさる。
「ほらどーすんの?見せるの?言うの?」
ジリジリと近寄り、鉄朗の手がスカートの裾から太股に触れてきた。
するりと撫で上げるように徐々に上がってくる手。
いや、まさか鉄朗でもそんな…非常識な事は………しそうな雰囲気なんですけど!
「詩庵ちゃんは今本当に生理なんですか?」
「う…や…あの、だから…」
万事休す!
──ドスゥ!!
「グッハ!」
…と思った直後、鉄朗が悶絶してくず折れた。
脇腹を押さえてその場にうずくまるのを私はハテナを浮かべながら見下ろした。
え、何?
なんで急に鉄朗がこんな……いや、助かったからいいけどさ。
「場所を弁えろ。痴話喧嘩ならよそでやれ」
そう怒った声を上げるのは、鉄朗の後ろから現れた夜久さんだった。
「っっ、夜久さん…クリティカルなんですけど」
「そりゃあ良かった」
あの鉄朗が本気で痛がるのを見るに、夜久さんの手刀恐るべし。
「てか見てみろ!お前らのデリカシーない会話でアイツら固まっちまってるじゃねぇか!」
そう言って夜久さんが指差した先を見やれば…
「ん?……あれあれ~?山本君に犬岡君。どうしちゃったのかなぁ?」
鉄朗が楽しげに名指しする。痛みはもういいのか?
彼らだけじゃなくて他にも何人か、本当に固まってたり顔を真っ赤にさせてたり、中には前屈みに項垂れてる人もいた。
「うるせーバカ尾!」
「いった!」
夜久さんから拳骨が降る。
普段なら拳骨なんて出来ないんだろうけど、今鉄朗はしゃがんでるし、夜久さんより頭が下にあるから楽々。
「お前も、今ろくでもねぇ事考えただろ」
「ふぇ!?い、いえ!そんな!滅相もございません!」
意外と勘の鋭い夜久さんに慌てて首を振れば、夜久さんはフンと鼻を鳴らして見逃してくれた。
「まぁさー、確かに俺が悪かったけどね」
急にゆらりと立ち上がった鉄朗が染々と声を上げる。
「これくらいでそんなんなってどーすんのお前ら」
寝癖全開のトサカ頭を掻きながら、鉄朗は彼らを呆れた様子で見やる。
いや、申し訳ない事したのこっちだし。てか、何気に私も恥ずかしいし。
「カノジョ出来た時にそんなんじゃダメだろー」
ん?なんかからかうというよりも諭すような口調になってる。
鉄朗の雰囲気もちょっと真面目さを醸してるし。
「生理って女の子には大事なモンで大変なモンでしょ。男もちゃーんと知っといてあげなきゃ」
「…………てつろー」
やだ。なんかきゅんと来た。
そっか。鉄朗はその大変さを知る為に…
あ、どうしよう…。
鉄朗がカッコ良く見えてきた。
「それに、いざセックスする時に血だらけなんてお互い嫌でしょ」
・・・・・・・・・・・。
今ので山本君が血だらけになりましたけど。
「ま、そういうのが好きなら勝手にドーゾだけどね」
てゆーか…
「オイ黒尾」
「ちょっとクロ」
「てつろー…」
「ん?え…何?3人とも殺気ダッテルヨ?ドウシタノ?」
夜久さんと研磨、そして私。
考える事は一緒みたいだ。
鉄朗ににじり寄って…
「「サイッテー!!」」
ありったけの軽蔑を込めた声が重なる。
そして…
「え、ちょ…ゴメンって…いや、マジで…調子乗っ──」
──バッチーーーン!!!
「っっっテー!!」
私の平手打ちを喰らわせた。
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